国内の建設市場は2025年、緩やかな回復傾向を見せています。
新型コロナの影響や資材価格の変動で停滞していた建設投資も、民間投資の回復や政府によるインフラ関連の支出により回復しつつあります。
特に三大都市圏では、オフィスや住宅の再開発が進み、地方圏でも公共事業を中心に建設需要は安定しています。
円安やインバウンド需要の増加が民間投資を促進し、脱炭素社会に向けた建築需要の高まりも市場の下支えとなっています。
今回は、民間や政府投資の動向、地域別市場の比較、資材価格や人材不足などの課題まで幅広くやさしく解説します。
2025年の建設市場は回復基調

2025年の建設市場は、徐々に回復の兆しを見せています。
ここ数年は経済の変動や社会的要因で停滞していましたが、建築需要の高まりや都市開発により、市場は再び活気を取り戻しつつあります。
新しい建築プロジェクトや再開発計画も進み、各地域で前向きな動きもみられます。
また、環境配慮や持続可能性を意識した建築の需要も高まっており、建設市場に新しい動きも見られます。
建設投資総額は75兆円超へ回復
2025年の建設市場では少しずつ回復が進んでいます。
国土交通省が公表した「令和7年度建設投資見通し」によると、2025年度の建設投資総額は75.6兆円(前年比+3.3%)となり、3年連続の増加が予測されています。
内訳は、政府投資が約25兆円、民間投資が約50兆円で、民間の伸びが大きな要因です。
背景には、老朽化した社会インフラの更新や、工場・物流施設などの設備投資需要があります。
全体の約65%が建築分野で、土木分野が約35%を占め、住宅や都市再開発も堅調です。
建設業界は需要面では回復傾向にあり、景気を支える重要な役割を果たすと見込まれています。
民間建設投資が回復を牽引する理由
民間建設投資は、2025年の建設市場回復の中心です。
2025年度における民間建設投資は 約50兆3,600億円(名目値、前年比 +4.5%)と見込まれています。
近年は経済停滞や資材費の上昇により、企業や個人の投資が控えられる時期もありました。
しかし、経済活動の再開や都市開発プロジェクトの増加に伴い、投資は再び活発化しています。
特にオフィスや商業施設、住宅の新築や改修が増え、民間投資回復を支えていると考えられます。
加えて、省エネや環境配慮型建築への関心が高まっています。
民間建設投資は市場回復の原動力となり、業界全体の活性化にもつながっています。
政府建設投資の安定推移とインフラ整備
政府の建設投資も、2025年の建設市場を支えています。
政府の建設投資は 約25兆2,100億円(名目値、前年度比 +0.7%)となっており、ほぼ横ばいで推移しています。
公共事業を中心にインフラ整備が進められており、一部では災害対策や環境対応型の施設更新を含む計画も進行中です。
さらに、災害対策や環境対応型のインフラ整備も進められ、持続可能な都市づくりが進められています。
このような政府の計画的な投資が、市場の安定化と建設業界全体の回復を下支えしています。
建設市場が回復に向かう要因

経済の停滞や社会的要因で需要が低迷していたものの、建築ニーズの増加や都市開発への関心の高まりにより、市場は再び活気を帯び始めています。
企業や自治体が新規プロジェクトの立案や既存計画の見直しを進めており、建設業界全体に前向きな動きが広がっています。
将来の成長を見据えた投資や取り組みも進行しており、市場回復の土台となっています。
円安とインバウンド効果
円安と訪日外国人(インバウンド)の増加が、都市部における住宅以外の建築の需要を押し上げています。
特に商業施設や宿泊施設、観光関連施設では、外国人観光客の増加に伴い新築や改修の需要が高まっています。
駅周辺や観光地で進む交通インフラ整備も、地域経済の活性化を後押ししています。
ただし、円安やインバウンド効果は特定の都市や分野に偏る傾向があり、建設投資全体に対する影響をみるには十分ではありません。
そのため、建設市場全体の回復を判断する際は、民間投資や公共投資、再開発プロジェクトなどと併せて総合的に検討することが重要です。
為替の変動や観光需要の推移などにも注目し、地域の特性に応じた建設計画や投資戦略への反映が大切です。
オフィス・住宅市場の再活性化
2025年度の建設市場では、オフィスや商業施設などの非住宅建築が市場を支えています。
民間非住宅建設投資は前年度比約 +8.7% の伸びが見込まれており、特に非住宅建築は +12.9% と大幅な増加が予測されています。
一方、住宅の建設は前年度比 +1.2% 程度の増加が見込まれています。
都市部ではマンションや戸建ての新築が増加傾向にあり、老朽住宅の建て替えや改修も順調に推移しています。
脱炭素社会に向けた建築需要の高まり
脱炭素社会とは、二酸化炭素など温室効果ガスの排出をできるだけ減らし、最終的にゼロにする社会のことです。
地球温暖化の原因は、人間活動によるCO2排出です。
これを放置すると気温上昇や豪雨、海面上昇など生活への深刻な影響が広がります。
そのため世界は「パリ協定」で平均気温の上昇を1.5~2℃以内に抑える目標を掲げ、再生可能エネルギーの利用や省エネ技術の導入を進めています。
このような脱炭素社会への移行により、建築分野でも省エネや環境配慮型の建物への関心が高まっています。
企業や自治体では、エネルギー効率の高い建物や再生可能エネルギーを活用した施設整備が進められています。
さらに、既存建物の改修や断熱・省エネ設備の導入も進み、環境基準に適合した建築物が増加しています。
地域別・建設市場回復の見通し

地域によって建設市場の回復傾向は異なり、都市部と地方部では需要の動向や回復速度に差が見られます。
都市部では大型プロジェクトや再開発が中心となり、地方では公共事業やインフラ整備が市場の安定を支えています。
建設業者が各地域の傾向を把握することは、投資判断や事業計画の策定にも影響します。
また、人口動態や経済活動、地域特有の産業構造も建設需要に影響します。
本章では、地域ごとの市場動向と回復の兆しを整理します。
三大都市圏における再開発と建設市場の動向
東京・大阪・名古屋の三大都市圏では、再開発プロジェクトが建設市場をけん引しています。
都市部では老朽化したオフィスビルや商業施設の建て替えが進み、駅周辺や中心市街地で新しい施設の建設計画が増えています。
また、高層ビルや複合施設の開発も活発で、都市の利便性向上や経済活動の拡大につながっています。
さらに、都市インフラの整備や環境対応型建築の導入も進み、持続可能な都市づくりが加速しています。
これらの動きは地域経済の活性化に寄与するだけでなく、業界全体の需要拡大にも結びついています。
地方圏の建設市場は公共事業中心に安定推移
地方における建設市場は公共事業が中心です。
道路や橋、学校などのインフラ整備や施設更新が市場を支えています。
また、地域特有の災害対策や老朽化建物の改修などによる投資は、地域経済の安定化に影響しています。
しかし、民間投資は人口減少や企業の集中度に左右され、地域間で回復の速度や需要規模にばらつきが生じています。
建設市場の回復を阻む課題と今後の見通し

2025年の建設市場は回復の兆しを見せているものの、依然として課題は山積しています。
現場では、資材価格の上昇や人件費の増加、人材不足などの課題が重なり、企業の経営を圧迫しています。
特に中小企業は影響を受けやすく、倒産リスクも高まっています。
こうした状況を理解することは、今後の建設市場の動きを考えるうえで欠かせません。
業界の未来を見通すためには、課題と展望を整理し、持続的な成長につなげる視点が必要です。
資材価格と人件費の高騰が建設業界に与える影響
建設業界では、資材価格や人件費の高騰が大きな課題となっています。
ウクライナ情勢や円安の影響で鉄鋼やセメントなど主要資材が値上がりし、企業は価格転嫁が難しく利益を圧迫されています。
特に中小企業は交渉力が弱く、受注価格に反映できず赤字受注に陥るケースも増えています。
さらに人件費の上昇は慢性的な人手不足と直結しており、現場の生産性低下を招いています。
これらの負担は資金繰りを悪化させ、倒産件数の増加にもつながっています。
結果として、投資額が増加しても企業の景況感は「踊り場」や「悪化」との回答が多く、業界全体の回復を阻む要因となっています。
資材と人件費の高騰は、建設業界の持続的成長に向けた最大の課題といえます。
人材不足と技能継承の課題
建設業界では人材不足と技能継承の課題が深刻化しています。
技能労働者は1997年以降減少傾向にあり、2035年には約129万人が不足すると予測されています。
高齢化が進みベテラン技術者の引退が相次ぐ一方で、若年層の入職は伸び悩み、現場の担い手が減少しています。
その結果、工期の遅延や品質低下のリスクが高まり、企業の競争力にも影響を及ぼしています。
さらに技能継承が十分に進まないことで、熟練者のノウハウが失われ、次世代への技術伝達が途絶える懸念があります。
特に中小企業では教育体制や人材育成の余力が乏しく、課題が顕著です。
人材不足と技能継承の停滞は、建設業界の持続的成長を阻む大きな要因です。
今後はデジタル技術の活用や教育制度の強化が急務となってきます。
2026年以降の建設市場予測
2026年以降の建設市場は、全体として拡大傾向が続くと見込まれています。
建設投資額は2026年度に約80兆円規模へ達すると予測され、企業の設備投資や観光需要の回復、老朽化したインフラの更新などが成長を支える要因となります。
特に物流施設やデータセンター、ホテルなどの非住宅分野は需要が高まり、脱炭素社会に向けた省エネ建築や再生可能エネルギー関連施設の建設も増える見通しです。
一方で、技能労働者の不足や資材・人件費の上昇といった課題もあり、供給面での制約が市場拡大の足かせになる可能性があります。
住宅分野では人口減少により新築需要は減少傾向ですが、リフォームや改修投資は堅調に推移すると考えられます。
つまり、2026年以降の建設市場は「成長分野の拡大」と「人手不足やコスト上昇への対応」が同時に求められる局面に入るといえるでしょう。
2025年の建設市場に関するよくある質問(FAQ)

建設市場は多様な要因が複雑に絡み合うため、疑問が生じやすいです。
次に建設市場に関してよく寄せられる質問を解説します。
建設市場は2025年以降も回復・成長を続けるのか?
2026年の建設市場は、投資額の増加により回復基調が続くと見込まれています。
国土交通省の見通しでは、2025年度の建設投資総額は3年連続で拡大する予定です。
背景には、工場や物流施設の建設、都市再開発、老朽化したインフラの更新需要があります。
ただし、資材価格や人件費の高騰、人材不足と技能継承の停滞が企業経営を圧迫し、特に中小企業では倒産リスクが高まっています。
今後は建設ロボットや3Dプリンターなどの自動化技術、省人化施工の推進、若年層の入職促進が市場安定の鍵です。
需要は堅調でも供給力不足が続けば成長は鈍化するため、技術革新と人材育成が持続的成長の条件となるでしょう。
民間投資と政府投資の違いとは?
建設市場の投資は、民間投資と政府投資に大きく分けられます。
民間投資は企業や個人が主体で、オフィスビルや商業施設、住宅などの建設に資金を投入します。
景気や市場の需要に左右されやすく、特に回復期には建設市場の成長を牽引する役割を果たします。
一方、政府投資は公共事業やインフラ整備、災害対策などを目的とし、景気変動の影響を受けにくく、市場の安定要素として機能します。
民間投資は成長を牽引する力となり、政府投資は市場の安定を支える柱です。
両者のバランスが、建設市場の持続的な発展に直結します。
建設業界の人材不足はどの程度深刻?
建設業界の人材不足は非常に深刻です。
就業者数は1997年の約685万人から2022年には約479万人へと大幅に減少し、現在はピーク時より200万人以上少なくなっています。
さらに労働者の高齢化が進み、55歳以上が約3割を超える一方で、29歳以下はわずか1割程度しかいません。
熟練者の引退が進む中、若手の入職が伸び悩み、技能の継承が難しくなっています。
求人倍率も高く、2025年には有効求人倍率が5倍を超え、求職者1人に対して複数の求人がある状況です。
企業は人材確保が困難で、工事の遅延や品質低下、さらには倒産リスクにも直結しています。
建設市場の最新動向を踏まえた経営判断や労務対応には、専門的な知識と確かな根拠が欠かせません。
おさだ事務所では法令・労務・業界情報に精通した専門家が、企業の課題解決を丁寧にサポートします。
【参考サイト 】
国土交通省「建設投資見通し2025年版」
報道発表資料:令和7年度(2025年度)建設投資見通し - 国土交通省
日本建設業連合会「建設経済動向調査」
1. 建設投資の動向 | 建設市場の現状 | 日本建設業連合会


