建設業法と入契法の改正が2024年9月・12月の一部施行を経て、2025年12月12日に全面施行されました。
これにより、「不当に低い請負代金の禁止」「著しく短い工期の禁止」「見積書の労務費明示」「入札内訳書の記載義務」などの規定がすべて適用されました。
従来の短工期・低価格に依存した取引慣行は大きく見直され、企業は適正な工期設定や労務費の確保を前提とした契約運用へ移行する必要が生じています。
この記事では、改正の背景から実務対応、2026年以降の業界動向まで押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
建設業法・入契法改正のポイント

建設業法・入契法の改正の背景には、建設業特有の構造的な課題があります。
さらに、2024年建設業にも時間外労働の上限規制が適用され(建設業の2024年問題)、従来のやり方では現場が回らなくなります。
この章では、まず改正の背景と目的を整理し、なぜ今この見直しが必要なのかを解説していきます。
改正の背景と目的
改正の背景には、若手不足による担い手の減少、労務費の圧迫、そして現場に根強く残る長時間労働などの問題があります。
今回の法改正は「短工期・低価格」に依存した取引慣行を見直し、建設業界全体の働き方と価格形成を健全化することが目的です。
次に建設業界が抱えている課題について詳しく見ていきましょう。
担い手不足、高齢化の深刻化
建設業界では、長年続く担い手不足と技能者の高齢化が深刻な課題になっています。
現場で中心的な役割を担ってきたベテラン技能者の多くが60代に差しかかり、引退が現実味を帯びる一方で、若手の入職者は十分に増えていません。
その結果、経験豊富な人材が減り、現場の技術継承や安全管理にも影響が出始めています。
長時間労働の是正
時間外労働の上限規制が本格的に適用され、従来の働き方を続けることが難しくなりました。
実際、現場に負担のかかる工事が多く、人員不足を補うために長時間労働に頼らざるを得ない状況が常態化していました。
しかし、これまでのような無理な工程では法令違反となる可能性が高まり、企業は工期設定や人員配置の見直しを迫られています。
資材価格高騰による労務費の圧迫
鉄筋やコンクリート、木材など主要資材の価格が上昇すると、限られた工事予算の中でまず削られやすいのが労務費です。
その結果、技能者の賃金が十分に確保されず、処遇改善が進まない状況が続いてきました。
さらに、資材費の増加分を適切に価格転嫁できないケースも多く、元請・下請の双方で原価割れリスクが高まっています。
適正な価格形成と働き方改革の推進
建設業界では、資材価格の高騰や人件費の上昇があっても十分に価格転嫁できない状態が続いています。
これに対し、国は適正な工期と価格を確保し、技能者が安心して働ける環境を整えることを目的として労務費の明確化や契約内容の適正化を強化しました。
適正な価格形成は、働き方改革を実現するためにも重要です。
労働基準法との関係
2024年に建設業にも適用された働き方改革関連法(労働基準法改正)の時間外労働の上限規制とも密接に関係しています。
この上限規制の適用により、従来のような無理な工程や人員配置では法令遵守が難しくなっています。
そこで今回の改正では、適正な工期設定や労務費の明確化、原価割れを防ぐ契約ルールの整備など、働き方改革を現場レベルで実現を大きな目標としています。
今後の全面施行で変わる主要ポイント
建設業法・入契法の改正は、国土交通省が掲げる「処遇改善・労務費のしわ寄せ防止・働き方改革」という3本柱を軸に、業界全体の取引ルールを大きく見直すものです。
これまで課題となってきた慣行を改め、労務費・工期・契約内容を適正化することで、技能者が安心して働ける環境を整えることが重要です。
ここからは、具体的にどのようなルールが変わるのか、重要となるポイントを整理していきます。
原価割れ契約の禁止
競争の激化や発注者からの強い価格圧力により、実際の原価を下回る金額で受注せざるを得ないケースが少なくありません。
しかし、原価割れの契約は適正な労務費を確保できず、長時間労働の温床となり、結果的に品質や安全にも影響します。
こうした悪循環を断ち切るため、改正では「著しく低い請負代金での契約」を禁止し、元請・下請の双方が適正な価格で契約することが定められました。
不当に安い見積依頼の禁止
現場では、発注者から実勢とかけ離れた低い金額で見積を求められることが多く見受けられます。
その結果、下請企業が原価割れを前提に見積を提出せざるを得ないケースが少なくありませんでした。
これは技能者の賃金確保が難しくなり、処遇悪化につながる大きな要因にもなっています。
今回の改正により、発注者が著しく低い労務費を前提とした見積依頼を行った場合は、勧告や公表の対象となります。
著しく短い工期の禁止
建設業界では、実際の作業量や人員体制に見合わない工期が設定されることが少なくありません。
現場では長時間労働や休日出勤が常態化し、時間外労働の上限規制との整合性が取れない状況です。
改正では、こうした無理な工期設定を防ぐため、「著しく短い工期」での契約を禁止し、適正な工期を確保することが求められました。
見積書の内訳明確化
これまでは見積書の記載が「一式」や大まかな金額にとどまり、労務費・材料費・経費などの内訳が十分に示されないケースが多く見られました。
発注者が適正な労務費を理解しにくく、価格交渉の過程で労務費が削られてしまうことも少なくありません。
そのため、見積書に労務費を含む内訳を明確に記載することが求められ、元請・下請の双方が適正な根拠をもって価格を提示しなくてはなりません。
処遇改善の明文化
技能者の賃金や待遇は、現場の状況や企業ごとの判断に委ねられることが多く、適正な労務費が確保されないまま工事が進むケースも少なくありません。
その結果、若手の入職が進まず、担い手不足や技術継承の停滞につながっていました。
改正建設業法では、技能者の処遇改善が法律上の基本理念として位置づけられ、適正な労務費の確保が明確に求められるようになりました。
「建設業法」改正で必要な対応

建設業法の改正によって、企業はこれまでの慣行を見直し適正な実務対応をしなければなりません。
特に重要となるのが、見積書への労務費明示、無理のない工期設定、そして契約書や取引ルールの見直しです。
ここでは、企業が優先して取り組むべき3つの実務対応を整理します。
見積書の労務費明示
改正により、見積書には労務費を含む内訳を明確に記載することが求められます。
従来の表記では、発注者が適正な労務費を把握しづらく、結果として価格交渉の過程で労務費が削られるケースが多く見られました。
労務費を明示することで、技能者の賃金水準を適切に確保しやすくなり、処遇改善にも直結します。
また、元請・下請双方が根拠を持って価格を提示できるため、透明性の高い取引が実現し、原価割れリスクの低減にもなります。
工期設定の見直し
時間外労働の上限規制が適用されたことで、従来のような短工期前提の工事では法令遵守が難しくなりました。
改正では「著しく短い工期」の禁止が明確化され、適正な工期設定が企業の重要な責務となります。
工期が適正でなければ、長時間労働の常態化や安全性の低下につながり、結果として品質や工程にも悪影響を及ぼします。
企業は、作業量・人員配置・季節要因などを踏まえた工期設定基準を作成し、発注者に対して説明できる体制を整える必要があります。
契約書・取引ルールの見直し
法改正により、契約内容の適正化がこれまで以上に求められるようになりました。
特に、原価割れ契約の禁止や不当に安い見積依頼の禁止など、価格や工期に関するルールが強化されています。
これに対応するため、企業は契約書の条項を見直し、工期変更の手続き、価格変更の協議方法、労務費の扱いなどを明確にしておく必要があります。
また、下請への情報提供や協議の記録化など、取引の透明性を高める取り組みも重要です。
「入契法」改正で変わる入札・契約ルール

入札契約適正化法(入契法)の改正により、入札や契約における透明性と公平性がこれまで以上に求められるようになります。
特に、内訳書の記載義務化、不当に低い入札・契約の排除、そして適正な労務費の反映といったポイントは、技能者の処遇改善や適正価格の確保に直結します。
そして元請・下請・発注者のすべてが遵守しなければなりません。
ここでは、改正によって具体的にどのような点が変わるのか、企業が押さえておくべき主要ポイントを整理します。
内訳書の記載義務
改正により、入札時に提出する内訳書の記載が義務化され、労務費・材料費・経費などの内訳を明確に示すことが求められます。
従来は発注者が適正な労務費を把握しづらい状況がありましたが、内訳書の明確化により、価格の根拠が可視化され、透明性が高くなります。
また、内訳が明確であれば、労務費の削減を前提とした不当な値引き要求を防ぐ効果も期待できます。
不当に低い入札・契約の排除
入契法改正では、著しく低い価格での入札や契約の排除が強化されます。
これまでの建設業界では、競争の激化により原価を下回る入札が行われ、結果として労務費のしわ寄せや品質低下につながるケースが問題視されてきました。
改正後は、発注者が不当に低い価格での契約を行った場合、勧告や公表の対象となる可能性があり、適正価格での取引が強く求められます。
適正な労務費を反映
改正では、労務費を適正に反映した見積・契約を行うことが明確に求められます。
国土交通省は「中央建設業審議会で労務費の基準を作成・勧告できる」と明記しています。
今後は労務費の標準的な水準が示されることで、適正な賃金確保がより進むことが期待されます。
法改正における実務チェックリスト

企業はこれまでの取引慣行を見直し、適正な工期・価格・労務費を確保するための実務対応を早急に進める必要があります。
また、価格の根拠づくりや、下請との協議記録の整備など、日常業務に直結する見直しポイントも多く存在します。
ここでは、元請・下請それぞれが実務で押さえておくべきチェック項目を整理します。
元請向けのチェックリスト
元請企業は、改正内容を現場で確実に運用するための管理体制を整える必要があります。
- 見積書の内訳(労務費・材料費・経費)の明確化
- 下請への適正な価格転嫁のルール整備
- 工期設定の根拠資料(作業量・人数・工程表など)の準備
- 発注者との協議内容の記録化
- 契約書の条項見直し(工期変更・価格協議・労務費扱い)
- 不当に低い見積依頼を受けた際の対応方針の策定
下請向けのチェックリスト
下請企業は、適正な労務費を確保し、無理な工期や価格での契約を避けるための準備が重要です。
- 労務費の算定方法と根拠資料の整理
- 内訳書の作成ルールの整備
- 原価割れにつながる契約条件のチェック
- 工期が適正かどうかの判断基準づくり
- 元請との協議内容の記録化
- 労務費基準(中央建設業審議会の勧告)への対応準備
2026年以降の建設業界の動向

2026年以降、建設業界は「働き方改革の本格定着」と「生産性向上」を軸に大きく変化していきます。
この動きは、単なる制度変更ではなく業界全体が持続可能な形へと転換していくために重要です。
ここでは、2026年以降に特に重要となる3つの動向について解説します。
週休2日(4週8休)への移行
2026年以降は、国や発注者による週休2日(4週8休)工事の推進が一層強まり、週休2日を前提とした工期設定が求められる場面が増えると見込まれます。
これまで土曜稼働が一般的だった現場も、働き方改革の流れを受けて休日日数の確保が必要です。
週休2日を実現するには、無理のない工期設定、工程の平準化、協力会社との調整が欠かせず、発注者側の理解も重要です。
休日を確保することで技能者の定着や若手入職の促進にもつながり、長期的には業界全体の安定した施工体制の構築に寄与します。
技能者処遇改善と標準労務費の普及
2026年以降は、技能者の処遇改善がより強く求められ、標準労務費の普及が進むと見込まれています。
標準労務費とは、建設現場で働く技能者に対して「最低限この水準は確保すべき」と国が示す労務費の基準値のことです。
これにより、労務費を削って価格を下げる従来の慣行は通用しにくくなり、見積書や契約書に適正な労務費を反映することが必須となります。
技能者の賃金が安定すれば、若手の入職促進や技術継承にもつながり、業界全体の持続可能性が高まります。
建設業法・入契法改正に関するFAQ

建設業法・入契法の改正は、見積・契約・工期設定といった日常業務に直結するため、現場からの疑問が寄せられています。
実務対応を進めるうえで必ず押さえておくべきポイントも多く、事前の理解が重要です。
ここでは、改正後の運用でよく問われる内容を整理します。
見積書には何を書けばよい?
具体的には以下のものを記載します。
- 材料費
- 労務費
- 建退共掛金
- 工程ごとの作業内容と必要日数
労務費には賃金のほか、法定福利費、安全衛生経費、間接労務費を含むことが国交省のガイドラインで示されています。
また建退共の掛金は労務費とは別項目として明示します。
さらに工事の工程ごとの作業および準備に必要な日数の記載も求められています。
民間工事にも適用される?
建設業法の規制は、公共工事だけではなく民間工事にも適用されます。
そのため、すべての発注者・元請・下請が対象となります。
特に、原価割れ契約の禁止や不当に安い見積依頼の禁止、著しく短い工期の排除といったルールは、民間工事でも同様に守らなければなりません。
一方、入契法は公共工事のみ適用されます。
違反したらどうなる?
違反した場合、行政からの指導・勧告・公表といった措置の対象となる可能性があります。
特に、発注者が不当に低い見積依頼を行ったり、著しく短い工期を押しつけたりした場合は、公表されるリスクが高まります。
公表されれば企業の信用に大きな影響が出る可能性があります。
さらに、適正な労務費を確保できなければ、労基法違反(時間外労働上限規制)につながる可能性もあり、企業としてのリスクは決して小さくありません。
【参考サイト】
建設産業・不動産業:建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について - 国土交通省
【こちらもご覧ください】
【働き方改革】建設業の労働時間問題に決着?労働基準法改正の要点を解説! | 建設業専門 おさだ事務所


