「監理技術者の常駐義務って何?配置要件や専任と何が違うの?」
「一般から特定へ許可の変更を検討しているから、今後の人材配置のためにも緩和条件について知りたい」
――と思われていませんか?
管理技術者は建設現場の「司令塔」として、施工計画の作成から工程・品質管理、現場で働く従業員の指導監督などの役割を果たしています。まさに建設プロジェクトの成功には不可欠な存在です。ただ、人手不足が深刻な建設業界において、監理技術者に課せられる義務が建設業者の負担になっていました。
そこで、国土交通省は制度の見直しを行い、一部ルールを緩和したのです。
この記事では、監理技術者の常駐義務(配置要件・専任)や規制緩和、国土交通省による制度の見直しとその背景についてまとめました。
監理技術者の義務について理解を深め、今後の人材配置のための一助になれば幸いです。
監理技術者の常駐義務とは
監理技術者に課せられる義務として、配置要件と専任が求められる工事がありますが、これにより1つの工事現場にとどまることを「常駐義務」と称する場合があります。つまり常駐義務とは、配置要件と専任が求められることにより発生した常駐性を指していると言って良いでしょう。
専任=常駐と思われがちですが、実は違います。
国土交通省の『監理技術者制度運用マニュアル』によると、常駐とは継続的に工事現場に滞在していることであって、専任が求められるからと言って必ずしも工事現場への常駐を余儀なくされるわけではないのです。
参考:監理技術者制度運用マニュアル(PDF)|国土交通省 9項
続けて、配置要件と専任が求められる工事について解説していきます。
監理技術者の配置要件
以下は監理技術者の設置に関する建設業法の記述です。
2 発注者から直接建設工事を請け負つた特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が第三条第一項第二号の政令で定める金額以上になる場合においては、前項の規定にかかわらず、当該建設工事に関し第十五条第二号イ、ロ又はハに該当する者(当該建設工事に係る建設業が指定建設業である場合にあつては、同号イに該当する者又は同号ハの規定により国土交通大臣が同号イに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者)で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「監理技術者」という。)を置かなければならない。
引用元:建設業法 第二十六条(主任技術者及び監理技術者の設置等)|e-Gov法令検索
「第三条第一項第二号の政令で定める金額」は確か4,000万円、建築工事業は6,000万円でしたっけ?
いいえ、令和5年1月1日から監理技術者の配置が必要な下請け代金額は4,500万円に変更されています。建築工事業は7,000万円となります。
建設業法の記述では少し分かりにくいですが、発注者から直接請け負った工事の代金合計が4,500万円以上(建築一式工事7,000万円以上)になる場合、監理技術者を配置することになっています。
もちろん特定建設業許可が必要な下請け代金額も4,500万円以上に変更されています。これら金額の変更は消費税増額と物価上昇も影響しています。
▼特定建設業許可についてはこちらの記事をご覧ください。
監理技術者の専任が求められる工事
以下は監理技術者の専任が求められる工事に関する建設業法の記述です。
3 公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるものについては、前二項の規定により置かなければならない主任技術者又は監理技術者は、工事現場ごとに、専任の者でなければならない。
引用元:建設業法 第二十六条(主任技術者及び監理技術者の設置等)|e-Gov法令検索
原則、公共性のある重要な工事には、専任で主任技術者又は監理技術者を配置する必要があります。
ここでの公共性のある重要な工事ってどんな工事を指しますか?
1件あたりの請負金額が4,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上の個人住宅を除く建設工事です。
道路、鉄道、学校、病院、共同住宅といった、個人住宅を除くほとんどの建設工事が該当します。なお、1件あたりの請負金額は前述の配置要件同様、令和5年1月1日より変更された金額であり、国土交通省による制度の見直しの一環でもあります。
▼主任技術者についてはこちらの記事をご覧ください。
監理技術者に関する規制緩和
建設業法の改正により、条件付きではありますが、2020年10月1日から2つまでの現場を兼務できるようになりました。その条件とは、「監理技術者補佐」を現場に配置することです。これにより、監理技術者は2つの現場を兼務できるようになります。
2つの現場を兼務する監理技術者のことを「特例監理技術者」と呼びます。
なお、監理技術者補佐になるには「一級技士補」という資格が必要です。
▼監理技術者の兼務についてはこちらの記事で詳しく解説されています。
国土交通省による制度の見直し
国土交通省は近年、技術者制度の見直しを行い、専任配置等のルールを緩和しました。これにより、従来よりも柔軟かつ適切な人材配置を行うことができるようになりました。
項 | 改正概要 | 概要 | 実施状況 |
---|---|---|---|
1 | 金額要件の見直し | 専任を求める金額を見直し引き上げることにより、専任不要の上限額を引き上げる。 | 令和5年1月1日より実施 |
2 | 技術者の途中交代条件の見直し | 一定の条件と発注者との合意により、監理技術者等の途中交代を可能にする。 | 令和5年1月1日より実施 |
3 | 同一工事と見なす範囲の見直し | 同一の建築物および関連・連続する工事の管理を同じ監理技術者に任せることにより、合理化を図る。 | 令和5年1月1日より実施 |
4 | 実務経験による技術者要件の見直し | 技術検定の合格を指定学科卒と同等に扱い、実務経験を短縮する。 | 令和5年7月1日より実施 |
5 | 技術検定の受検資格の見直し | 受検資格を見直し、検定制度の合理化を図る(令和6年度以降を予定)。 | 未実施 |
6 | 専任技術者の要件の緩和 | 適切にICT(情報通信技術)を取り入れることにより、遠隔での施工管理を実現する。また専任技術者と監理技術者の兼任配置も条件により可能にする。 | 未実施 |
この緩和措置は、建設業界において新たな働き方の模索と、プロジェクトの多様性を受け入れる一歩となるでしょう。
背景と目的
国土交通省による制度の見直しには、建設業界の深刻な労働力不足(建設業希望者の減少・離職者増加・高齢化)が背景にあります。労働力は不足しても、建設プロジェクトには常に生産性の向上が求められ、それに対応するためのニーズは高まる一方です。
そこで制度の見直しを行い、限られた人材を有効活用していく施策が盛り込まれました。これにより、建設業界の持続可能な発展が期待されます。
今後の展望
これら制度の見直しは、各技術者がプロジェクトに効率的かつ合理的に関与できるようにし、業界全体の品質と効率を向上させる可能性を秘めています。今後も更なる改善や適応が進むでしょう。
その過程で、業界は新しいチャレンジと機会に直面し、持続可能で効果的な方法を追求していく必要があります。改善や適応の具体案として、ICT(情報通信技術)の活用がありますが、テクノロジーの進化により監理技術者の役割や責任が再定義され、新しい働き方や協力の形が生まれるかもしれません。
これらの変更と進展がどのように業界に影響を与えるかは未知数ですが、技術者制度の見直しに伴う改革は、建設業界の未来を形作る重要な要素となるでしょう。
まとめ
「監理技術者の常駐義務とは?」という疑問から、常駐義務(配置要件・専任)や規制緩和、国土交通省による制度の見直しとその背景について解説しました。
要点まとめ
- 監理技術者の常駐義務とは:配置要件と専任が求められることにより発生した常駐性を指す。
- 監理技術者に関する規制緩和:「監理技術者補佐」を現場に配置することで2つの現場の兼務が可能。
- 国土交通省による制度の見直し(背景:建設業界の深刻な労働力不足)
- 金額要件の見直し
- 技術者の途中交代条件の見直し
- 同一工事と見なす範囲の見直し
- 実務経験による技術者要件の見直し
- 技術検定の受検資格の見直し(未実施)
- 専任技術者の要件の緩和(未実施)
国土交通省の制度の見直しによるルールの緩和は、建設業界における働き方の多様性や効率の向上に貢献し、業界全体の発展を促進していくでしょう。とはいえ、建設業者により抱える問題は様々です。
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