営業許可

解体工事における石綿(アスベスト)建材の規制と健康被害とは?制度についても解説!

かつて多くの建材に使用されていた石綿(アスベスト)は、健康被害の深刻さから現在では使用が禁止されています。

しかし、既存建物には石綿含有建材が残っているケースも多く、解体や改修工事の際には適切な対応が求められます。

従って、建築業界においては石綿に関する知識は今でもとても重要です。

事前調査や行政への届出、除去作業の手順などは法令で細かく定められており、違反すれば罰則の対象となることもあります

今回は、石綿の基礎知識から工事現場での対応、行政手続きなどを解説します。

石綿(アスベスト)とは

石綿(アスベスト)は、天然に産出する繊維状鉱物であり、耐火性・断熱性・防音性・耐薬品性などに優れた特性を持っています。

これらの性質から、かつては建築資材として非常に重宝され、住宅や公共施設の壁材・天井材・配管の保温材など、幅広い用途で使用されてきました。

特に高度経済成長期には、安価で加工しやすく性能面でも優れていたことから、建設業界での需要が急増しました。

さらに、石綿は腐食や劣化に強く、長期間にわたって機能を維持できる点も評価され続けてきました。

アスベスト規制の法改正と禁止措置

しかし石綿の健康被害が社会的に問題視されるようになり、それから法規制が段階的に強化されました。

最初の規制は1975年の労働安全衛生法改正に始まり、その後も石綿障害予防規則や大気汚染防止法などが整備され、使用制限が徐々に拡大されました。

2004年には一部の石綿製品が製造禁止となり、2006年には全面的に使用禁止となりました

これにより、現在では石綿を含む建材の製造・販売・使用は原則として認められていません。

ただし、既存建物に残る石綿については、解体や改修時に飛散のリスクがあるため、事前調査や適切な除去作業が義務付けられています。

法令の改正は健康被害の実態や訴訟事例を背景に進められてきた経緯があり、今後も制度の見直しが行われる可能性があります。

現在も残る石綿含有建材のリスクとは

石綿の使用は全面禁止されましたが、それ以前に建築された建物には今なお石綿含有建材が残っている可能性があります。

とくに、断熱材・保温材・天井材などに使用されていたケースが多く、外見からは判別しづらいのが実情です。

これらの建材が改修や解体の際に破損し、石綿繊維が空気中に飛散すると、吸引によって健康被害を引き起こす恐れがあります

従ってこのような建物を解体する業者には、事前調査や適切な除去作業が法令で義務付けられています。

また、飛散性の高い建材は「レベル1」として分類され、より厳格な作業基準が適用されます。

石綿は目に見えない危険性を持つため、軽視せず、専門業者による対応が必要なのです。

石綿による健康被害

石綿による健康被害は、主に呼吸器系に深刻な影響を及ぼします。

石綿を吸い込むと、肺や胸膜に長期間にわたり繊維が残り、数十年後に病気として現れることがあります。

完治することは難しく、そのため、石綿関連疾患では「治す」よりも「進行を遅らせる」「症状を緩和する」ことが治療の中心になります。

では具体的に見ていきましょう。

石綿による健康被害の種類と症状

代表的な疾患には「中皮腫」「肺がん」「石綿肺」があり、いずれも長期間の曝露(ばくろ)によって発症するケースが多く見られます。

中皮腫は胸膜や腹膜に発生する悪性腫瘍で、石綿との因果関係が強く認められている病気です。

肺がんも同様に、石綿繊維の吸引が発症リスクを高める要因とされています。

また、石綿肺(塵肺)は繊維の蓄積によって肺が硬化し、呼吸困難を引き起こす慢性疾患です。

これらの病気は潜伏期間が長く、曝露から数十年後に症状が現れることもあるため、過去に石綿を扱った経験がある方は注意が必要です。

初期症状は咳や息切れなど軽微なものが多く見過ごされがちですが、早期発見と適切な診断が重要です。

建設業従事者の被害と補償制度

石綿による健康被害は、長年にわたり建設現場で働いてきた従事者に多く見られます。

とくに、解体・改修工事などで石綿含有建材に直接触れる機会が多かった作業員は、曝露リスクが高く、肺がんや中皮腫などの重篤な疾患を発症するケースも少なくありません。

こうした被害に対しては、労災保険制度のほか、石綿健康被害救済法に基づく補償制度が設けられています。

救済法では、医師の診断書や曝露状況の証明書類を提出することで、療養費や給付金を受け取ることが可能です。

また、遺族への補償も対象となっており、申請には一定の手続きが必要です。

制度の存在を知らずに申請を見送ってしまう事例もあるため、心当たりがある場合は早めに専門家に相談するようにしましょう。

過去の訴訟事例と企業の責任

石綿による健康被害をめぐっては、過去に多くの訴訟が提起されてきました。

とくに注目されたのは、建材メーカーや国に対する損害賠償請求であり、長期間にわたる石綿曝露によって中皮腫などを発症した元作業員や遺族が原告となったケースです。

裁判では、企業が石綿の危険性を認識しながらも十分な対策を講じなかった点が争点となり、結果として数億円規模の賠償命令や和解が成立した事例もあります。

また、国の責任を認める判決も複数存在し、行政の対応の遅れが被害拡大につながったと指摘されています。

こうした訴訟は、企業の安全配慮義務や情報開示の重要性を浮き彫りにしました。

このような事案によって、石綿関連業務に携わる事業者には法令遵守とリスク管理が強く求められるようになったのです。

建設・解体工事における石綿建材の取り扱い

建物の解体や改修工事をする際には、石綿含有建材の有無を事前に確認することが法令で義務付けられています。

特に2006年以前に建築された物件では、石綿が使用されている可能性が高く、慎重な調査が求められます。

石綿含有建材の判別方法と調査義務

石綿が含まれているかの判別方法としては、設計図書や施工記録の確認、建材メーカーの製品情報の照合などが基本となります。

しかし、外観だけでは判断できないケースも多いため、専門資格を持つ調査者による現地調査が不可欠です。

調査結果は「石綿事前調査結果報告書」としてまとめ、所管行政庁へ提出する必要があります。

無資格者による調査や報告の不備は、法令違反となる可能性があるため注意が必要です。

また、調査対象となる建材の種類や施工年代によって、調査方法や報告内容が異なるため、最新の制度に基づいた対応が求められます。

解体工事における石綿除去の手順

建物の解体工事において石綿含有建材が確認された場合、除去作業は厳しく決められた手順に従って実施する必要があります。

まず、作業区域の養生や飛散防止措置を講じたうえで、専門業者による除去作業を実施します。

作業中は高性能マスクや防護服の着用が義務付けられ、周囲への飛散を防ぐための湿潤化処理も行われます。

これらを遵守しなければ罰則の対象となるため、事前準備と専門的な対応が大切です。

石綿レベル分類と作業基準

石綿含有建材は、飛散性の高さに応じて「レベル1」「レベル2」「レベル3」の3段階に分類され、それぞれに定められた作業基準があります。

レベル1は最も飛散性が高く、吹付け材などが該当します。

この場合、作業区域の密閉、負圧除じん装置の設置、高性能防護具の着用が義務付けられ、専門業者による厳格な管理が求められます。

レベル2は保温材や断熱材、耐火被覆材など比較的飛散性が低い建材で、湿潤化処理や養生措置を講じたうえで除去作業をします。

レベル3は非飛散性の建材で、通常の解体作業でも対応可能ですが破砕時には注意が必要です。

この分類は、作業の安全性確保と周囲への影響防止を目的としており、誤った判断は法令違反につながる可能性があります。

事前調査で正確に分類し、適切な手順を踏むことが基本となります。

行政手続きと建設業許可における石綿対応

石綿を含む建材の除去や処理を伴う工事では、通常の建設業許可とは別に、複数の行政手続きが必要になります。

詳しく見ていきましょう。

石綿関連工事に必要な届出

まず、事前調査の結果をもとに「石綿事前調査結果報告書」を作成し、都道府県あてに提出します。

さらに、除去作業をする場合は「石綿作業届」の提出が義務付けられており、これは労働基準監督署あてに提出します。

これらの手続きは、石綿の飛散による健康被害を未然に防ぐために定められており、怠ると罰則の対象となる可能性があります。

また、大気汚染防止法により、作業後には事後報告もしなくてはなりません。

建設業許可との関連性

まず知っておきたいのは、建設業許可を取得する際に「石綿に関する要件」は設けられていないという点です。

許可の要件は、常勤役員等(経管)や営業所等技術者(専任技術者)の設置、財産的基盤などが中心であり、石綿の扱いは直接的には関係していません。

また、建設業法には石綿に関する直接的な記載もありません。

石綿に関する規制と工事業者の義務

ただし、建設業者が建物の解体や改修工事をする場合、石綿に関する規制が強く関わってきます

労働安全衛生法や大気汚染防止法により石綿を含む建材があるかどうかを事前に調査し、結果を届け出ることが義務付けられています。

また、工事の際には隔離養生や負圧集じん機の使用など、厳格な作業基準を守らなければなりません。

許可業者に求められる法令遵守

建設業許可を持つ業者は、当然ながら法令遵守が大前提です。

石綿関連の規制を怠った場合、罰則だけでなく営業停止や許可取消といった行政処分を受ける可能性もあります。

特に解体工事業者は、石綿含有建材の扱いが日常的に発生するため、正しい対応が不可欠といえるでしょう。

このように、建設業許可そのものに石綿への対応は含まれていませんが、工事をする上では石綿規制を無視することはできません。

違反は許可業者としての信頼を損なうだけでなく、最悪の場合は営業に直結する処分につながります。

つまり「直接は関係ないが、間接的には深く結びついている」というのが、建設業許可と石綿の正しい関係性といえるでしょう。

石綿除去工事の費用と補助制度

石綿除去工事の費用は、建物の規模や石綿の含有量、作業環境によって大きく異なります。

一般的な相場としては1平方メートルあたり1万〜3万円程度が目安とされています。

見積を依頼する際は、単価だけでなく「事前調査費」「養生・飛散防止措置」「廃棄物処理費」などの内訳を確認することが重要です。

特に、石綿は特別管理産業廃棄物に該当するため、処理費用が高額になる傾向があります。

また、複数業者から相見積を取ることで、過剰な費用や不明瞭な項目を見抜きやすくなります。

見積書には「石綿含有建材の種類」「除去面積」「作業日数」などの具体的な記載があるかもチェックポイントです。

補助制度の活用を前提とする場合は、対象経費や申請条件に合致しているかも事前に確認しておきましょう。

自治体による補助金・助成制度の活用方法

石綿除去工事にかかる費用負担を軽減するため、自治体ごとに補助金や助成制度が設けられています

対象となるのは、主に個人住宅や中小規模の建築物で、事前調査費・除去工事費・廃棄物処理費などが補助対象となるケースが多く見られます。

申請には、工事前の事前申請が必須であり、着工後の申請は認められない場合があるため注意が必要です。

また、自治体によって補助率や上限額、対象工事の範囲が異なるため、事前に公式サイトや窓口で詳細を確認することが重要です。

空き家解体と石綿処理のコスト比較

空き家の解体費用は、建物の構造や規模によって異なりますが、木造住宅の場合で一般的に100万〜200万円程度が相場です。

一方、石綿含有建材が使用されている場合は、除去作業に加えて特別管理産業廃棄物としての処理が必要となり、追加で数十万円以上の費用が発生することがあります。

特に、屋根材や外壁材に石綿が含まれているケースでは、飛散防止措置や密閉作業が求められるため、通常の解体よりも手間とコストがかかります。

そのため、空き家解体を検討する際は、事前調査によって石綿の有無を確認し、除去費用を含めた総額で見積もりを取ることが重要です。

自治体によっては、空き家対策と石綿除去を同時に支援する補助制度も存在するため、制度の併用による費用軽減も視野に入れておくとよいでしょう。

石綿に関するよくある質問

石綿建材はすべて撤去しなければならない?

石綿建材が使用されているからといって、すべてを即座に除去しなければならないわけではありません。

現行制度では、建材が劣化して飛散の恐れがある場合や、改修・解体工事に伴い石綿が露出する場合に除去義務が生じます。

使用状態が安定しており、飛散の可能性が低い場合は、適切な管理のもとで維持することも認められています。

ただし、事前調査と報告は義務化されており、石綿の有無を把握したうえで対応方針を決定することが重要です。

封じ込めと除去、どちらが安全?

石綿建材への対応として「封じ込め」と「除去」がありますが、安全性の観点では状況により適切な方法が異なります。

封じ込めは石綿が飛散しないよう密閉・被覆する方法で、建材が劣化していない場合に有効です。

一方、除去は石綿を完全に取り除くため、将来的なリスクを排除できる点でより安全とされます。

ただし、除去には高い専門性と厳重な管理が求められるため、事前調査に基づき適切な方法を選択することが重要です。

基本的には封じ込めは一時的な対応であり、長期的には除去が推奨されるケースが多くなります。

石綿調査は誰が行うべき?資格は必要

石綿調査は、一定の資格を有する専門技術者が行う必要があります。

具体的には「建築物石綿含有建材調査者」の有資格者が対象です。

2022年の法改正により、一定規模以上の工事では有資格者による事前調査と報告が義務化されました。

資格がない者による調査は認められず、報告内容の正確性が問われるため、専門知識と実務経験を備えた調査者を選ぶようにしましょう。

また、除去作業には「石綿作業主任者」の資格が必要です。

おさだ事務所では建設業にかかわるご相談を承っております。

解体工事業など、建設業許可の取得もおさだ事務所にぜひお任せください!

【参考サイト】

アスベスト(石綿)情報 |厚生労働省

【こちらもご覧ください】

建物を壊すだけじゃない?解体工事の基本・建設業許可・解体工事業登録制度まで徹底解説! | 建設業専門 おさだ事務所

おすすめ

-営業許可