令和8年7月1日から、経営事項審査(経審)の制度が改正されました。
今回の改正では、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の新設、CCUS(建設キャリアアップシステム)の評価見直し、建設機械の加点対象の拡大、社会保険加入に関する評価項目の削除などが行われています。
特に注目したいのが、技能者の処遇改善や担い手確保に取り組む企業を評価する新たな加点項目です。
今回は、令和8年7月1日改正のポイントと、建設業者が今後どのような準備をすればよいのかを解説します。
令和8年7月1日改正のポイント

今回の改正は、令和8年7月1日以降に経営事項審査を申請する場合に適用されています。
適用時期は、審査基準日(原則として直前の決算日)ではなく、経審を申請する日によって判断される点に注意しましょう。
主な変更点は次の4つです。
- 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の加点項目を新設
- CCUSによる就業履歴蓄積措置の配点を見直し
- 不整地運搬車・アスファルト・フィニッシャを加点対象に追加
- 社会保険加入に関する評価項目(W1-1~W1-3)を削除
それぞれ詳しく見ていきましょう。
その他社会性(W)の大幅見直し
今回の改正では、経審の「その他の審査項目(社会性等)」であるWが大きく見直されました。
Wは、建設業における担い手の育成・確保、防災活動、法令遵守、建設機械の保有など、企業の社会性や取り組みを評価する項目です。
令和8年改正では、技能者の処遇改善を後押しする新たな評価項目が設けられる一方、これまで評価されていた社会保険加入状況の項目が削除されています。
新設|「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」
今回の改正で新設されたのが、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の宣言状況を評価する項目です。
この制度は、建設技能者の処遇改善に取り組む企業が、その姿勢や取り組みを自主的に宣言するものです。
適切な労務費の確保、CCUSの利用環境整備、技能レベルに応じた賃金・手当、週休2日制などが宣言内容の例として挙げられています。
経審では、5点の加点となります。
ただし、単に自主宣言を行えば加点されるわけではありません。
主な要件は次のとおりです。
- 審査基準日以前に自主宣言を行っていること
- 審査基準日に宣言が有効であること
- 元請事業者または下請事業者の立場で宣言していること
- 宣言書を提出すること
- 宣言した取り組みについて、取組開始日以降に「行う」または「行っている」旨の誓約書を提出すること
なお、発注者の立場で行った宣言は経審の加点対象になりません。
また、誓約した取り組みを実際に行っていない場合には、虚偽申請として建設業法に違反するおそれがあるため、加点だけを目的に形式的な宣言をすることは避ける必要があります。
配点見直し|CCUSによる就業履歴蓄積措置
CCUSによって建設技能者の就業履歴を蓄積するための措置についても、配点が変更されました。
改正前と改正後の配点は次のとおりです。
| 対象となる工事 | 改正前 | 改正後 |
| 民間工事を含むすべての建設工事 | 15点 | 10点 |
| すべての公共工事 | 10点 | 5点 |
CCUSの就業履歴蓄積に関する評価は、それぞれ5点ずつ引き下げられました。
一方で、今回の改正では自主宣言制度が新たに5点の加点対象となっています。
配点は引き下げられましたが、CCUSによる就業履歴の蓄積は引き続き経審の評価対象です。
建設機械の加点対象拡大
建設機械の保有状況についても、加点対象となる機械が追加されました。
今回、新たに対象となったのは次の2機種です。
- 不整地運搬車
- アスファルト・フィニッシャ
これらは、災害時の復旧対応や道路舗装などで活用される機械です。
建設機械の保有状況については、従来の対象機械と合わせ、保有台数に応じて最大15点が加点されます。
14台以上保有する場合に最大点となります。
社会保険加入項目(W1-1~W1-3)の削除
今回の改正では、これまで設けられていた社会保険加入に関する評価項目が削除されました。
対象となっていたのは、
- 雇用保険の未加入
- 健康保険の未加入
- 厚生年金保険の未加入
の3項目です。
従来は、それぞれ未加入の場合に40点の減点がありました。
今回、このW1-1〜W1-3が経審の審査項目から削除されています。
背景には、令和2年10月1日以降、建設業許可の要件に社会保険加入が追加されたことがあります。
令和7年10月1日以降は、更新された建設業許可を保有する建設業者について社会保険加入要件を満たしていることになるため、経審で改めて加入状況を評価する必要性が低くなったとされています。
ただし、社会保険への加入義務そのものがなくなったわけではありません。
Wの最低点変更と総合評定値Pへの影響
今回の改正では、Wの最低点についても見直しが行われました。
改正前はWの最低点が▲210点でしたが、改正後は▲90点となっています。
また、Wの見直しに伴って、総合評定値Pについても最低点が変更され、改正後は163点となります。
令和8年7月1日改正後のPは、X1・X2・Y・Z・Wの各評点に一定のウェイトを掛けて算出されます。
ただし、これは「すべての企業のP点が上がる」という意味ではありません。
今回の改正によってWの評価方法そのものが変わっているため、企業によってP点への影響は異なります。
自社の経審結果にどの程度影響するかは、改正後の評価基準で確認する必要があります。
令和8年改正の背景

今回の経審改正は、単に評価項目を入れ替えただけではありません。
建設業が抱える「担い手不足」や「技能者の処遇改善」、さらに地震や豪雨などの災害に備えた「地域の守り手としての災害対応力」など、現在の建設業界が直面する課題が背景にあります。
社会保険加入のように、すでに建設業許可制度で対応が進んだ項目を整理する一方、今後さらに重要となる人材育成や災害対応を評価する方向へ制度が見直されています。
担い手確保・育成|第三次担い手3法への対応
今回の改正の大きな背景の一つが、建設業の担い手不足です。
建設業では、技能者の高齢化や若年層の入職者不足が課題となっています。
こうした状況を踏まえ、技能者の処遇改善や労務費の確保、CCUSの活用などを進める取り組みが重視されています。
今回の経審改正でも、単に企業規模や財務状況を見るだけでなく、技能者を大切にする企業の取り組みを評価する仕組みが新たに設けられました。
自主宣言制度の加点は、その代表的な取り組みです。
災害対応力の強化
日本では地震や豪雨などの自然災害が多く、災害発生時には建設業者が道路やインフラの応急復旧を担うことがあります。
今回、建設機械の加点対象に不整地運搬車とアスファルト・フィニッシャが追加されたのも、災害時の復旧対応における建設機械の役割を評価するためです。
特に令和6年能登半島地震での活用実績などを踏まえ、災害対応に活用できる機械を保有する企業を評価する仕組みが拡充されました。
社会保険加入義務化に伴う審査項目の整理
社会保険加入については、建設業許可の要件として加入が求められるようになったことから、経審での評価項目が削除されました。
これは社会保険制度の重要性が低下したということではなく、建設業許可の段階で確認される事項と経審で評価する事項を整理したものと考えるとわかりやすいでしょう。
経営事項審査(経審)とは

令和8年7月1日の改正内容を理解するためには、まず経営事項審査(経審)がどのような制度なのかを確認しておく必要があります。
経審は、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者にとって重要な審査制度です。
完成工事高や財務内容、技術力、社会性などが点数化され、その結果が公共工事の入札参加資格審査などに活用されます。
ここでは、経審の基本的な仕組みを解説します。
経審の目的と役割
経営事項審査(経審)は、国や地方公共団体などが発注する公共工事を、建設業者が発注者から直接請け負おうとする場合に受ける審査です。
公共工事の入札参加資格審査では、発注者が企業の経営規模や技術力などを評価します。
そのうち、全国的に統一された基準で客観的に評価する部分が経営事項審査です。
経審では、完成工事高、自己資本額、経営状況、技術力、社会性などを点数化します。
その結果として算出される「総合評定値(P)」は、公共工事の入札参加資格審査などで活用されます。
総合評定値Pの仕組み
総合評定値(P)は、次の5つの評価項目から算出されます。
- X1:完成工事高
- X2:自己資本額・利益額
- Y:経営状況
- Z:技術力
- W:その他の社会性等
現在の算式は、
P=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15W
です。
このうちWには、担い手の育成・確保、防災活動、法令遵守、建設機械の保有などに関する評価が含まれています。
今回の改正では、このWの評価項目が大きく見直されたため、公共工事への参入を目指す企業にとって重要な改正となっています。
経審が必要となる場面
公共工事を発注者から直接請け負う場合、原則として経審を受ける必要があります。
対象となる公共工事は、原則として1件の請負代金が500万円以上の建設工事です。
ただし、建築一式工事については1,500万円以上となります。
また、災害時の応急工事など、一部には経審の対象外となる例外があります。
経審には有効期間があり、経審の結果は、審査基準日から1年7か月間有効です。
公共工事の契約締結時には、契約締結日の1年7か月前以降の決算日を審査基準日とする経審を受け、その結果通知書の交付を受ける必要があります。
そのため、毎年公共工事を直接請け負う企業は、経審の有効期間に空白が生じないよう、決算後の受審スケジュールを管理することが重要です。
なお、経審と入札参加資格申請は別の手続きです。
経審を受けただけで、すべての公共工事の入札に参加できるわけではありません。
令和8年7月1日改正で注意したいポイント

今回の改正では、加点項目が新設された一方で、既存の評価項目の配点が引き下げられたり、削除されたりしています。
そのため、「新しい加点項目だけ確認すればよい」というわけではありません。
自主宣言制度の要件やCCUSの配点変更、建設機械の評価対象、社会保険項目の削除などを一つずつ確認することが大切です。
ここでは、経審を申請する建設業者が特に注意したいポイントを整理します。
自主宣言制度の加点要件を確認する
自主宣言制度は、宣言しただけで自動的に経審へ加点されるわけではありません。
特に重要なのが、審査基準日と宣言日、取組開始日の関係です。
審査基準日に有効な宣言を行っていることに加え、宣言した取り組みについて取組開始日以降に「行う」または「行っている」旨を誓約する必要があります。
また、経審では宣言書と所定の誓約書を提出します。
申請前に、宣言の有効期間や取組開始日を確認しておきましょう。
CCUSの配点変更を確認する
CCUSの就業履歴蓄積措置は、改正後も経審の評価対象です。
ただし、民間工事を含むすべての建設工事では15点から10点へ、公共工事では10点から5点へと配点が引き下げられました。
そのため、CCUSの活用については「経審で何点取れるか」だけを見るのではなく、技能者の就業履歴を適切に蓄積するための仕組みとして継続して運用することが大切です。
建設機械の保有状況を確認する
今回、新たに不整地運搬車とアスファルト・フィニッシャが評価対象に加わりました。
これらの機械を保有している企業は、自社の保有機械が評価対象となるか、必要な検査・確認書類がそろっているかを確認しておきましょう。
建設機械の保有状況は、対象となる機械の台数に応じて最大15点の評価となります。
社会保険項目が削除されても加入義務はなくならない
社会保険加入に関するW1-1〜W1-3が削除されたことで、経審における未加入による減点はなくなります。
しかし、これは社会保険への加入義務がなくなったことを意味しません。
建設業許可制度では社会保険加入が引き続き重要な要件となっています。
そのため、「経審から項目がなくなったから社会保険に加入しなくてもよい」と誤解しないよう注意してください。
経審前に建設業者が準備をしておくこと

令和8年改正によって、すべての建設業者の総合評定値(P)が一律に上がるわけではありません。
企業が取り組んでいる内容や保有する建設機械、CCUSの運用状況などによって、P点への影響は異なります。
今回の改正を経審対策だけでなく、自社の人材確保や技能者の育成、災害対応力を見直す機会として活用することも重要です。
ここでは、建設業者が今から確認・準備しておきたい事項を紹介します。
自主宣言制度の内容を確認する
自主宣言を行う場合は、自社がどのような取り組みをするのかを整理しましょう。
すでに宣言している企業は、宣言の有効期間、宣言日、取組開始日を確認し、経審の審査基準日に要件を満たしているかを確認することが大切です。
また、経審で加点を受ける場合には、宣言書と誓約書などの必要書類を準備します。
CCUSの運用を見直す
CCUSを利用している企業は、技能者の就業履歴が適切に蓄積されているかを確認しましょう。
カードリーダーなどの登録だけでなく、現場で確実に就業履歴を蓄積できる運用体制を整えることが重要です。
配点は引き下げられましたが、CCUSは技能者の能力・経験を蓄積する仕組みとして、引き続き重要な制度です。
建設機械の保有状況を確認する
不整地運搬車やアスファルト・フィニッシャを保有している場合は、今回の改正によって評価対象となる可能性があります。
自社が保有する建設機械の種類、台数、必要な検査の実施状況などを確認し、経審申請時に必要となる書類を整理しておきましょう。
技能者の育成・処遇改善を整理する
自主宣言制度への対応を検討する場合は、現在行っている取り組みを洗い出すことも重要です。
例えば、
- 資格取得費用の支援
- 技能レベルに応じた手当
- 賃金・給与体系の見直し
- 週休2日制など休日確保への取り組み
- CCUSの利用環境整備
- 技能者の教育・研修
などが考えられます。
経審対策だけを目的にするのではなく、人材の確保・定着につながる取り組みとして継続することが重要です。
【参考サイト】
国土交通省|経営事項審査の主な改正事項(令和8年7月1日施行)
経営事項審査制度の概要について | 建設産業 | 国土交通省 関東地方整備局


