建設業では、工事の安全確保や法令順守の観点から、多くの書類が必要とされています。
中でも「安全書類」は、現場の作業員の健康状態や資格の有無、作業計画、安全対策などを把握・管理するために欠かせないものです。
今回は、建設業における安全書類の基本的な理解から、効率化を進めるための具体的な方法、導入メリットまで詳しく解説します。
建設現場にかかせない安全書類とは

「安全書類」とは、建設現場で元請け業者が下請け業者に求める労務・安全に関する書類のことです。
安全書類は法令遵守や労働災害防止の観点から非常に重要な役割を担っています。
しかし、安全書類は種類が多く、作成・管理の手間が膨大であることから、多くの現場で業務の非効率化の原因となっています。
また建設業界全体で人手不足が深刻化する中、限られた人員でこれらの書類を正確に作成・提出するのは大きな負担です。
さらに、元請会社ごとに書式や提出方法が異なるため、現場では戸惑うことも多いのが実情です。
安全書類の作成目的
安全書類は「労働安全衛生法」や「建設業法」などに基づいて作成・提出が義務づけられているものです。
以下のような目的で作成、提出が義務付けられています。
- 労働災害を未然に防ぐ
- 労働者の安全・健康を確保する
- 元請・下請企業間の責任区分を明確にする
- 行政監査に対応する
労働災害が起きた際にはすぐにその被災者の情報が必要になりますので、血液型や緊急連絡先などを現場が把握している必要があります。
また、その監督責任がどこにあるかも明確にしておくことも重要です。
このような理由により、安全書類の重要性は非常に高くなっているのです。
安全書類の主な内容
建設業の現場で使用される主な安全書類は次のものとなります。
- 現場に入る作業員の氏名や資格が記載された「作業員名簿」
- 労働者の健康状態を証明する「健康診断結果」
- 労災のリスクを減らすために作られた「安全衛生計画書」
- 再委託先の情報がわかる「再下請通知書」
これらは通称で「グリーンファイル」「黒ファイル」とも呼ばれ、安全衛生のために提出が求められている重要な書類です。
法的に提出義務があるものと元請業者が自主的に求める書類とがあり、現場ごとに毎回提出しなくてはなりません。
しかしその煩雑さは建設業界全体の課題であり、いかに「効率化」するかが大きな課題ともなっているのです。
建設業の安全書類の効率化

安全書類の担当者はその業務のほとんどを安全書類の作成に費やしていることでしょう。
自社の安全書類の作成が終わっても協力会社の安全書類の管理もしなくてはならない場合もあります。
実際の現場では業務改善に向けてどのような対策が必要なのか見ていきましょう。
安全書類の作成管理の課題
建設業において安全書類が非効率になる主な要因は下記のものです。
- 書類の種類が多く、内容も煩雑
- 紙ベースでの管理が中心
- 元請けごとに形式や提出方法が異なる
- 同じ情報を何度も記載する必要がある
- 担当の属人化
安全書類は現場の規模や工期によって変動し、数十種類に及ぶことも中にはあります。
そしていまだに紙の書類で管理している企業が多く、記載ミスや記入漏れ、保管場所の確保、郵送・持参といったアナログな業務が負担を増やしています。
さらにフォーマットが統一されていないため、現場が変わるたびに新たな書式に対応しなければなりません。
安全書類を作成する担当は限られていることが多く、異動や退職などによる引継ぎをする際にも大きな労力を要します。
このような状況が建設業界にとって大きな負担となっているのです。
安全書類の効率化のメリット
安全書類を効率化することにより得られる効果は次のようになります。
- 業務時間の大幅削減
- ミス・提出漏れの防止
- 組織全体の生産性向上
今、少しでも現場の負担を軽減するために、安全書類の作成管理を効率化することが求められています。
テンプレート化やデジタル化することで手書きや転記作業が不要になり、作業時間をかなり減らせます。
またチェック機能があるので、記入漏れ・提出忘れなどのヒューマンエラーを未然に防ぐことも可能です。
書類作成・管理にかかる労力を現場管理や施工に集中できるようにすることで、本来の業務に注力できるようになります。
安全書類効率化の方法
安全書類の担当者は毎回その作成や管理について試行錯誤していることでしょう。
しかし担当者一人のマンパワーだけではできることにも限界があります。
専用ツールの利用や社内の協力を仰ぐだけでも十分に負担は減ります。
次に安全書類を効率化する方法について具体的に考えていきましょう。
書類のテンプレート化と社内マニュアル整備
よく使う書類をエクセルやPDFでテンプレート化し、作業員の情報・健康診断結果などの定型項目を自動反映できるようにしておくだけでも大幅な時短になります。
それらのファイルを共有フォルダに保存をすることで、業務に関わる人同士で利用することも可能です。
ただし、個人情報を多く含むためその管理には十分な注意が必要です。
また、マニュアル化することで担当者が変わっても業務が継続でき、担当者だけが把握しているという状態の防止にもつながります。
書類作成代行サービスの活用
書類作成に特化した外部業者に一部の業務を委託するという方法もあります。
特に人手不足の中小建設業者にとっては、業務負担を軽減する効果的な手段です。
こちらも個人情報の管理には厳重に注意する必要がありますので、利用には十分に検討する必要があります。
クラウド型管理ツールの導入
クラウド型管理ツールとは、書類や文書をクラウド上で一元管理し、サーバー上に保存できるシステムです。
クラウド型管理ツールを活用すると安全書類の作成・提出・管理がすべてオンラインで完結します。
提出や承認の進捗をリアルタイムで確認でき、一度登録した情報は複数の現場でつかいまわすこともできます。
さらに元請と下請の間のデータ共有もスムーズにできますので、導入のメリットは大きいと言えるでしょう。
安全書類のデジタル化が進む背景
建設業界の生産性向上や働き方改革を目的に、国が推進している取り組みとして、国土交通省は「安全書類電子化加速化事業」を行っています。
これは現場で扱われる作業員名簿や再下請通知書、安全衛生管理計画書などの安全書類を電子化し、紙ベースの煩雑な手続きをデジタルで効率化することを目的としています。
この事業において国はクラウド型の安全書類管理システムの普及を支援しています。
中小建設業者に対しては、IT導入補助金などを活用した導入支援策も用意されているので初期導入コストの負担を軽減できます。
今後はさらなる標準化や他の国のシステムとの連携も進められていくことでしょう。
安全書類のデジタル化でできること

安全書類をデジタル化するには、クラウド型管理ツールを使用するのが一般的です。
クラウド型管理ツールの種類は様々ですが、基本的にできることはほぼ同じです。
建設業界では、毎回同じ会社と取引するとは限りませんので、その仕様は誰でもわかりやすいものになっています。
次にクラウド型管理ツールでできることを具体的に見ていきましょう。
オンラインで完結
クラウド型管理ツールの最大の魅力は、安全書類の作成・提出・確認がすべてオンラインで完了する点です。
たとえば、従来なら作業員名簿を紙に印刷して提出していた作業も、フォーマットに入力するだけでよいのです。
元請業者もクラウド上で確認でき、承認状況もリアルタイムで把握できます。
特に便利なのは、一度登録したデータは他の現場でも使い回せることです。
現場ごとに毎回書き直す手間が省けます。
情報の共有
現場が増えるほど手間が増えるのが、協力会社や作業員の管理です。
各種クラウド型管理ツールでは、下請け企業や作業員のデータを登録・分類・共有する機能が備わっています。
現場単位での配置確認や資格の有無のチェックもシステム上で可能なので、安全管理や法令順守の強化にもつながるのが特徴です。
さらに、元請・下請間でのやり取りがリアルタイムで行えることで、意思疎通のスピードが上がり、現場全体の安全管理体制が強化されるというメリットも期待できます。
他社とのデータ連携
さらに他の建設ITツールと連携も可能です。
たとえば、工程管理ツールや、勤怠管理システムとの連携でデータの二重入力が不要になります。
これにより、現場管理者や事務スタッフの負担が大幅に減り、全体の業務スピードが向上します。
安全書類クラウド型管理ツールの使い方

便利なのはわかるけど使い方がわからない、難しそう、といった現場の声も多く聞かれます。
慣れるまでは大変な作業かもしれませんが、その使い方を理解すれば事務作業の軽減につながる可能性が高くなります。
ここではクラウド型管理ツールの主な使い方について解説していきましょう。
事前準備
どのクラウド型管理ツールにおいても事前準備はほぼ同じ方法となります。
まずクラウド型 管理ツールを利用するには、専用サイトからアカウントを作成します。
登録には以下のような情報が必要です。
- 会社名・所在地
- 建設業許可の有無
- 担当者の氏名と連絡先
利用申込後、簡単な審査が行われます。
利用開始にあたっては事務スタッフや現場担当者向けの操作説明も行われているため安心です。
小規模な事業者や一人親方、建設業許可を有しない事業者も利用できます。
また登録する際には、登記簿謄本に記載されている漢字などを用い正確な情報を入力するようにしましょう。
詳細の入力
事前登録ができるとIDが発行されるので、初期パスワードでログインします。
そしてパスワードを設定し、次に自社の詳細情報や協力会社の登録を行います。
主に登録する情報や書面は次のものです。
- 作業員名簿
- 組織図
- 健康診断結果
- 資格者証等の写し
- 保険証写し
詳細情報は決められたフォーマットに入力し、書面はPDFやJPEGでアップロードしていきます。
これらは一度作成すれば何度も使いまわすことが可能です。
そしてすべてクラウド上に保管されるので、過去の書類もいつでも呼び出せて便利です。
よくある操作ミス
クラウドサービス利用初心者によくあるのが、次のような操作ミスです。
- 書類のアップロード忘れ
- 詳細の誤入力
- 承認待ち書類の放置
登録が完了したと思っていたら、添付が抜けていた、書類が古いものだったなどということがよくあります。
また資格どは情報が細かく、同じような名称の資格も多いので間違えて入力してしまうこともあります。
入力した際にはダブルチェックをしたり操作マニュアルや研修動画をしっかり確認しておくと良いでしょう。
データを送信して終わったと安心していたら、取引先から修正依頼が来ている可能性もあります。
担当者が複数いる場合は「役割分担」を明確にしておくのがポイントです。
安全書類のデータは一度完璧なものを作り上げることでその後の作業が格段に楽になります。
最初は大変ですが、丁寧に作成するようにしましょう。
安全書類電子化のメリットと注意点

クラウド型管理ツールは大手ゼネコンだけでなく、中小規模の業者も多く利用しており業種や規模にかかわらず普及しているのが特徴です。
その使いやすさや現場が注意しなくてはならない点などを挙げていきましょう。
現場でのメリット
導入企業の声として下記のようなものがあげられます。
- 紙の提出がなくなって業務時間が減った
- FAXや電話のやり取りが大幅に減った
- 安全書類のミスが減少した
従来は手作業で時間がかかっていた書類作成や確認作業が短縮され、現場の生産性向上や残業削減にもつながっています。
さらに安全書類の電子化は、書類の紛失リスクを軽減し法令順守や監査対応の面でも有利に働きます。
利用費用
各種クラウドサービスの主な料金体系は次のようになります。
元請業者(現場登録側):有料(年間契約など)
下請業者(書類提出側):基本無料(一部有料機能あり)
「書類を提出するだけ」の下請け業者は無料で始められるケースが多く、導入のハードルは低めです。
提供している会社によってはこの費用は異なりますので、事前に確認するようにしましょう。
導入に関する注意点
一方で、クラウド型管理ツールが合わないと感じるケースもあります。
- パソコンやインターネット環境が整っていない
- 現場が少なく、書類も年に数回だけ
- 取引先が利用していない
- 英語や外国語対応が必要
取引先から求められている場合は導入が必須になりますが、自社に本当に必要な対応であるかどうかは社内で十分に検討する必要があります。
安全書類クラウド型管理ツールのよくある質問

クラウド型管理ツールを導入することで、安全書類の管理が一気に変わりますので不安になる人も多いことでしょう。
次に、クラウド型管理ツールについてよくある質問をまとめてみました。
パソコン操作が不安です
小規模な事業者やITに不慣れな方でも十分に使いこなせる仕様となっています。
各種クラウド型管理ツールは建設業の現場担当者でも簡単に操作できるよう設計されています。
基本的な操作はクリックやフォーム入力で完了するため、特別なITスキルは不要です。
また、公式マニュアルや動画コンテンツが充実しており、初心者向けの操作ガイドも用意されています。
さらに、サポートセンターでは電話やリモートでの操作支援も行っているため、導入初期からしっかりフォローしてもらえます。
導入費用が高そう
料金体系は、「元請業者向け」「下請業者向け」で異なり、利用する機能やユーザー数によって料金が変動します。
たとえば、元請プランでは登録現場数や協力会社数に応じた課金、下請プランでは登録ユーザー数による課金などがあります。
中小企業向けのプランも用意されており、有料であっても数千円〜の月額料金で導入可能です。
費用対効果の面でも、「事務コストの削減」「書類の再利用による時短」などを考慮すれば、十分に元が取れるサービスといえるでしょう。
導入前に無料トライアルや見積相談することも可能なので、不安がある場合はまず問い合わせてみるのがオススメです。
紙での保管は必要?
電子管理でも法令に準拠した保存が必要です。
安全書類の電子化に関しては、労働安全衛生法や建設業法、電子帳簿保存法などの関連法規を踏まえなくてはなりません。
クラウド型管理ツールはこれらの法律に準拠した形で書類を保存・管理する設計となっており、法的にも問題のないサービスです。
また、必要に応じて書類をPDFなどでダウンロードし、紙での保管にも対応できるようになっています。
監査や行政からの確認要請があった場合にもすぐに書類を出力できるため、安心して導入できます。
まとめ
建設業における安全書類の作成業務は、現場で働く人々にとって負担が大きく、時には本来の業務に集中できない原因にもなっています。
しかし、効率化を意識し自社に合った方法を選ぶことで、いままで煩雑だった作業が楽になり、より生産的な働き方へとシフトすることが可能です。
これからの建設業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)がますます重要になります。
デジタル化は紙の印刷や郵送が不要になり、環境への配慮とコスト削減の両方を実現できます。
これらは単なる業務改善だけでなく、企業全体の競争力強化にもつながることでしょう。