「建設業許可を事業承継したら自分が好きな屋号に変更したいけど、どんな届け出が必要?」
「事業拡大に伴い社名変更を検討しているが、いつまでにどういった手続きをすれば良い?」
このような疑問にお答えします。
今回は、建設業許可を取得した後の社名(商号)や屋号の変更に必要な書類とその書き方、届け出を忘れてしまったらどうなるのか等について解説していきます。
この記事を読み終える頃には、社名変更の手続き方法がわかり、ご自身でも自信を持って変更手続きが行えるようになるでしょう。
許可取得に比べると社名変更の手続きは簡易的な手続きです。
建設業許可を取得した後に社名変更する場合の届け出
建設業許可業者が社名(商号)や屋号を変更する場合、変更届を許可行政庁に提出する必要があります。
『許可行政庁』とは許可を受けた行政庁を指しますので、知事許可であれば許可を受けた都道府県の土木事務所等の窓口、大臣許可であれば主となる営業所を管轄する地区の地方整備局が窓口となります。
許可行政庁の連絡先についてはこちらのリンクをご覧ください。国土交通省 許可行政庁一覧
なお、社名(商号)変更届の提出は変更後30日以内と決まっています。
補足メモ〜社名と商号の違いは?
「社名」とは、会社の名前を表す略語になりますが、社名変更は商号変更とも言い換える事が出来ます。つまり、どちらも同じ意味であり、実質的に違いはありません。ただし、法律的にみると「商号」と表すのが正式で、あくまで「社名」は一般的な呼称という位置づけです。本来であれば「商号変更」と記載した方が法律的には正しいでしょう。しかし、「社名」という言葉は広く一般的に使われている馴染みのある言葉です。
『より理解しやすい言葉』という観点から、この記事では「社名変更」をメインに使用しています。
届け出を忘れるとどうなるのか
変更届とは、言わば役所で所持している情報を最新にアップデートする為の必要な処理です。公的機関で抱えている情報がいつまでも更新されないとあっては問題です。
社名を変更したにも関わらず、30日以内に変更届を提出しなかった場合、以下のような事態に直面する可能性があります。
届け出を忘れると・・・
- 業種追加の申請が受け付けてもらえない。
- 公共工事に参加する為に必要な経営事項審査が受けられない。
- 5年ごとに行う許可更新が出来ない。
- 建設業法第50条等の罰則規定により、6ヶ月以内の懲役または百万円以下の罰金が科される可能性がある。
- 懲役刑を受けると建設業許可の欠格要件に該当する為、許可が取り消される。
届け出を忘れてしまうと、これだけの損失があります。ただし、必ずしも罰則を受けるというわけではありません。
例えば許可更新時等、変更届が提出されていない事に気付いた場合、さかのぼっての届け出が許されるケースもあります。また、併せて口頭での注意や指導を受けたり、始末書の提出を求められる事もあります。(都道府県によっても対応は異なるようです。)
とはいえ、期限内に必要な書類を提出するのが一番ですし、それも許可業者としての責務の一つと言えるでしょう。
『何の書類をいつまでに提出する必要があるのか』をしっかり守る為の工夫が必要ですね。
社名変更に必要な書類
ここからは社名(商号)変更に必要な書類について、個人の許可業者の場合・法人の許可業者の場合でそれぞれ解説していきます。
個人の許可業者の場合
氏名や屋号に変更が生じた場合、手続きに必要な書類は以下のものになります。
項 | 提出書類 | 備考 | 注意事項 |
① | 変更届出書(第一面)(様式第22号の2) | 必須書類 | 確認資料として添付する書類で『発行日』の記載があるものは、発行日から3ヶ月以内のものを用意 |
② | 変更届の表紙 ※ | 屋号を登記している場合に必須 | |
③ | 登記事項証明書(履歴事項証明書)※ | 屋号を登記している場合に必須 | |
④ | 閉鎖事項証明書 ※ | ③の書類で屋号等の変更日が確認出来ない場合に必須 | |
⑤ | 個人事項証明書(戸籍謄本・抄本)など改姓・改名が確認できるもの ※ | 屋号を登記しておらず、改姓・改名をした場合に必須 |
個人の許可業者であれば、自身の名前で建設業許可を取得している人がほとんどでしょう。その場合、使用している屋号は登記していないはずなので、①の「変更届出書(第一面)(様式第22号の2)」のみの提出になります。
しかし、何らかの理由で改姓・改名した場合はそれが確認出来る書類、⑤の「個人事項証明書(戸籍謄本・抄本)」など改姓・改名が確認できる書類が必要です。また個人事業主の許可業者の場合、代表者・経営業務の管理責任者・専任技術者が同一人物であれば、この届け出とは別に『氏名改姓の届出』も用意しなければなりません。
登記した屋号で建設業許可を取得している方でしたら、変更届出書の他に②の「変更届の表紙」や③の「登記事項証明書」が必要になります。
なお、登記事項証明書等の請求はオンラインで手続きが可能です。
法務局のこちらのページをご覧ください。法務局 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続きが便利です
補足メモ〜登記事項証明書とは
手続きに必要な書類の一覧に「登記事項証明書」とありますが、カッコで「履歴事項証明書」とも記載されています。また、「登記事項証明書」にかわって「商業登記簿謄本」と表記しているところもあるでしょう。そうなると、どの書類にどのような違いがあるのか気になりますね。
実は「登記事項証明書」と「商業登記簿謄本」には内容的に大きな違いはありません。また、発揮する効力も同じなので、もし「商業登記簿謄本を取得しなきゃいけないのに、登記事項証明書しか取得できなかった・・・」といった場合も問題はありません。
登記簿とは、かつては全て紙で管理されていたものです。(登記簿謄本はその登記簿の写しの事です。)
そして、時代の移り変わりにより、紙で管理されていた登記簿はコンピューター上で管理されるようになりました。登記簿の情報は電子化されたので、登記簿を紙で直接見る機会は無くなったのです。それから、公的機関がコンピューター上で管理されている登記簿データーを出力して交付するようになりました。それが「登記事項証明書」というわけです。
登記事項証明書には「現在事項証明書」「履歴事項証明書」「閉鎖事項証明書」「代表事項証明書」の4種類があります。この内の「履歴事項証明書」は今現在の事業所の情報のみならず、過去(3年前の1月1日〜)に変更した登記履歴が記載されているものです。
「履歴事項証明書」で確認出来る履歴以前の情報を参照するには「閉鎖事項証明書」が必要です。
法人の許可業者の場合
社名(商号)に変更が生じた場合、手続きに必要な書類は以下のものになります。
項 | 提出書類 | 備考 | 注意事項 |
① | 変更届出書(第一面)(様式第22号の2) | 必須書類 | 確認資料として添付する書類で『発行日』の記載があるものは、発行日から3ヶ月以内のものを用意 |
② | 変更届の表紙 | 必須書類 | |
③ | 登記事項証明書(履歴事項証明書) | 必須書類 | |
④ | 閉鎖事項証明書 ※ | ③の書類で商号等の変更日が確認出来ない場合に必須 |
法人の許可業者の場合は①〜③の書類は必須書類です。
③の「登記事項証明書(履歴事項証明書)」にて変更した登記履歴が確認出来ない場合に限り、④の「閉鎖事項証明書」を用意します。なお、登記事項証明書についての詳細は前述の『個人の許可業者の場合』内の補足メモに記載しております。
登記事項証明書等の請求がオンライン上で出来る法務局のページはこちらです。法務局 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続きが便利です
また、「オンラインで登記事項証明書を請求するのは初めて」という方の為に、オンライン申請方法の動画を『個人の許可業者の場合』内で紹介しております。ぜひご覧ください。
変更届出書の書き方を解説
ここからは「変更届出書(第一面)(様式第22号の2)」の書き方について、記入見本を使用し解説していきます。
なお、各自治体によって記入方法は異なる場合があります。この記事の記入見本は『東京都知事許可の場合』で作成しています。
変更届出書の記入例
以下の画像は『東京都知事許可の場合』の社名変更記入例です。
申請で認められるのは黒インクのみですが、記入例では分かり易いように青字で記しています。
【①:変更事項内容】
該当する変更事項に丸をします。
この記入見本は社名(商号)変更に対する届け出なので(1)に丸が付いていますが、複数変更事項がある場合はその他該当箇所に丸をして一つの書類にまとめて提出する事が可能です。ただし、届出項目が多く、届出事項欄に収まらない場合は、複数枚使用可です。
【②:宛名】
許可行政庁を記入します。該当しない箇所は取り消し線を引きます。(東京都都市整備局HPでダウンロード出来る書式には既に取り消し線が入っています)
【③:日付】
この日付欄には届出日を記入する為、作成時は空欄のままです。
【④:届出者】
届出者の会社住所(本店の所在地)、会社名、代表者氏名を記入します。
以前はこの欄の押印箇所に法人は代表者印、個人は実印を押印する必要がありましたが、令和3年1月1日提出分から押印不要となりました。
もし、実際に事業を行なっている住所と登記上の住所が異なる場合は、住所を二段に分けて記入する必要があります。
<例>
(登記上の住所)東京都渋谷区本町7−7
(事実上の住所)東京都新宿区西新宿9−1
【⑤:大臣知事コード】
大臣知事コードを記入します。東京都の知事コードは『13』ですが、東京都都市整備局HPでダウンロード出来る書式には既に知事コードが入っています。
その他の大臣知事コードが分からない場合はこちらのサイト内一覧に記載があります。大臣知事コード (株)建設業経営情報分析センター
【⑥:許可番号】
建設業許可番号を記入します。
【⑦:許可年月日】
許可を複数受けている場合、最も古いものの許可取得日を記入します。
【⑧:法人番号】
国税庁より付与された法人番号を記入します。
法人番号はこちらのサイトで検索可能です。国税庁 法人番号公表サイト
【⑨:届出事項】
記入例は社名(商号)変更による届出なので、この欄には『商号』(個人が屋号を変更する場合は『屋号』)と記入します。
【⑩:変更前】
変更前の会社名を記入します。
【⑪:変更後】
変更後の新しい会社名を記入します。
【⑫:変更年月日】
実際に会社名を変更した日付を記入します。
【⑬:備考】
何か補足や詳細があればこの欄に記入しますが、特に無ければ空欄のままで問題ありません。
【⑭:商号又は名称のフリガナ/商号又は名称】
商号又は名称のフリガナと商号又は名称をそれぞれ見本の通りに記入します。
【⑮:連絡先】
この変更届の内容について問い合わせした際に対応可能な担当者名とその所属、電話番号を記入します。
また、行政書士が代理で申請する場合は、行政書士職印の押印が必要です。
【関東1都6県】変更届出書および各種申請書入手先リンク一覧
関東1都6県の所属と変更届等の申請書類入手先のリンク一覧を下記に記載します。
項 | 都・県名 | 主管課 | リンク先ページ |
1 | 東京都 | 東京都都市整備局 | 建設業許可 手引、申請書類等 |
2 | 埼玉県 | 県土整備部 建設管理課 | 建設業許可申請の手引き・様式集 |
3 | 千葉県 | 県土整備部建設・不動産業課建設業班 | 建設業許可に係る様式について |
4 | 神奈川県 | 県土整備局事業管理部建設業課 | 許可申請書等ダウンロード |
5 | 茨城県 | 土木部監理課建設業 | 建設業許可申請様式ダウンロード |
6 | 栃木県 | 県土整備部監理課 | 許可に際する注意事項・変更届出等について |
7 | 群馬県 | 県土整備部建設企画課 | 【令和3年4月改訂】建設業許可申請のしおり・様式集・Q&A |
その他の変更届の提出期限について
建設業許可を取得すると、以降何かしらの変更が生じた場合は都度変更届を提出する必要があります。
社名変更の届け出は『建設業許可変更等届出』と呼ばれる手続きの内の一部分であり、各種変更にかかわる届け出を一般的に「変更届」と総称して呼んでいます。
社名変更に対する変更届の提出期限は社名変更後30日以内とされていますが、変更届の種類により提出期限も変わってくるので、注意しなければなりません。
なお、変更届の提出期限は以下の3つです。
- 14日以内
- 30日以内
- 4ヶ月以内
①の14日以内に変更届を提出しなければならない場合は「常勤役員等(経営業務の管理責任者)」「健康保険の加入状況」「専任技術者」「令3条の使用人(支配人除く)」に変更が生じた時です。
②の30日以内に変更届を提出しなければならない場合は、この記事で取り上げた「社名(商号)」の他に「営業所」「支配人」「株主」「資本金」「役員構成」に変更が生じた時です。
「廃業届」の提出も30日以内です。
③の4ヶ月以内に提出しなければならない書類は「決算報告書(決算変更届)」です。事業年度終了後4ヶ月以内に提出します。
まとめ
ここまで建設業許可を取得した後の社名変更に必要な届け出について解説してきました。
許可取得時の手続きに比べますと、簡易的な手続きなので、ご自身でも十分対応可能だと感じてもらえたのではないでしょうか。
しかし、この記事で取り上げた社名変更の手続きは、「変更届」の内の一部分に過ぎません。また、変更届によって提出期限も異なってきます。他に一緒に提出しなければならない変更届もあるとなれば、業務の傍ら全て自分で対応するのも難しくなってくるでしょう。
見落としがあり、期限内に書類を提出する事が出来なかった・・・となれば罰金が科され、許可取り消しの可能性もあります。
「やはり自身で全ての変更届を見落としなく対処するのは大変だし心配」と感じたら、行政書士事務所を頼ってみてはいかがでしょうか。
【おさだ事務所】は東京都限定で建設業許可を専門に扱う行政書士事務所です。
建設業許可にかかわる慣れないお手続きは、ぜひ当事務所にお気軽にご相談ください。