建設業は労災事故が多い業種としても知られています。
高所作業での転落や重機による事故など、現場にはさまざまな危険が潜んでおり、十分な安全管理が欠かせません。
労災事故を防止するためには、法律で定められたルールを守るだけでなく、日々の作業で「危険を予測する」「安全教育を徹底する」といった取り組みが必要です。
今回は、建設業における労災事故の現状と防止のための安全管理の基本をわかりやすく解説し、初心者でも理解できるチェックポイントを紹介します。
建設業の労災事故の現状

最近は、建設現場で起きる労災事故のニュースを目にすることが多くなりました。
令和6年の統計では、全産業の死亡災害の約3割が建設業で発生しています。
主な事故は「墜落・転落」「重機による挟まれ」「倒壊事故」で、いわゆる三大災害が中心です。
事故は作業員の命や健康を奪うだけでなく、企業の社会的信用にも大きな影響を与えます。
労災事故件数の現状(令和6年度)
令和6年の全産業死亡者数746人、うち建設業は223人(約29.5%)
休業4日以上の死傷者数は全産業で135,718人、うち建設業は約14,400人(10.6%)
令和6年の労災死亡事故で、建設業は全産業の中で最も高い割合となっています。
建設業の死亡事故は、墜落・転落が最も多く約4割を占め、次いで重機災害や物の落下・倒壊が続きます。
工事の種類にかかわらず、土木・建築ともに墜落・転落が中心で、特に足場や屋根からの事故が目立つのが特徴です。
労災事故が多い理由
- 高所作業が多い
- 重機や車両を使う
- 作業環境が不安定
- 複数業者が同時に作業する
- 安全管理が不十分な場合がある
- 外国人労働者の増加
建設業で労災事故が多い理由は、作業環境にあります。
高所での作業が多く、足場や屋根からの墜落・転落事故が頻発します。
またクレーンやショベルカーなどの重機を扱う場面が多く、操作ミスや点検不足による挟まれ事故や衝突事故が起こりやすい点が挙げられます。
さらに、現場は天候や地形の影響を受けやすく、雨で滑りやすくなった床や不安定な足場が危険を増大させます。
加えて、複数の業者が同時に作業するため、情報共有が不十分だと安全ルールが徹底されず事故につながることもあります。
日本語の通じない外国人労働者が増えたことも要因の一つと言われています。
よくある事故の種類
- 墜落・転落事故
- 重機・車両による事故
- 物の落下・倒壊事故
- 感電事故
最も多いのは高所作業での墜落・転落事故です。
足場や屋根からの落下は死亡災害の大きな割合を占めています。
特に解体現場では足場崩落等による労災事故が後を絶ちません。
次に多いのが重機や車両による事故で、クレーンやショベルカーの操作ミス、点検不足による挟まれや衝突が典型例です。
また、物の落下や倒壊事故も頻発します。
資材や工具が落下して作業員に当たったり、仮設構造物が崩れて下敷きになるケースです。
さらに、感電事故も発生しています。
電気設備の不備や誤操作によって発生し、重傷につながることがあります。
労災事故が会社や働く人に与える影響
働く人への影響
- 命や健康を失う危険がある
- 長期の治療や休業が必要になる場合がある
- 身体的・精神的な負担が本人だけでなく家族にも及ぶ
- 生活の安定が脅かされる
会社への影響
- 労働基準監督署への報告義務が生じる
- 原因調査や再発防止策の実施が必要になる
- 事故が公表されると社会的信用を失い、取引先や顧客からの信頼が低下する
- 損害賠償や保険料の増加など経済的負担が大きくなる
労災事故は、働く人と会社の両方に深刻な影響を与えます。
作業員にとっては命や健康を失う危険があり、治療や長期休業が必要になる場合もあります。
会社には労働基準監督署への報告義務が生じ、原因調査や再発防止策の実施が求められます。
損害賠償や保険料の増加など経済的負担も重く、経営に直接影響することもあります。
労災事故を防ぐ安全管理の基本

労働安全衛生法により、建設業者は現場の安全を確保する義務があります。
基本は「足場を正しく組む」「安全帯(墜落制止用器具)を必ず使用する」「重機の点検を徹底する」ことです。
建設業者が行うべき安全管理
厚生労働省は「手すり先行工法」をガイドラインで定めています。
これは、足場を組み立てる際に作業床に乗る前に手すりを先に設置し、作業員が常に手すりに守られた状態で作業できるようにする工法です。
労働安全衛生法では、事業者が作業環境を安全に保ち、事故を防ぐ体制を整えることが義務づけられています。
さらに、安全教育や研修を継続的に実施し、従業員の意識を高める役割も担っています。
資材や工具を整理整頓し、通路を塞がないことで落下やつまずき事故を防ぐことも重要です。
事故が発生した場合には迅速な救護と報告、原因調査、再発防止策の実施をしなくてはなりません。
現場で守る基本ルール
- 足場や仮設設備の点検
- 墜落制止用器具の使用
- 重機の安全管理
- 資材・工具の整理整頓
- 保護具の着用現場ルールの徹底
建設現場では、作業員の安全を守るために基本ルールを徹底することが欠かせません。
まず、足場や仮設設備は正しく設置し、作業前に必ず点検します。
高所作業では墜落制止用器具を着用し、安全帯を確実に使用することが重要です。
現場の整理整頓(5S活動)も事故防止に直結します。
重機を扱う際は、操作資格を持つ人が担当し、始業前点検を必ず行います。
さらに、ヘルメットや保護具の着用を徹底し、現場のルールを守る姿勢を習慣化することが求められます。
労災事故防止に役立つ取り組み

事故防止には日常的な取り組みが欠かせません。
代表的なのが「KY活動(危険予知活動)」で、作業前に危険を話し合い注意点を共有します。
さらに「リスクアセスメント」を導入し、作業の危険度を事前に評価することが推奨されています。
安全教育や研修も重要で、新人教育や定期研修を通じて安全意識を高めることが効果的です。
危険を予測するKY活動
KY活動とは「危険予知活動」のことで、作業前に潜む危険を予測し事故を防ぐ取り組みです。
建設現場では作業員が集まり、その日の作業内容を確認しながら「どんな危険があるか」「どう防ぐか」を話し合います。
こうした危険を具体的に挙げ、対策を共有することで作業員の注意力が高まり、事故防止につながります。
KY活動は単なる形式ではなく、安全意識を高める重要な習慣です。
毎日の作業前に欠かさず行い、危険を共有することが安全な現場づくりに直結します。
安全教育と研修の重要性
建設現場で事故を防ぐには安全教育と研修が大切です。
作業員が危険を理解し、正しい行動を取れるようにすることを目的としています。
新しく現場に入る人には基本的な安全ルールを徹底して教え、経験者にも定期的に研修を行い意識を維持します。
高所作業では墜落防止器具の使い方、重機作業では操作手順や周囲への注意など、具体的な内容を確認します。
教育を繰り返すことで作業員は危険を予測し、事故を未然に防ぐ力を身につけます。
また、研修は知識の習得だけでなく、現場全体に安全文化を根付かせる役割も果たします。
日本語が話せない外国人労働者には、コミュニケーションを日頃から取ることも大切です。
リスクを事前に評価する方法
建設現場で事故を防ぐには、作業前にリスクを評価することが重要です。
まず作業内容を確認し、潜む危険を洗い出します。
高所作業なら墜落、重機作業なら接触や挟まれ事故などが考えられます。
次に、それぞれの危険が起きる可能性と被害の大きさを見積もり、優先度を決めます。
危険度が高いものから対策を講じることで、効率的に安全を確保できます。
評価結果は作業員全員で共有し、注意を徹底しましょう。
労災事故が起きたときの対応

事故が発生した場合、まずは救護と現場の安全確保が最優先です。
その後、労働基準監督署へ速やかに報告する義務があります。
原因を調査し、再発防止策をまとめて社内で共有することも欠かせません。
事故直後にやること
- 負傷者の救護
- 現場の安全確保
- 報告と記録証拠の保存
- 作業員への周知
- 再発防止策の検討
まず最優先は負傷者の救護で、安全を確保したうえで応急処置を行い、必要に応じて救急車を呼びます。
次に二次災害を防ぐため、現場を停止し危険箇所を封鎖します。
その後、責任者や労働基準監督署へ速やかに報告し、事故の状況を記録します。
写真や目撃者の証言を残すことで、原因調査や再発防止策に役立ちます。
さらに作業員へ周知し、同じ事故が繰り返されないよう注意を促します。
労基署への報告の流れ
- 負傷者の救護と現場の安全確保
- 事故状況の整理(日時・場所・原因・被害)
- 必要書類の作成及び提出
- 労基署による調査・是正勧告への対応
- 原因分析と再発防止策の実施
事故が発生したら、日時、場所、状況、原因などを整理し、必要な書類を作成しなくてはなりません。
代表的なものに「労働者死傷病報告書」があり、労働者が死亡した場合や休業が4日以上となる負傷・疾病が発生した場合に提出が義務付けられています。
また、火災や爆発など重大な事故については「労災事故報告書」を提出します。
これらの書類は事故発生後、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ提出しなければなりません。
提出後は労基署による現場調査やヒアリングが行われ、必要に応じて是正勧告が出されます。
その後、事業者は改善計画を示し、再発防止策を実施する責任があります。
労災事故防止に関する最新ルール

近年は安全管理に関する法令改正が進んでいます。
例えば、墜落制止用器具の使用が義務化され、足場の組立方法にも新しい基準が設けられました。
厚生労働省は「足場からの墜落防止総合対策」や「玉掛け作業の安全ガイドライン」などを通達しており、最新ルールを確認することが重要です。
安全帯の義務化
建設業では「安全帯」という呼称が法令上「墜落制止用器具」に改められました。
また、高所作業ではフルハーネス型安全帯の使用が義務化され、従来の胴ベルト型は原則禁止となりました。
適用範囲は高さ2メートル以上の作業床がない場所や、6.75メートル以上の高所作業で必須となり、現場では徹底した管理が必要です。
使用者には特別教育が義務付けられており、学科と実技を合わせた計6時間の講習を受ける必要があります。
最近の法改正で注意すべき点
- 安全措置の対象拡大
- 元請・発注者の責任強化
- 建設業法改正
- 安全教育・研修の徹底
2025年4月施行の労働安全衛生規則改正では、従来の労働者だけでなく、一人親方や資材搬入業者なども保護対象に含まれるようになりました。
発注者は工期や条件で安全を損なわないよう配慮する責任が明確化され、事業者には安全衛生管理体制の確立が求められています。
違反があれば労基署から是正勧告や処分を受ける可能性があります。
建設業法の改正では、労務費や賃金制度の基準を明確化して労働者の適正な賃金を確保するとともに、工事規模に応じた監理技術者の適正配置が求められるようになりました。
フルハーネス使用者は特別教育(学科+実技)を受講する義務も定められました。
建設業の労災に関するよくある質問(FAQ)

建設現場は常に危険と隣り合わせです。
高所での作業、重機の操作、資材の運搬など、どれも一歩間違えば大きな事故につながります。
現場では「どんな安全ルールがあるのか」「もし事故が起きたら補償はどうなるのか」といった疑問が尽きません。
防止で一番大事なことって何?
労災事故防止で一番大事なことは「危険を事前に予測し、全員で共有して対策を徹底すること」です。
建設現場では高所作業や重機の使用など、常に複数のリスクが存在します。
作業前に危険予知活動(KY活動)を行い、どんな事故が起こり得るかを話し合い、全員が理解したうえで作業に臨むことが重要です。
そのため事故防止の基本は「危険を見える化」することです。
さらに、フルハーネス型安全帯の着用や足場の手すり設置など、法令で定められた安全措置を確実に守ることも欠かせません。
加えて、元請・下請を問わず現場全体で安全意識を高め、作業員同士が声を掛け合う文化をつくることが事故防止につながります。
労災事故が起きたとき被災者はどんな補償がうけられる?
労災事故が起きた場合、労災保険から「治療費」「休業補償」「障害補償」「遺族補償」などの給付を受けられます。
治療費は全額保険でまかなわれ、自己負担はありません。
休業した場合は4日目から給付基礎日額の約60%が支給され、さらに特別支給金20%が加算され、合計で約80%が補償されます。
後遺障害が残れば障害補償給付として一時金や年金が支給され、死亡した場合は遺族補償給付や葬祭料が支払われます。
重度障害で介護が必要な場合には介護補償給付もあります。
さらに、一人親方や中小事業主なども、特別加入制度を利用すれば補償を受けられます。
現場で使える安全チェックリストを教えて
建設現場用 安全チェックリスト
1. 作業前の確認
- 作業計画は周知されているか
- 危険予知活動(KY活動)が実施されているか
- 作業員全員が保護具(ヘルメット・安全靴・フルハーネス)を着用しているか
2. 足場・高所作業
- 足場に手すり・中さん・巾木が設置されているか
- 開口部や屋根上に養生・覆いがあるか
- 高さ2m以上の作業でフルハーネス型安全帯を使用しているか
3. 重機・車両
- 操作は資格者が行っているか
- 始業前点検が実施されているか
- 作業範囲に立入禁止措置が取られているか
4. 資材・工具
- 資材は安定した場所に保管されているか
- 工具は点検済みで異常がないか
- 荷の吊り下げ・運搬時に合図が徹底されているか
5. 緊急時対応
- 消火器や救急用品が所定の位置にあるか
- 緊急連絡体制が周知されているか
- 避難経路が確保されているか
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【参考サイト】
足場からの墜落防止対策を強化します。~令和5年10月1日から順次施行~|厚生労働省
「玉掛け作業の安全ガイドライン」001258803.pdf
「重点的安全対策」kisha_02234.pdf
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