建設業では深刻な人手不足が続く中、外国人労働者の存在が現場を支える重要な戦力となっています。
技能実習や特定技能を中心に多くの外国人が働くようになり、現場の多国籍化は年々進んでいます。
一方で、言語や文化の違い、制度の複雑さなど、受け入れ企業が向き合うべき課題も少なくありません。
今回は、建設業における外国人労働者の現状と、現場で起きやすい課題やリスクを整理していきます。
建設業の外国人労働者の現状

外国人労働者の増加は、国籍の多様化や在留資格の違いによる働き方の差など、受け入れ企業が把握しておくべき注意点も少なくありません。
どれくらいの人数が働いているのか、どの国籍が多いのか、給与水準はどの程度なのかといった基本的な現状を知っておくことが重要です。
ここでは、建設業における外国人労働者の現状を三つの視点から整理します。
外国人労働者の数
建設業の外国人労働者数の現状は次の通りです。
- 建設業の外国人労働者は 15万人超
- 技能実習と特定技能が8割以上を占める
- 特に特定技能の増加が顕著
厚生労働省の調査では、建設業に従事する外国人労働者は 15万人を超え、前年比でも20%以上増えるなど、急速に受け入れが進んでいることが分かります。
特に、技能実習と特定技能の2つの在留資格が中心で、この2区分だけで全体の8割以上を占めています。
こうした背景から、外国人労働者は建設現場の重要な担い手となり、深刻な人手不足を補う存在として欠かせないものになっています。
外国人労働者の国籍
建設業で働く外国人労働者の国籍は、全体としてアジア圏が中心です。
また、日本で働く全体の外国人労働者の出身国の上位は次の国です。
- ベトナム
- 中国
- フィリピン
厚生労働省の統計によると、最も多いのはベトナムで、外国人労働者全体の約4分の1を占めています。
次いで中国、フィリピンが続き、建設現場でも一定の割合を占めています。
インドネシアやミャンマー、ネパールなどの国籍も増えており、建設業の現場は年々多国籍化が進んでいます。
外国人労働者の給与水準の目安
特定技能の給与相場と特徴は以下の通りです。
平均月給:概ね約21万円前後
地域差:最低賃金の高い都市部では上昇傾向
手当:通勤手当・住宅手当などを日本人と同条件で支給する必要あり
特定技能外国人の給与は、制度上「日本人と同等以上」が義務づけられています。
建設分野で働く外国人全体の所定内給与は平均21万円前後で、特定技能も概ね同程度の水準が多いと考えられます。
技能実習生については次の通りです。
平均月給:17万〜20万円程度(地域の最低賃金に依存)
残業代:日本人と同じ割増率で支給
手当:企業によっては皆勤手当・住宅補助などを付与
技能実習生の給与は、最低賃金以上で設定されるのが一般的です。
地域差はありますが、月17万〜20万円前後が目安です。
技能実習は「技能の習得」が目的のため、特定技能よりやや低めの給与設定が一般的です。
建設業で起きやすい外国人労働者の課題

建設業で外国人労働者の受け入れが進む一方、現場ではさまざまな課題が生じやすくなっています。
人手不足の解消という大きなメリットがある反面、言語や文化の違い、制度の複雑さなどは企業が適切に対応しなければいけません。
これらの課題は、日々の業務の中で小さなすれ違いとして現れることもあれば、労務トラブルや安全リスクといった大きな問題につながることもあります。
ここでは、建設業で特に発生しやすい課題を整理しその背景を解説します。
コミュニケーション問題
建設業の現場で外国人労働者が増えるにつれ、最も多く指摘されるのがコミュニケーションの問題です。
現場特有の言い回しや専門用語、指示の出し方など、複数の要因が重なって起きています。
まず、建設現場では「そこ持って」「ちょっと上」「こっち寄せて」など、曖昧な指示が日常的に使われます。
日本人同士なら文脈で理解できますが、外国人にとっては意味がつかみにくく誤解が生じやすい場面です。
また、建設業特有の専門用語も多く調べても分からない言葉が多いため、理解に時間がかかります。
さらに、外国人側が「分からない」と言いづらい雰囲気があると、理解しないまま作業を進めてしまい、事故につながることもあります。
文化的背景によっては、上司に質問すること自体が失礼と感じる国籍もあり、これもコミュニケーションの壁を厚くする要因です。
安全衛生に関する理解不足
建設現場でよく問題になりやすいのが、安全衛生に関する理解不足です。
建設業特有の安全文化やルールを十分に理解できていないことが背景にあります。
まず、日本の建設業は世界的に見ても安全基準が厳しく、細かな規定が多く存在します。
しかし、これらは日本独自の文化や慣習に基づく部分も多く、外国人労働者にとっては「なぜ必要なのか」が直感的に理解しづらいことがあります。
また、安全教育の多くが日本語で行われるため、内容を十分に理解できないまま作業に入ってしまうケースもあります。
特に、専門用語や抽象的な表現が多いと理解度に大きな差が生まれます。
例えば「足元注意」「巻き込まれ」「墜落・転落」など、危険の種類を正確に把握できないと、事故につながるリスクが高まります。
さらに、母国では安全対策が十分でない環境で働いていた人も多く、「危険を避ける」という意識そのものが日本と異なる場合もあります。
在留資格や技能実習生制度のトラブル
建設業で働く外国人の多くは「技能実習」「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格を持っています。
資格ごとに許可される仕事内容が厳密に決まっているため、少しでも逸脱すると不法就労に該当する恐れがあります。
例えば、次のような問題が実際に起きています。
- 技能実習の作業範囲を超えた業務をさせてしまう
- 特定技能の申請書類に不備があり、更新が間に合わない
- 在留期限の管理が不十分で、気づかないうちに期限切れになる
特に建設業は職種が細かく分類されているため、この作業はどの資格の範囲に入るのかという判断が難しく、企業側の理解不足がトラブルの原因になりやすい傾向にあります。
文化や宗教の違いによる摩擦
建設現場では文化や宗教の違いによる摩擦が起きやすくなっています。
まず、文化の違いによる摩擦として多いのが仕事の進め方や時間感覚の違いです。
日本では「時間厳守」「報連相」「細かい確認」が重視されますが、国によっては「多少の遅れは許容される」「指示は大まかでよい」といった価値観が一般的な場合もあります。
また、上下関係やコミュニケーションの取り方にも文化差が表れます。
上司に対して意見を言うことが普通の国もあれば、逆に質問すること自体が失礼とされる文化もあります。
そのため、日本側が「なぜ聞き返さないのか」と感じる一方で、外国人側が「怒られている」と受け取ったりと、双方にストレスが生じやすくなります。
宗教面では、食事・礼拝・服装・禁忌などが摩擦の原因になることがあります。
これらを理解せずに対応すると、本人にとっては重大な宗教的問題となり、トラブルにつながることがあります。
さらに、挨拶の仕方、休憩の取り方、仕事後の付き合い方など、日常の小さな違いが積み重なることで摩擦が生まれることがあります。
監理団体や支援機関の質のばらつき
技能実習生の場合は監理団体、特定技能の場合は登録支援機関が関わりますが、これらの組織の能力や運用体制には大きな差があります。
まず、質の高い団体は、法令遵守・書類管理・実習計画の作成・生活支援などを丁寧に行い、企業と外国人双方をしっかりサポートします。
しかし一方で、経験不足や人員不足、知識不足の団体も存在し、書類の不備や手続きの遅れ、制度理解の誤りが発生しやすくなります。
これにより、在留資格の更新が間に合わなかったり、実習計画と現場作業が一致せず指摘を受けたりと、企業側に大きな負担がかかるケースもあります。
また、支援機関の中には、外国人への生活支援や相談対応が十分に行われず、孤立や不満を抱えた外国人がトラブルを起こす原因になることもあります。
逆に、必要以上に介入し企業との連携がうまく取れない団体もあり、現場との温度差が摩擦を生むこともあります。
外国人労働者が建設業の事業主に与える影響

受け入れには一定の準備や体制整備が必要であり、現場運営や企業の管理体制に新たな課題が生まれることもあります。
そのため、日々の業務効率から安全管理、労務リスク、法令遵守に至るまで幅広く、事業主が適切に理解しておくことが欠かせません。
ここでは、外国人労働者の受け入れが建設業の事業主にどのような影響をもたらすのか、そのポイントを整理していきます。
人手不足の緩和
建設業は高齢化の進行や若年層の入職減少により、長年深刻な人材不足が続いています。
こうした状況の中で、外国人労働者は現場の即戦力として大きな役割を果たしています。
技能実習や特定技能を通じて受け入れが進むことで、企業は必要な人数を確保しやすくなり、安定した施工体制を維持できるようになります。
また、特定技能では一定の技能を持つ人材が多いため、教育期間を短縮でき、現場の生産性向上にもつながります。
さらに、外国人労働者の存在は、単に人数を補うだけでなく若い労働力の確保という点でも重要です。
体力を必要とする作業が多い建設業において、若年層の外国人が加わることで、現場の活力が高まり、チーム全体の作業効率が向上するケースもあります。
教育コストや管理負担の増加
教育コストの増加として大きなウェイトを占めるのが、言語の壁を前提とした指導体制の整備です。
建設現場では専門用語や独特の指示が多く、外国人労働者が理解するまでに時間がかかります。
そのため、通常の新人教育に加えて、やさしい日本語の使用、図解資料の作成、多言語マニュアルの準備など、追加の教育工数が必要になります。
また、特定技能では技能評価試験の受験支援も求められるため、教育担当者の負担はさらに大きくなります。
在留資格や生活支援に関する管理業務も企業の負担となる場合があります。
特に技能実習や特定技能では、監理団体・支援機関との連携、実習計画や支援計画の作成、定期報告など煩雑な手続きが多く、担当者の負担が増えやすいのが実情です。
さらに、住居の確保、銀行口座の開設、病院の受診サポートなど、外国人が日本で生活するための支援を企業が担うケースも多くみられます。
安全トラブルと現場リスク
事業主が特に注意すべきなのが、安全トラブルと現場リスクの増加です。
建設現場はもともと危険が多く、わずかな認識のズレが事故につながります。
次に、トラブル発生の背景とそのリスクについて解説します。
安全トラブルが起きやすい背景
外国人労働者の場合、次のような要因により安全トラブルが起きやすくなります。
- 指示の誤解による作業ミス
- 安全ルールの理解不足
- 母国との安全基準の違い
- 経験不足による判断ミス
日本語の曖昧な指示は誤解を生みやすく、意図しない動作が事故のきっかけになることがあります。
また、日本の建設業特有の安全文化は外国人にとって馴染みが薄く、遵守が徹底されません。
母国の建設現場では安全対策が十分でないケースも多く、「危険を避ける」という意識そのものが日本と異なる場合があります。
特定技能や技能実習の初期段階では、経験が浅く危険予知が難しいため、ヒヤリハットが増えやすい傾向があります。
現場リスクとして事業主に及ぶ影響
安全トラブルが発生すると、事業主には次のようなリスクが生じます。
- 労災事故による損害
- 行政指導・監査リスク
- 現場の雰囲気悪化
特定技能はもちろん、技能実習生も労働者として適用されます。
労災事故が発生すると、休業補償や治療費、工期遅延、元請からの評価低下などのリスクが伴います。
安全教育不足や管理体制の不備が指摘されると、監督署からの指導や改善命令につながる可能性があります。
また、事故やヒヤリハットが続くと、日本人・外国人双方の不安が高まり、離職につながることもあります。
離職・失踪によるコスト負担
受け入れには監理団体への支払い、渡航費、住居の準備、初期教育など多くの初期投資が必要です。
しかし離職や失踪が起きると、これらの費用が回収できないまま損失となります。
さらに、突然の人員不足は工期の遅延を招き、元請からの評価低下や追加の応援手配によるコスト増につながります。
また、外国人労働者の教育には時間と労力がかかるため、新たな人材を受け入れる際には再び同じ負担が発生します。
特に技能実習生が失踪した場合は、監理団体や行政からの調査が入ることもあり、企業の信用問題に発展するリスクもあります。
失踪が続けば「管理体制に問題がある企業」と判断され、今後の受け入れが制限される可能性も否定できません。
法令違反による行政処分
典型的な法令違反として多いのが、在留資格の範囲外の業務をさせてしまうケースです。
技能実習や特定技能は、許可された作業内容が細かく決められており、これを逸脱すると「不法就労助長」に該当する可能性があります。
また、在留期限の管理が不十分で、更新手続きが遅れたり、期限切れのまま働かせてしまったりすると、企業側が処分の対象になります。
さらに、技能実習制度では実習計画と実際の作業内容が一致していない場合や、適切な指導体制が整っていない場合も法令違反とみなされます。
監理団体との連携不足や書類管理の不備が原因で、企業が意図せず違反状態に陥ることも珍しくありません。
こうした違反が発覚すると、企業には 指導・改善命令、受け入れ停止、最悪の場合は建設業許可への影響 といった行政処分が科される可能性があります。
まとめ

建設業における外国人労働者の受け入れは、現場の人手不足を補う大きな力となる一方で、コミュニケーション、安全管理、制度理解など、さまざまな課題が複雑に絡み合っています。
これらの課題を正しく把握し、背景を理解することは、適切な受け入れ体制を整えるための第一歩です。
現状を踏まえたうえで、どのように改善していくべきかを考えることが、企業の安定した施工体制と外国人労働者の定着につながります。
【外国人労働者の課題を踏まえ、次に重要なのは「どう解決するか」です。具体的な対策については、次回詳しく解説します。】
【参考サイト】
令和6年外国人雇用実態調査公表、外国人雇用実態調査公表、外国人雇用実態調査調査結果、令和6年外国人調査公表、令和6年外国人調査結果|厚生労働省
第2章 第3節 我が国における外国人労働者の現状と課題 - 内閣府


