「建設業許可の注記表を作ろうとしたけど、項目がたくさんあって難しそうだ」
「ネットで注記表を調べたけど、どれから手をつけたらいいかわからない」
「注記表を初心者にもわかりやすく説明してくれないかな?」
などの不満はありませんか?
ネット上の情報は様々で、注記表の作成について何を参考にしたらよいかわからず、一歩目で挫折しがちです。ここでは建設業許可に必要な注記表について初めて作成する方にも一つずつわかりやすく説明していきます。
この記事を最後までしっかり読めば、注記表の作成を理解し挫折せずスムーズに取り組めるでしょう。書類完成に向けてぜひお役立てください。
【建設業許可】注記表の書き方
早速記載例を参考に注記表を作成しましょう。
注記表(様式第十七号の二)のフォーマットは、国土交通省の許可申請書及び添付書類(PDF:65ページ~)や各都道府県のHP[東京は東京都都市整備局の建設業許可手引、申請書類等の本冊No.10:17号の2 財務諸表注記表(Word形式)]から様式をダウンロードできます。
※法改正により令和3年1月1日以降の申請から申請書類への押印が不要となっています。
【1ページ目】
まず日付の期間について、事業年度を記入します。自は「じ」、至は「し」と読み「~より~いたる」という意味です。事業年度はその会社の決算の対象となる期間のことです。自由に決められますが一般的に区切りとなる1年間で設定します。
記載例では令和4年4月1日から令和5年3月31日までの1年間です。後述の財務諸表、損益計算書についても同じです。会社計算規則第59条第2項において、当該期間は前事業年度末日の翌日から1年を超えられません(前事業年度がない場合は事業年度開始日から)。
1年を超えなければ6ヵ月など短い期間は認められます(例外として事業年度を変更する場合につき、1年6ヵ月まで認められています)。次に法人名を記入します。注記表は法人のみ必要で個人事業では不要です。
項目1は記載不要なので「該当なし」です。
2重要な会計方針
書くボリュームが一番多い項目ですのでしっかり書きましょう。
記載要領(PDF:P2.注2|東京都都市整備局)の通り、重要度の低いものは除きます。
(1)資産の評価基準及び評価方法
有価証券や棚卸資産など当てはまる資産の評価基準及び評価方法を書きます。
評価方法の種類で有価証券は時価法・移動平均法・総平均法、棚卸資産は移動平均法・総平均法・先入先出法・最終仕入原価法など。
(2)固定資産の減価償却の方法
有形固定資産や無形固定資産について詳しく書きます。
(3)引当金の計上基準
貸倒引当金をはじめ、賞与引当金、退職給付引当金などについてそれぞれの計上基準を書きます。
(4)収益及び費用の計上基準
工事収益は工事完成基準と工事進行基準があり、工事費用は発生主義と現金主義があります。該当する計上基準を書きます。
(5)消費税及び地方消費税に相当する額の会計処理の方法
会計処理が税抜と税込のどちらなのか書きます。経審(経営事項審査)の場合税抜であることが求められます。
(6)その他貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表作成のための基本となる重要な事項
会計について重要なものがあれば書きます。なければ「該当なし」でOK。
3会計方針の変更・4表示方法の変更・5会計上の見積りの変更・6誤謬(ごびゅう)の訂正・7貸借対照表関係・8損益計算書関係まで特に記載するものがなければ「該当なし」です。次に2ページ目を説明します。
【2ページ目】
※(4)関係会社との営業取引以外の取引高、(5)研究開発費の総額(会計監査人を設置している会社に限る。)は1ページ目「8損益計算書関係」の項目です。
9株主資本等変動計算書関係
(1)~(4)まで全ての【株式会社】は必ず記入します。
(1)事業年度末日における発行済株式の種類及び数
株式の種類と株数を書きます。表記は普通株式 △△△株(△に数字)など。
(2)事業年度末日における自己株式の種類及び数(3)剰余金の配当(4)事業年度末において発行している新株予約権の目的となる株式の種類及び数にも当てはまる株式の種類と株数を書きます。なければ記載例のように「該当なし」です。
項目10~17は記載不要なので「該当なし」です。
18その他は全ての「法人」は必ず記入しますが、特に伝えることがなければ「該当なし」です。
- 多くの会社は【株式譲渡制限会社】に当たります。株式譲渡制限会社とは全ての株式に自由に譲渡できないよう、制限をつけている会社のことです。逆に株式の譲渡制限がない・一部にある会社が公開会社です。
- 「これから18項目を全部やらなくては」と思ったかもしれませんが、記載要領(PDF|東京都都市整備局)の表では株式譲渡制限会社の記入箇所が大幅に減ります(下記青字部分)ので安心してください。
〇印の2・3・4・6・9・18の6項目について書くだけです!ここをしっかり押さえましょう。
注記表の役割について
注記表とは、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書などについての重要な補足事項をまとめたものです。
注記表のはじまりは貸借対照表や損益計算書に注記を記載するやり方でしたが、注記項目の増加により新たに注記表が追加されたというものです。
これにより、各書類の注記を一つにまとめて見られるという利点があります。
もちろん、注記表を使わず貸借対照表・損益計算書のそれぞれの適当な箇所に注記を記載して間に合えばそれでも大丈夫です。
貸借対照表や損益計算書など数値で示される書類には、注記表が経営状態を知るのに必要不可欠です。
ポイント
建設業許可で扱う貸借対照表・損益計算書は建設業法で定めた独自の書式です。税務申告で扱う書式もありますが、それとは異なります。
各種相談はおさだ事務所へ
建設業許可には貸借対照表や損益計算書など、会計に関する知識も必要です。日々の業務をこなしながら、慣れない書類作成に取り組むのは大きな負担となります。また多くの書類を手がけている内に、次々と疑問や不安が出てくるものです。
「自分でやろうと思ったけど、準備や進め方がわからない…」などお困りでしたら、行政書士へ相談してみると良いでしょう。おさだ事務所では東京都の建設業許可を専門に、申請手続きに関わるサポートをしております。
東京都内の許可の取得をお考えであれば、ぜひおさだ事務所をご利用ください。お待ちしております。
財務諸表とその表紙について
建設業許可における財務諸表は、様式15号(貸借対照表)・16号(損益計算書・完成工事原価報告書)・17号(株主資本等変動計算書)・17号の2(注記表)・17号の3(附属明細表)からなります。
これらは法人用で、個人用のみで使用するのに18号と19号(それぞれ貸借対照表と損益計算書)があります。ここでは様式15号(貸借対照表)と16号(損益計算書・完成工事原価報告書)を取り上げます。
貸借対照表と損益計算書は、会社の決算時に必要な大事な書類ですのでよく目を通してください。
それでは財務諸表の表紙から始めましょう。
【表紙】
事業年度と会社名を記入します。事業年度は注記表と同じ期間です。続いて貸借対照表を見ていきます。
貸借対照表の書き方
【1ページ目】
- 決算日、会社名を記入します(➀)。
- それぞれの金額は千円単位で表示します(②)。千円未満は切り捨てるので合計と一致しない場合がありますが、そのままで大丈夫です。
- 資産の損失は△で表示し、差し引きます。
【2ページ目】
- 固定資産合計(㋔)は、有形固定資産合計(1ページ目)+無形固定資産合計+投資その他の資産合計
- 資産合計(㋖)は、流動資産合計(1ページ目)+固定資産合計+繰延資産合計
ポイント
資産合計(㋖)は、3ページ目の負債純資産合計(㋨)と完全一致させる(97,671千円)必要があります。
【3ページ目】
- 負債合計(㋙)は、流動負債合計(2ページ目)+固定負債合計
- 利益剰余金合計(㋠)は、利益準備金+準備金+積立金+繰越利益剰余金
- 株主資本合計(㋢)は、資本金+新株式申込証拠金+資本剰余金合計+利益剰余金合計+自己株式+自己株式申込証拠金
- 純資産合計(㋧)は、株主資本合計+土地再評価差額金+評価・換算差額等合計
- 負債純資産合計(㋨)は、負債合計+純資産合計
ポイント
負債純資産合計(㋨)は、2ページ目の資産合計(㋖)と完全一致させる(97,671千円)必要があります。
貸借対照表とは
貸借対照表はその会社の資産・負債・純資産の内訳がわかる表のことです。貸借対照表を読み取れば会社の財政状況が一目でわかります。
(1)「資産の部」(1、2ページ目)
会社が保有する財産に当たります。主なものは「流動資産」に現金預金、有価証券、短期貸付金、「固定資産」に建物・構築物、土地、「無形固定資産」に特許権、「投資その他の資産」に投資有価証券、長期貸付金などです。
(2)「負債の部」(2、3ページ目)
この部分は支出で、会社の借金に当たります。主なものは「流動負債」に短期借入金、未払金、引当金、「固定負債」に社債、長期借入金、引当金などです。
引当金とは、将来費用や損失が発生すると想定し設定している金額のことです。
(3)「純資産の部」(3ページ目)
純資産とは資産から負債を差し引いた金額です。
必ず資産=負債+純資産となります。この関係が貸借対照表がバランスシートとも呼ばれる理由で、財政状況の分析に役立っています。
資産における純資産の比率が高ければ、経営状態が良好だと言えるでしょう。
貸借対照表の覚え方
貸借対照表は大きく「資産の部」「負債の部」「純資産の部」に分かれています。それぞれ
- 「資産の部」の内訳は流動資産、固定資産、繰延資産(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)
- 「負債の部」の内訳は流動負債、固定負債、(Ⅰ・Ⅱ)
- 「純資産の部」の内訳は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)
に枝分かれ、8項目押さえれば良いのがわかります。
細かいことが多く難しそうでしたが、大まかに分けるとやりやすいですね。
ここまで読んで貸借対照表は理解できました。これを踏まえ損益計算書と完成工事原価報告書の書き方も見ていきましょう。
損益計算書・完成工事原価報告書の書き方
【1ページ目】
- 事業年度と会社名を記入します。事業年度は注記表と同じです。
- それぞれの金額は千円単位で表示します。ここでも千円未満は切り捨てるので合計と一致しない場合がありますが、そのままで大丈夫です。
- 売上高は建設の完成工事と兼業事業(建設工事でないもの)とを分けて計算します。
- 売上総利益(㋱)は、完成工事総利益(㋯)+兼業事業総利益(㋰)=売上高(㋫)-売上原価(㋮)
- 営業利益(㋳)は、売上総利益(㋱)-販売費及び一般管理費(㋲)
ポイント
完成工事原価(㋬)は、完成工事原価報告書(2ページ目)の完成工事原価[(6)]と完全一致させる(301,234千円)必要があります。
【2ページ目】
- 労務費は建設工事に関わった職員にのみ支給した給与や手当を記入します。
- 外注費は別業者(下請け)と契約してかかった費用を記入します。
- 人件費は経費のうち建設工事に関わった職員の福利厚生費を記入します。
- 各項目で該当なしの場合は0を記入します。
- 経常利益(㋻)は、営業利益(㋳)(1ページ目)+営業外収益(㋙)-営業外費用(㋵)
- 税引前当期純利益[(3)]は、経常利益(㋻)+特別利益[(1)]-特別損失[(2)]
- 当期純利益[(5)]は、税引前当期純利益[(3)]-法人税、住民税及び事業税[(4)]
ポイント
完成工事原価[(6)]は、損益計算書(1ページ目)の完成工事原価(㋬)と完全一致させる(301,234千円)必要があります。
損益計算書・完成工事原価報告書とは
損益計算書を見ることで、その会社の収益性がどれだけあるかがわかります。事業期間内の会社の費用・売上・利益を表した計算書でどれだけ費用をかけ、どのような売上を出し、その結果どんな利益を得たのかがわかります。
完成工事原価報告書は、事業期間内に完成した工事の材料費・労務費・経費・外注費についての原価を計上し、その合計を提示します。
損益計算書と完成工事原価報告書は互いの完成工事原価が一致し、関係性が高いのでセットで覚えて作成しましょう。
損益計算書・完成工事原価報告書の覚え方
損益計算書は大まかに7項目(売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失)、完成工事原価報告書は4項目(材料費、労務費、外注費、経費)に分かれています。合わせて11項目を押さえましょう。
この中で販売費及び一般管理費の記入スペースが22か所続くので、記入ミスがないよう注意します。それ以外は貸借対照表と比べると作成しやすいでしょう。
損益計算書は1つずつしっかり計算していけばうまくいきます!ぜひ完成させましょう!
まとめ
今回は注記表・貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書までしっかり説明しました。この記事を読んでみて難しくないと感じ、ご理解と作成へ前向きになれると幸いです。注記表・貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書についてはご自身で作成できます。一つずつ埋めていけばそんなに難しい所はなく、必ず完成し知識も付くはずです。
これら建設業許可の財務諸表に詳しくなれば、関連した様々な書類作成に役立ちます。建設業許可では書類が多く、審査も厳しいですが取り組める書類から少しずつやって前へ進みましょう。
それでも取り組む際に不明な点や、忙しくなり書類の作成・申請手続きをやって欲しいなどお悩みも出てきます。その時はぜひお近くの行政書士や専門家に相談しましょう。建設業許可に詳しいおさだ事務所では、スムーズに取り組めるようあなたをサポートいたします。