建設業では、人手不足や技能者の高齢化が深刻化しており、若手の確保と定着が大きな課題となっています。
こうした背景の中で注目されているのが「キャリアアップ助成金」です。
これは、建設業で働く有期契約社員や日給制の技能者を正社員として登用し、待遇を改善した企業に支給される制度です。
今回は、建設業に特化して、支給額・要件・申請の流れ・不支給になりやすいポイントまで実務目線で解説します。
建設業におけるキャリアアップ助成金とは

建設業は景気変動の影響を受けやすく、現場ごとの雇用が中心になりがちです。
そのため「長く働きたいが雇用が不安定」「技能を磨いても評価されにくい」といった課題が多く、国はこの助成金を通じて安定雇用と技能継承の促進を支援しています。
キャリアアップ助成金は建設業での利用も多く、技能者の定着や若手育成を進める企業にとって欠かせない制度となっています。
また、管轄は厚生労働省でこの助成金の財源は雇用保険です。
そのため、受給するには雇用保険の適用事業所である必要があります。
キャリアアップ助成金はいくら支給される?
キャリアアップ助成金は年度により内容が変わり、建設業においても以前より支援額が引き上げられています。
基本的な支給額は次のとおりです(中小企業主)。
有期の契約社員を正社員にした場合は40万円
無期の雇用社員を正社員にした場合は20万円
さらに以下の対象者(重点支援対象者)を正社員化した場合は支給額が加算されます。
- 若年者
- 高年齢者
- 障害者
- ひとり親 など
上記に該当する場合、最大支給額は下記のようになります。
有期契約社員を正社員にした場合は80万円
無期契約社員を正社員にした場合は40万円
さらに勤務地限定正社員制度、職務限定正社員制度といった制度を取り入れることで、最大で40万円がもらえます。
建設業では現場単位の雇用が多いため、こうした制度を整えることで技能者の定着・安全管理・品質向上につながります。
支給額の詳細は年度ごとに変わるため、最新の厚生労働省発表を確認しましょう。
なぜ建設業では助成金が必要なのか?
建設業では以下の課題が顕著です。
- 慢性的な人手不足
- 技能者の高齢化
- 若手の早期離職
特に、現場単位の雇用が多いため、長期的なキャリア形成が難しくなりがちです。
また、正社員化することで得られるメリットもあります。
- 技能継承が進み、現場力が安定する
- 社会保険・福利厚生が整い、離職率が低下する
- 教育投資がしやすくなる
助成金を活用することで、企業と技能者双方にメリットのある環境づくりが可能になります。
建設業でキャリアアップ助成金を受給するには

ただ、従業員を正社員化しただけでは助成金はもらえません。
受給するためには、国が定めた要件を満たしていなければなりません。
また、事前に準備しておく書類や体制づくりも重要です。
特に建設業では、現場単位の雇用契約や日給制の勤怠記録が多いため、賃金台帳・出勤簿・雇用契約書の内容が審査で重視されます。
建設業者が助成金を受給するための主な要件
建設業でキャリアアップ助成金(正社員化コース)を受け取るには、次に紹介する要件を満たしている必要があります。
特に建設業は勤怠管理の複雑さといった事情があるため、書類の整合性がより重要になります。
①キャリアアップ計画書の事前提出
正社員化を行う前に、必ずキャリアアップ計画書を提出しましょう。
現場の契約更新タイミングに合わせて転換するケースが多いため、提出が遅れやすい点に注意が必要です。
計画書に記載する主な内容は下記のものです
- 対象となる技能者
- 転換の時期
- 賃金改善の内容
- 配置予定の現場や職種
提出が転換後になると、どれだけ適正に正社員化していても不支給になるので注意が必要です。
②賃金が5%以上アップしていること
建設業では日給制・月給制が混在しているため、賃金アップの計算に注意が必要です。
助成金では、転換前6か月と転換後6か月の総支給額を比較し、5%以上増えていることが求められます。
ポイントは以下のとおりです。
- 日給制の場合は「日給 × 出勤日数」で総支給額を算出
- 現場手当・技能手当・皆勤手当なども総支給額に含まれる
- 雨天中止が多い現場では勤怠の記録が特に重要
「正社員にしたけれど給与がほぼ変わらない」というケースは不支給になります。
支払う賃金については、事前に検討しておきましょう。
③6か月以上雇用されていること
建設業では「現場ごとに契約更新」「短期雇用」が多いため、この要件が特に重要です。
転換前に6か月以上継続して雇用されている技能者が対象となります。
また、雇用に関しては特に下記の点に注意しましょう。
- 現場が変わっても同じ会社で雇用が続いていればOK
- 派遣や一人親方は対象外
- 雇用保険に加入していることが前提
雇用期間が途切れていると対象外になるため、契約書や雇用保険の加入状況を確認しておきましょう。
④正社員の定義が決められていること
建設業では「正社員」「常用」「期間工」など呼び方が混在しやすいため、明確に就業規則に定めておく必要があります。
また、助成金の受給では、就業規則に以下のような内容が明記されている必要があります。
- 正社員は雇用期間の定めがない
- 所定労働時間(例:8時間/日)が明確
- 賞与・退職金制度の対象かどうか
- 配置転換や現場異動のルール
さらに、規則の改定日と転換日が異なると不支給になります。
就業規則を作る際には細かな点にまで注意をしましょう。
建設業における助成金の申請方法
建設業で助成金を申請する際は、現場ごとの勤怠管理・日給制の賃金計算・契約更新のタイミングなど、一般企業よりも書類の整合性が重視されます。
ここでは、建設業向けに申請の流れを整理します。
①書類の準備(事前提出分)
建設業では現場の契約更新タイミングがバラバラなため、計画書の提出が遅れやすい点に注意が必要です。
転換前には以下の書類を提出します。
- キャリアアップ計画書
- 就業規則
- 労働者名簿・雇用契約書
技能者の配置予定現場や職種も計画書に記載します。
②正社員転換を行う
計画書提出後に正社員化を行い、新しく労働条件通知書を作成します。
その際には下記の内容を組み込みます。
- 雇用期間の定めをなくす
- 社会保険を適用する
- 賃金を5%以上引き上げる
- 配置現場や職種を明確にする
建設業では現場異動が多いため、転換日や契約内容を正確に記録しておくことが重要です。
③提出書類を整える(申請時用)
必要な書類は必ず事前に確認をし、最新の内容、書式で準備しましょう。
申請時に必要な主な書類は下記のものです。
- 支給申請書
- 転換前6か月および転換後6か月の賃金台帳
- 転換前6か月および転換後6か月の出勤簿
- 雇用契約書
- 就業規則
- 転換後の労働条件通知書
- 社会保険加入の確認書類
- 労働保険料申告書
- 役員名簿
- キャリアアップ計画書の控え
- 支給申請チェックリスト
④申請する
申請は転換後の6カ月の賃金を支払った後に行います。
その際の注意点は下記のとおりです。
- 転換後6か月分の賃金を支払った翌日から2か月以内に提出
- 期限を過ぎると受理されない
申請書と確認書類は、管轄の労働局または職業安定所に提出します。
また、電子申請にも対応しています。
建設業でキャリアアップ助成金を申請する際の注意点

キャリアアップ助成金は、建設業にとって人材の定着や技能継承を支える重要な制度ですが、申請の難易度は決して低くありません。
現場ごとの雇用形態や日給制、勤怠管理の複雑さなど、建設業特有の事情があるため、他業種よりも不支給になるケースが多いのが実情です。
この章では、建設業で申請する際に特に注意すべきポイントを整理しました。
助成金の審査は、提出書類の整合性と事前準備の精度でほぼ決まります。
申請を成功させるためには、計画書の提出時期・賃金設計・勤怠記録の正確さを徹底することが何より重要です。
事業主・役員は対象外
建設業は家族経営が多く、親族が現場に入るケースも珍しくありません。
しかし助成金の対象となるのは、雇用契約に基づいて働く一般労働者のみです。
- 生計を一にする親族
- 会社役員
- 個人事業主の家族従業員
これらは対象外となります。
申請時には雇用保険加入状況や役員名簿の提出が求められ、虚偽の報告は不支給につながります。
建設業は不支給率が比較的高い
建設業は他業種に比べて不支給率が高い傾向があります。
その理由の一つが、賃金台帳や出勤簿の不整合です。
これらは通常、作成が必要な書類ですが、担当者が多忙であったり人手不足などにより書類が十分に作成されていないことが多く見受けられます。
具体的な不支給の主な理由は下記のとおりです。
計画書の提出が転換後
→現場の契約更新に合わせて転換した結果、計画書が後出しになるケースが多いです。
確認書類の不整合
→現場ごとに勤怠がバラバラ、日給制の計算が不明確、雨天中止の扱いが統一されていないなど
就業規則の不備
→建設業では「常用」「期間工」「正社員」などの呼称が混在しやすく、定義が曖昧なまま申請すると不支給になります。
賃金アップの要件を満たしていない
→日給制の場合、雨天中止が多いと総支給額が減り、5%アップを満たさないことがあります。
建設業は「事前準備」で9割決まる
キャリアアップ助成金は、建設業にとって有効な制度ですが、申請の難易度は決して低くありません。
申請時には特に以下の3点に注意しましょう。
- 計画書を必ず事前に提出する
- 賃金設計を事前に見直す
- 勤怠・賃金の記録を正確に残す
準備に時間がなかったり申請が難しいと感じる場合は、社労士などの専門家に頼るのも一つの方法です。
建設業のキャリアアップ助成金に関するよくある質問

建設業でキャリアアップ助成金を活用しようとすると、現場ごとの雇用形態や日給制、天候による勤務変動など、他業種にはない疑問が多く出てきます。
「日給制の技能者も対象になるのか」「現場が変わっても雇用は継続扱いになるのか」「雨天中止が多い現場でも申請できるのか」など、実務上の細かい条件が気になる方も多いでしょう。
この章では、建設業の現場でよく寄せられる質問をもとに、制度の適用範囲・注意点・不支給を防ぐためのポイントをわかりやすく整理しました。
実際の申請を進める前に確認しておくことで、書類不備や要件不足を防ぎ、スムーズに助成金を受け取ることができます。
日給制の技能者でも対象になりますか?
日給の労働者も対象となります。
建設業では日給制が一般的ですが、雇用契約を結んでいる労働者であれば問題ありません。
ただし注意点として、助成金の要件である「賃金5%アップ」は、日給×出勤日数の総支給額で判断されます。
雨天中止などで出勤日数が減ると、賃上げ要件を満たさない可能性があるため、事前の設計が重要です。
現場が変わっても「6か月以上の雇用」は継続扱いになりますか?
同じ会社で継続して雇用されていれば、現場が異なっていても問題ありません。
建設業では現場単位で勤務地が変わるのが一般的ですが、雇用契約が途切れていなければ継続雇用として扱われます。
ただし、契約の空白期間があったり、雇用保険が一時的に外れている場合は注意が必要です。
一人親方や外注の職人は対象になりますか?
一人親方や外注は対象外です。
キャリアアップ助成金は「雇用関係」が前提となるため、以下は対象になりません。
- 一人親方(請負契約)
- 外注・下請け業者
- 業務委託契約の職人
助成金を活用するには、直接雇用に切り替える必要があります。
雨天中止が多い現場でも申請できますか?
申請自体は可能ですが、注意が必要です。
建設業では天候によって稼働日数が変動するため、賃金5%アップの判定に影響が出やすいのがポイントです。
対策としては以下が有効です。
- 最低保証賃金を設定する
- 月給制へ移行する
- 出勤簿を正確に記録する
単純な日給アップだけでは不十分になるケースも多いため、賃金設計が重要です。
現場ごとに勤怠管理がバラバラでも大丈夫ですか?
そのままでは不支給になるリスクが高いです。
建設業で最も多い不支給理由が、出勤簿と賃金台帳の不整合です。
- 現場ごとに勤怠記録の形式が違う
- 手書きとデータが混在している
- 雨天中止の扱いが統一されていない
助成金申請では、全現場で一貫した勤怠管理ルールが求められます。
キャリアアップ助成金の申請は、書類の整合性や提出時期など細かな要件が多く、現場業務と並行して進めるのは大きな負担になりがちです。
「計画書の提出が遅れた」「勤怠記録が不十分だった」など、わずかなミスで不支給になるケースも少なくありません。
そんなときは、建設業の許認可や助成金申請に精通した行政書士おさだ事務所へご相談ください。
現場の実情に合わせた書類作成やスケジュール管理を丁寧にサポートし、最短ルートでの申請完了をお手伝いします。
複雑な手続きも、専門家のサポートがあれば安心です。
「まずは自社が対象になるか知りたい」という段階でも構いません。
助成金の活用で、技能者が長く働ける職場づくりを一緒に進めていきましょう。
【参考サイト】
キャリアアップ助成金|厚生労働省
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