令和8年度の労働保険年度更新が始まりました。
申請期間は6月1日から7月10日までで、期間内の申告が推奨されています。
今回は年度更新に関するよくある質問に焦点をあて、建設業者が疑問を感じる内容を解説します。
「令和8年度 年度更新に関する解説記事」はこちら
【建設業者向け】令和8年度労働保険の年度更新|提出期限・変更点・書き方を解説! | 建設業専門 おさだ事務所
令和8年度の年度更新で、建設業者が去年と変えなければいけない点はどこですか?
令和8年度(2026年度)は、「電子申請義務化の本格適用」と「雇用保険料率の改定」という2つの大きな変更があり、建設業者にとっても実務対応が必要です。
具体的には下記の変更点があります。
電子申請義務化の本格適用
厚生労働省は行政手続のオンライン化を推進しており、令和8年度から次の法人には紙の申告書が送付されません。
- 資本金・出資金・拠出金が1億円を超える法人
- 相互会社(保険業法)
- 投資法人(投資信託及び投資法人法)
- 特定目的会社(資産流動化法)
これらの事業主には、従来のA4封筒ではなく定形郵便の茶封筒で次の書類が届きます。
- 「電子申請情報通知書」:労働保険番号・アクセスコードなど電子申請に必要な情報
- 「納付書」:電子納付を行わない場合に使用
- 「労災保険率決定通知書」:メリット制対象事業場のみ
- 「案内リーフレット」:電子申請手順や問い合わせ先の説明
この変更により、紙の申告書が届かない場合は電子申請義務化対象である可能性があります。
対象外の事業所で年度更新の書類が届いていない場合は、管轄の労働局や監督署に確認しましょう。
電子申請に伴う必要な準備
電子申請を行うには、次の認証手段のいずれかを取得しておく必要があります。
- GビズIDプライム(法人・個人事業主向け)
- 電子証明書(民間認証局またはマイナンバーカード)
また、申請は「e-Gov(電子政府の総合窓口)」を通じて行うため、事業所情報・労働保険番号・アクセスコードを事前に確認しておくことが重要です。
厚生労働省は「電子申請義務化対象事業主への案内リーフレット」で、準備手順を詳しく説明しています。
雇用保険料率の改定(建設業)
令和8年4月1日から、雇用保険料率が引き下げられました。
建設業の新料率は以下のとおりです。
労働者負担 0.6%
事業主負担1.05%
合計1.65%
前年(令和7年度)は 1.75% だったため、0.1%の引き下げとなります。
一括有期事業の年度更新で注意する点はありますか?
建設業の一括有期事業では、工事ごとの請負金額を正確に集計することが必須です。
継続事業においては、実際に払われた賃金を基に保険料を計算しますが、建設業の現場の労災保険については、元請工事金額に決められた労務費率をかけて労務費を算出します。
厚生労働省は「一括有期事業の適正申告」リーフレットで、次のような誤りが多いとして注意喚起を行っています。
集計対象の範囲
元請として施工した一括有期事業の対象工事が集計対象となり、確定保険料申告においては各工事の労務費率・工期・請負金額などを正確に反映します。
工期変更や金額変更があった場合は、年度更新時に必ず修正して反映します。
概算保険料はおおよその金額を記入するので、支払予定の現場業務に関する賃金を基に計算する、前年確定申告保険料と同額にするなど、事業所の実態に合った金額にしても可です。
集計方法と提出書類
年度更新の際には、次の書類を作成・提出します。
- 報告書(工事別賃金総額・労務費率の内訳)
- 総括表(報告書を基にして全工事の合計をまとめたもの)
これらは「労働保険年度更新申告書(一括有期事業用)」と併せて提出します。
申告前にリーフレットを確認し、工事台帳・契約書・賃金台帳の照合を行うよう推奨しています。
業種ごとの労務費率・保険料率の違い
建設業の中でも、工事の種類(建築・土木・電気・設備など)によって労務費率が異なります。
年度更新前に最新版の労務費率表を確認し、工事種別ごとに正しい率を適用してください。
また、工事の始期によっては料率が異なる場合もありますので事前に確認しておきましょう。
誤りがあった場合のペナルティ
厚生労働省の実地調査では、次のような誤りが多く報告されています。
- 工事ごとの賃金総額の集計漏れ
- 労務費率の誤適用
- 一括有期と単独有期の区分誤り
- 下請工事の扱いの誤解
これらの誤りがあると、追加納付や追徴金(最大10%)が課される場合があります。
下請けの労災保険は元請の年度更新に関係しますか?
下請のみを行う場合、元請が現場労災を成立させるため、自社で現場ごとの労災保険を成立させる必要はありません
従って、下請の労災保険は元請の年度更新には関係ありません。
ただし、労働者を雇っている場合で、事務所等において現場に関する業務以外の労働がある場合は、下請工事のみの業者であっても「事務所労災(継続事業)」に加入する必要があります。
事務所労災が適用されている事業主は、自社で年度更新の必要があります。
また、雇用保険は週20時間以上働く労働者がいる、31日以上の雇用の見込みがある場合に加入の義務があります。
雇用保険は別途成立させる必要があり、該当する場合は雇用保険の年度更新が必要になります。
年度更新で電子申請を使うメリット・デメリットは?
電子申請する際のメリットは下記のものです。
- 24時間提出可能で窓口混雑を回避
- 添付書類のアップロードが容易
- 受付控えが自動保存される
一方、デメリットもあります。
- 電子証明書やGビズIDの取得に時間がかかる
- 操作に慣れるまで手間がかかる
- 地域や申請時期によっては、処理に時間がかかる場合もある
紙提出も可能ですが、電子申請義務化対象事業主は紙の提出は不可です。
また、対象外の事業主であっても、年度更新は電子化が推奨されています。
雇用保険料率が変わると、いくらくらい変わりますか?
いくら低くなるかは、事業所によって異なります。
建設業における雇用保険料率は「1.75% → 1.65%」へ引き下げになります。
令和7年度は 17.5/1,000(1.75%)
令和8年度は 16.5/1,000(1.65%)
失業等給付・育児休業給付の保険料率においては、労働者負担及び事業主負担ともに前年度(令和7年度)の 6.5/1,000 から 6/1,000 へ引き下げられています。
雇用保険二事業(事業主のみ負担)は変更なしで、4.5/1,000 のまま据え置きです。
これにより、合計の令和8年度の建設業における雇用保険料率は、事業主・労働者双方の負担が軽減されています。
料率で前年より0.1%少なくなりますので、その分の雇用保険料が低くなります。
社労士に任せている場合でも、会社側で確認しておくべき数字は?
労働保険の年度更新は、最終的な責任が事業主にある手続きです。
社労士に提出代行を依頼している場合でも、会社側で次の数字を確認する必要があります。
賃金総額(確定・概算)
「前年の確定賃金総額」と「今年度の見込み賃金総額」を正確に把握する必要があります。
建設業の場合、工事ごとの賃金台帳・給与データを照合し、集計漏れがないか確認することが重要です。
誤りがあると保険料の過不足が生じ、後日追加納付や追徴金(最大10%)が発生する可能性があります。
労働保険番号・事業区分
年度更新書類や電子申請では、労働保険番号と事業区分の正確な入力が必須です。
社労士が代行する場合でも、事業所の登録情報が古いままだと申告が受け付けられない場合もあるので、会社側で正確な情報を確認しておきましょう。
工事別の労務費率・請負金額
建設業の一括有期事業では、工事種別ごとに請負金額を正確に集計する必要があります。
社労士が提出代行する場合でも、元データの整合性を会社側で確認しておくことが不可欠です。
雇用保険料率・労災保険率の適用
令和8年度から雇用保険料率が改定され、建設業は1.75%から1.65%に引き下げられました。
給与計算や概算保険料の算定時には、新料率を使用する必要があります。
社労士が計算を行う場合でも、会社側で料率の更新が反映されているか確認しておくと安心です。
特別加入している一人親方は年度更新をしなくてもよい?
一人親方の特別加入の保険料は、事務組合がまとめて納付するため年度更新書類の記載はありません。
一人親方としての特別加入と、事業主としての年度更新は別手続きである点に注意が必要です。
一人親方特別加入とは
労災保険の「一人親方特別加入」は、通常は労働者を対象とする労災保険に、労働者を雇わない建設業の一人親方などが任意で加入できる仕組みです。
この保険料は、事務組合を通じて納付されるため、年度更新には含まれません。
したがって、特別加入制度において、年度更新の申告を行う必要はありません。
元請工事をする一人親方の場合はどうなる?
一人親方であっても、発注者から直接工事を請け負った場合、現場の労災保険に加入する義務が発生します。
この現場における自身の労災保険は特別加入で賄われますが、さらに下請に工事を出す場合は、基本的には元請として加入しなくてはなりません。
元請工事があっても、労働者を使用せず一人親方のみで施工する場合は、現場労災を成立させる必要はありません。
労働者を雇用したら年度更新が必要な場合もある
労働者を雇用した時点で、事業主は「一人親方」ではなく「中小企業主」としての扱いになります。
この場合は、特別加入とは別に労働保険を成立させるケースがあります。
主に下記に該当する場合は、新たに労働保険に加入しなくてはなりません。
- 労働者を雇い、元請工事をする場合は、現場の労災保険に加入する(一括有期事業)
- 労働者を雇い、現場に付随しない業務に従事する労働者がいる場合は、事務所の労災保険に加入する(継続事業)
- 労働者を雇い、その人が週20時間以上の労働がある場合は、雇用保険に加入する
上記に該当し労災保険に加入したら、年度更新の必要があります。
年度更新の「概算保険料」と「確定保険料」はどう違う?
労働保険の年度更新では、前年の実績に基づく「確定保険料」と、今年度の見込みに基づく「概算保険料」の2種類を申告します。
これは、労働保険が「前払い+精算方式」で運用されているためです。
確定保険料とは
令和8年度年度更新における、確定保険料は下記のとおりです。
- 対象期間
前年(令和7年度)に実際に支払った賃金総額 - 目的
前年度に前払いした概算保険料を精算するため - 算定方法(継続事業)
前年の賃金台帳・給与データをもとに、労災保険料・雇用保険料を再計算 - 算定方法(一括有期事業)
元請工事の請負金額を基礎として種別ごとに集計し、決められた労務比率をかけて労務費を算出する - 結果
過不足があれば、追加納付または還付が行われます
確定保険料は前年度の実績に基づき、正確な賃金総額で申告することが重要です。
誤りがあると翌年以降の概算保険料にも影響するため、年度更新前に賃金データを精査することが推奨されています。
概算保険料とは
概算保険料とは、令和8年度に支払われる給与の総額をもとに、予定額で計算をします。
- 対象期間
今年度(令和8年度)の見込み賃金総額 - 目的
新年度分の保険料を前払いするため - 算定方法
今年度の予定人員・賃金水準・工事計画などをもとに見込み賃金や請負金額を算出 - 結果
翌年の年度更新で確定保険料と比較し、過不足を精算
概算保険料は翌年の精算対象となるため、見込み賃金の精度が重要です。
特に建設業では、工期変更や人員増減が多いため、年度途中で大きな変動が見込まれる場合は事前に概算申告に反映させることが求められています。
年度更新における実務上の流れ
- 前年の賃金総額をもとに確定保険料を算定
- 今年度の見込み賃金総額をもとに概算保険料を算定
- 両方を同時に申告し、第1期分を納付
- 翌年の年度更新で再度精算(過不足調整)
概算保険料はあくまで見込みであるため、工事受注の予定がわからない場合は確定保険料と同額で概算保険料の算定基礎額を記入しても可です。
現場が複数ある場合、賃金集計はどう分ける?
一括有期事業では、工事ごとに賃金総額を集計することが原則です。
元請工事において、事業の種類ごとに工事台帳・契約書などを照合して請負工事の総額を算出します。
工期変更や金額変更があった場合は、修正して反映させ報告書を作成します。
その後、総括表を作成し添付します。
この総括表には、報告書で計算した業種ごとの労務費を記載し、決められた保険料率で基礎額を記載します。
元請と下請の区分誤りが多いため、契約形態を確認してから集計することが推奨されています。
複数現場を持つ事業主が誤って、元請下請の全工事を一括で申告するケースが多いとして、リーフレットには正しい集計方法が示されています。
労働保険料の納付を分割にしたい場合の手続きは?
年度更新で申告した保険料は一括納付または3期分納ができる場合があります。
労働保険料の分割納付(3期分納)ができるのは「概算保険料が40万円以上」の場合のみと定められています。
分納を希望する場合は、申告書の「分割納付希望欄」にチェックを入れます。
口座振替を利用すると第1期の納期限が9月に延び、資金繰りに余裕が生まれます。
銀行引き落としの場合は事前の金融機関申請が必要です。
紙の納付書の場合は、第一期分は年度更新時に発行された納付書で納めますが、残りの二期分は後日、労働局から納付書が郵送されてきます。
年度更新後に人員が増えた場合、追加手続きは必要?
年度更新は、前年の確定保険料と今年度の概算保険料を申告する手続きです。
そのため、年度更新後に新たに労働者を雇用した場合は、雇用保険・労災保険それぞれで異なる追加対応が必要になる場合があります。
雇用保険の手続き
新たに労働者を雇用した場合は、雇用保険の資格取得届をハローワークへ提出する必要があります。
提出期限は「雇用の翌月10日まで」と定められています(雇用保険法施行規則第7条)。
この届出により、労働者が雇用保険の被保険者として登録され、失業給付や育児休業給付などの対象になります。
また、雇用保険料の算定に影響するため、給与計算ソフトや賃金台帳にも新しい被保険者を追加しておきましょう。
労災保険の扱い
労災保険は、労働者を雇用する度に書類を提出する必要はありません。
賃金総額が大きく変動した場合は次回の年度更新で反映する必要があります。
【参考サイト】


