「建設業許可の取得を勧められたけど、調べてみたらいろいろ手続きが面倒に感じる」
「許可が無くても仕事はあるし、急いで許可を取る必要性を感じない」
「それでも、将来的にみて取得した方が良いのだろうか・・・」
そう思い、建設業許可の取得を迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では、許可を一人親方が取得するデメリットと、それを上回るメリットについて解説していきます。
また、ゆくゆくは法人化を考えている方の為に、どのタイミングで法人化をした方が良いのかについてもお伝えします。
この記事を読む事で、これから向かうべき方向性がきっと見えてくるはずです。
建設業許可は一人親方に必要なのか
結論から言いますと、一人親方でも許可の取得は必要と考えます。
確かに、許可の取得は今日明日で取得できるような簡単なものではありません。時間もお金もかかる、とても大変なものです。ですが大変な思いをして取得した分、多くのメリットも感じていただけるのではないでしょうか。
まず建設業許可の取得によって500万円以上の仕事が受注出来るようになるので、これからどんどん事業を拡大していきたいと考えている一人親方にとっては、これは大きなメリットと言えるでしょう。
また、従来は許可を取得した一人親方が法人化したい場合、法人として新たに許可を取得する必要がありました。しかし、令和2年10月の建設業法の改正によって『建設業許可の承継』が可能となりました(ただし、一定の条件はあります)。
これを聞いて「法人化してから許可を取得しよう」と考えていた方でしたら、法人化する前の取得を検討されるのではないでしょうか。
次の項目では、許可取得のデメリットについてお伝えします。
デメリットを明らかにした上で、それを上回るメリットも詳しくお話させていただきます。
一人親方が建設業許可を取得するデメリットとは?
はじめに許可の取得は必要とお伝えしましたが、許可の取得にもデメリットがあります。
メリット・デメリットをよく理解する事で、自分なりの答えも出てくるでしょう。
それでは、項目ごとに解説していきます。
建設業許可の取得には費用がかかる
許可の取得には費用がかかります。また許可には区分があり、どの区分の許可を取得するかで、かかる金額も変わります。
区分 | 概要 | 申請手数料 |
大臣許可 | 営業所が2ヵ所以上の都道府県にある | 15万円 |
知事許可 | 営業所が1ヵ所の都道府県のみ | 9万円 |
知事許可であれば、9万円にプラス数千円程度の証紙代が許可の取得にかかる金額です。
もし行政書士に依頼し、手続きを進めるとなれば、上記の他に約10〜15万円の代行費用がかかります。そして、この代行費用も区分により変わってきます。
代行費用は一人親方より法人、知事許可より大臣許可、一般建築業より特定建築業が高めに設定されている事がほとんどです。
なお、代行費用は依頼先の行政書士事務所により異なります。こちらに提示している依頼費用は、あくまで目安としての金額になりますのでご承知おきください。
各種変更届の提出が必要
許可を取得してから、届出た内容に変更が生じた場合は速やかに変更届を提出する必要があります。
例えば建設業許可の取得要件である「経営業務管理責任者」や「専任技術者」に変更が生じれば、変更から2週間以内に届出なければなりません。また、屋号の変更や営業所の新設・移転などは、30日以内の届出が必要です。
このように、変更内容によって届出る期間に違いがあるところに注意しなければなりません。
万が一、変更があるにも関わらず届出を怠った場合、「6ヶ月以下の懲役または百万円未満の罰金(建設業法第50条)」が科される可能性があります。
5年ごとの更新が必要
建設業許可には5年という有効期間があります。そして更新にも5万円の更新料がかかります。行政書士に更新手続きを代行してもらう場合も、別途5万円前後の金額がかかると考えてください。
うっかり更新を忘れてしまうと許可失効となり、どのような理由であっても更新不可となります。
決算変更届出書の提出が必要
建設業許可を取得すると、事業年度終了から4ヶ月以内に決算変更届出書の提出が必要になります。
決算変更届出書とは、事業年度の決済情報と工事実績を規定に則り書類としてまとめたものです。そして、この書類は「決算変更届」や「決算報告書」、「事業年度終了届」など地域により名称が異なる場合があります。
こちらの書類についても変更届同様、提出を怠ると「6ヶ月以下の懲役または百万円未満の罰金(建設業法第50条)」が科される可能性があります。そればかりか、許可の更新も不可となります。
500万円未満の工事にも主任技術者が必要
主任技術者とは、許可を取得した業者が工事現場に配置しなければならない技術者のこと。工事計画の書類を作成して工程を管理したり、工事で使用する資材などの品質を管理したり、工事現場における安全管理を行う等、技術上の管理が出来ると認められた者です。
無許可で建設業を営む場合、この主任技術者の配置は必要ありませんでした。なぜなら、500万円以上の工事から配置する決まりとなっていたからです。
そもそも、500万円を超える工事を受注出来るのは、許可を取得した業者です。
ところが、許可の取得後は500万円未満の工事に対しても必ず主任技術者を配置する必要があります。
許可を取得した業者は建設業法上、受注金額に関係なく現場に主任技術者を配置しなければならないのです。
デメリットを上回る6つのメリットとは?
デメリットでは、許可取得に伴う出費・期限を守らなければならない届出の増大が主に挙げられました。
メリットでは、受注可能な工事の拡大に伴う、利益の増加が主になります。
これは単純に収入が増えるというだけでなく、『建設業を営む一経営者としての成長を後押しする』と言っても過言ではありません。
それでは、一人親方が許可を取得すると得られる6つのメリットについて解説していきます。
500万円以上の工事が受注出来る
許可を取得する事により、500万円未満という受注金額の上限が無くなるので、今まで受注できなかった工事も受注可能になります。
受注金額が上がれば、その分利益も増えます。
最近では500万円未満の工事でも、許可を取得している業者に依頼したいと考える元請業者も多いです。
その為、元請からの受注も無許可の時に比べ増えるかもしれません。
公共工事を受注することが出来る
許可を取得する事により、公共工事の受注が可能になります。公共工事を受注するには、競争入札に参加する必要がありますが、許可業者でなければ、競争入札への参加は許されません。
公共工事は特に、信頼も実力もある業者に依頼したいですからね。
許可取得の有無が判断基準になっているんですね。
なお、公共工事の競争入札に参加するには、許可の取得の他に「経営事項審査を受審している」「税金の未納がない」「欠格要件に当たらない」といった参加資格要件を満たす必要があります。
元請になれる
許可を取得すれば、元請業者となって工事を受注する事が可能です。
元請業者であれば、発注者と直接取引を行う関係上、自由に請求価格を決める事が出来ます。下請けへの支払い金額も元請の方で決められますから、自分達により利益が残るよう収益の分配も調整可能です。
また自分のところでは施工出来ない工事も、下請け業者に依頼する事でクリアしますから、問題なく受注出来るメリットがあります。
金融機関や他社から信用を得られる
許可を取得しているということは、施工能力の高さや信頼性の証となります。
また、許可を取得していない一人親方は少なくない為、許可を取得しているというだけで他の業者と差別化出来ます。
そうなれば、元請け業者や顧客から注目され、自然と受注率も上がるでしょう。
法人と比べ手続きが容易
一人親方の許可取得に必要な書類は、法人と比べ少ないのが特徴です。
法人ですと、「役員一覧表」や「株主調書」などの法人特有の書類を準備しなければなりません。
個人ではそういった法人特有の書類の準備が無い分、手続きの内容も簡単であり、早く許可を取得する事が出来ます。
法人化する際、許可の取得を引き継げる
前述した通り、個人の許可取得業者が法人化したい場合、従来ですと法人に引き継ぐ事は不可能でした。その為廃業してから新たに法人として取得する必要がありました。もちろん申請手数料もかかります。
それですと、許可を取得するまで無許可となってしまい、500万円未満の軽微な建設工事しか引き受けられません。
こうした期間を無くす為、2020年10月の建設業法改正では『建設業許可の継承』制度が新設されました。これにより、許可番号も個人の時と変わらず、法人として取得する際にかかった申請手数料も発生しません。
ただし、経営事項審査(公共工事の競争入札への参加要件の一つ。現在の経営状態や規模等について公正な審査を受ける。)の営業年数は引き継げなかったり、許可の取得要件である経営管理者や専任技術者の社会保険の移行に注意が必要だったりとデメリットもあります。
『要件』という名の6つのハードル
6つのメリットがわかったところで、この項目では許可を取得する上で避ける事のできない取得要件についてお伝えします。
建設業許可を取得する為には、「経営業務の管理責任者等を設置する事」「専任技術者を設置する事」「誠実である事」「財産的基礎等を有する事」「欠格要件に当てはまらない事」「適正な社会保険へ加入する事」といった6つの要件をクリアしなければなりません。
この要件が、許可取得を阻む最大のハードルと言えるでしょう。実際、要件を満たしているにも関わらず、証明する事が出来ず許可申請に至らない場合も少なくありません。
しかし、個人事業主である一人親方なら適用される条件や、2020年10月の建設業法改正による緩和もありますので、これは諦めずにチャレンジしていただきたいところです。
今回はその『一人親方なら適用される条件』と『2020年10月の建設業法改正による緩和』にフォーカスします。
そして6つの要件の中から関係のある「経営業務の管理責任者を設置する事」「専任技術者を設置する事」「適正な社会保険へ加入する事」について知っておきたい内容をお伝えします。
経営管理者について
従来は、経営管理者には5年以上建設業の役員経験がある者を配置しなければいけませんでした。
これが建設業法改正の緩和により、建設業の役員経験は2年、残りの3年については建設業以外の役員経験でも可となりました。その場合は「財務管理」または「労務管理」または「業務管理」の業務経験がそれぞれ5年以上ある者を補佐人として付ける必要(常勤雇用)があります。
しかし、個人事業主である一人親方の場合、この個人事業主の経験が5年でも可です。
専任技術者について
許可を取得すると、金額に関係なく必ず工事現場に主任技術者を配置する必要がありましたね。
この主任技術者と専任技術者は、原則同一人物が兼任することは認められていません。
それでは人員が限られている一人親方は、工事が出来ず困ってしまいます。その場合、現場と事務所が近く、常に連絡が取れる状態であれば例外的に良しとされているのです。
ただし、一定の工事金額を超えてしまうと、この例外は適用不可となります。
社会保険の加入について
従業員が5人以上いる場合、社会保険の加入(「健康保険(協会けんぽ)」「厚生年金保険」「雇用保険」)は必須です。
しかし、従業員が4人までなら「建設連合国民保険(以下、建設国保)」と「国民年金」だけでも問題はありません。
また、従業員が4人から5人に増えたとしても、「健康保険の適用除外」というものがあり、この承認を受ければ協会けんぽに切り替える必要はなく、引き続き建設国保を利用する事が出来ます。
法人化のタイミングは?
ゆくゆくは法人化を考えている方の為に、法人化のタイミングについてお話します。
「順調に売上も伸びてきたし、そろそろかな?」という感覚的なものでなく、法人化を検討するベストなタイミングがあります。
そのタイミングについて、まとめます。
ポイント
- 年間の所得が800万円を超える時。
- 売り上げが1000万円を超えた時。
- 従業員を増やしたい時。
個人事業主である一人親方が納める所得税は、所得額によって高くなっていきますから「年間所得が800万円を超える時」というのは法人化を考える一つのタイミングです。
また、「売り上げが1000万円を超えた時」というのは、消費税の納税義務が生じるタイミングです。
1000万円を超えたら、翌々年から納税しなければならないので、納税の直前に法人化すれば、納税せずに済むというものです。そして、新規の法人は2年間消費税の納税が免除されます。つまり、タイミング良く法人化する事が出来れば、4年間は消費税の納付が免除されることになるのです。
「従業員を増やしたい時」というのも、法人化を考えて良いタイミングです。なぜなら、個人事業主の場合、従業員が4人までであれば最低限の社会保険で許されていたからです。法人化により、保険料の負担はありますが、補償は手厚くなります。
良いタイミングで法人化出来れば、節税効果も期待できます。 法人化を考え始めたら、是非タイミングに気をつけてください。
まとめ
「建設業許可は一人親方でも必要か」という観点から、取得におけるメリット・デメリット、要件について、法人成りのタイミングについて解説させていただきました。
メリットがある一方、デメリットや立ちはだかる6つの要件に、気後れしてしまう方もいるかもしれませんね。しかし、これから事業を拡大していきたいと考えるならば、決して避けては通れない道でもあり、それらを乗り越えるからこそ得られるメリットでもあります。
忙しい現場仕事の合間をぬって申請手続きをするのは大変です。それこそ自分で行うのは現実的ではないと感じるでしょう。
行政書士に代行依頼をすれば、本業に集中することができ、取得もスムーズです。
【おさだ事務所】は東京都限定で建設業許可を専門に扱う行政書士事務所です。「建設業許可を取得したい」と思ったら、当事務所にお気軽にご相談ください。