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建設業の労働保険・年度更新とは?申告・納付の基本とポイントを解説【2025年版】

建設業者にとって、「労働保険の年度更新」は毎年欠かせない大切な手続きです。

しかし、制度の仕組みが複雑で「なんとなく毎年やっているけど、正直よくわからない」という声も多く聞かれます。

特に建設業は他の業種と比べて特殊なルールが多いため、間違った理解のまま進めてしまうと、後からトラブルになってしまうこともあります。

今回は初心者にもわかりやすいように、労働保険の基礎から年度更新の具体的な流れまでを丁寧に解説します。

労働保険とは

労働保険
年度更新
建設業
二元適用

労働者を雇ったら、その事業主は「労災保険」に加入する必要があります。

また、その労働者がある一定の要件を満たす場合は「雇用保険」にも加入しなければなりません

保険に入る必要性はわかるけど、なぜ強制的に加入しなければならないのかと思う方も多いでしょう。

建設業における労働保険の基本をおさらいしていきましょう。

労働保険の仕組みと二元適用とは

労働保険とは、「労災保険」と「雇用保険」の総称で国が定めた制度です。

会社等で働くすべての人に対して、安心して働ける環境をつくるための大切な仕組みです。

労働保険は会社が保険料を負担し、従業員の万が一に備えます。

一般的な業種では、労災と雇用をまとめて一つの労働保険番号で管理します。

しかし、建設業は「二元適用制度」となっていて、労災保険と雇用保険をそれぞれ別に手続きしなければなりません。

これはいろいろな会社から人が集まって仕事をする建設業では、工事ごとに労災保険を管理しないと事故時に誰が責任を負うのか分からなくなるからです。

そのために、元請業者が工事ごとに労災保険を成立させ、雇用保険については他の業種と同様に会社単位で適用させるのです。

この二元適用があるため、年度更新のときにも「労災分」と「雇用分」に分けて申告書を作成する必要があります。

最初は戸惑うかもしれませんが、慣れればそれほど難しくはありません。

建設業が加入すべき保険の種類

建設業においては、雇用形態や現場の状況に応じて、どの保険に加入すべきかをしっかり判断することが重要です。

労災保険は現場作業するすべての作業員を対象としており、日雇いやパートタイムの作業員でも業務中の事故があれば適用されます。

とくに建設現場では、高所作業や重量物の取り扱いなど事故のリスクが常にあるため、未加入のまま作業させるのは非常に危険です。

また、雇用保険は失業時の給付や教育訓練給付など、長期的な生活支援に関わる保険です。

週の労働時間が20時間以上の労働者は原則として加入対象になるため、アルバイトや契約社員の場合は加入対象から外れる場合もあります。

一人親方や事業主の特別加入制度について

建設業では、いわゆる「一人親方」と呼ばれる独立した職人さんが多く存在します。

自分で現場に出て作業する人は、通常の労災保険では補償の対象になりません。

そこで用意されているのが「特別加入制度」です。

これは、通常は労災保険に加入できない個人事業主や法人の代表者でも、労災保険に加入できる制度です。

加入しておくことで、作業中のケガや事故に対する補償を受けられます。

特別加入には手続きが必要で、労働保険事務組合を通じて申請するのが一般的です。

保険料は自分で選択することが可能で、年間数万円程度でも可と比較的リーズナブルです。

そして補償内容は一般の労働者と同等となっています。

特に現場に出る機会の多い事業主は特別加入をおすすめします

年度更新の方法とスケジュール【2025年度版】

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年度更新
建設業
二元適用

年度更新は、労働保険に加入している事業所が毎年必ず行う手続きです。

前年度に支払った賃金額を報告し、それに応じた労災保険料・雇用保険料を確定させます。

同時に、今年度分の概算保険料も計算し、併せて納付します。

これにより、過不足なく適正な保険料が徴収されるしくみになっているのです。

年度更新の書類の取得方法

労働保険の手続きをしていると毎年5月末に郵送にて書類一式が送られてきます。

中には保険料率が印字された専用の申告書と、記入方法等が記載されたパンフレットなどが入っています。

送られてきた申告書にて令和6年度の確定申告と、令和7年度の概算申告をしま

年度更新の対象期間は、毎年4月1日から翌年3月31日までです。

この期間の賃金をもとに計算するため、給与台帳や勤怠記録をしっかり管理しておくことが大切です。

申告書の書き方には細かいルールがありますが、書類の形式自体は毎年あまり変わらないため一度慣れてしまえばスムーズに対応できるようになります。

2025年度の申告・納付スケジュール

2025年度の年度更新期間は、6月2日から7月10日までとなっています。

この期間内に申告と納付を済ませなければなりません。

申告が遅れると追徴金が課されることもありますので、期限内に正確に申告するようにしましょう。

提出は労働局への郵送のほか労働基準監督署の窓口で受け付けています。

最近は混雑を避けるためにも電子申請の活用が推奨されています。

電子申請の利用とそのメリット

電子申請は、インターネットを通じて手続きが完了できる便利な方法です。

「e-Gov(イーガブ)」というサイトから、申告書を作成・送信できます。

この方法の最大のメリットは、24時間いつでも提出できるという点です。

夜間や休日でも作業できるため、平日に時間が取れない事業者さんにとっては非常に助かります。

窓口申請だと銀行等での納付若しくは口座振替のみとなりますが、電子申請すると納付はPay-easy(ペイジー)を利用した電子決済が可能になります。

また、入力ミスを防ぐためのチェック機能もあり、手書きに比べて正確性も高まります。

電子申請に慣れていない方でも、操作ガイドを参考にしながら進めれば思っているよりも簡単に使えます。

ただし、一行に入力できる文字制限や半角文字の入力はできないといった不便さもあります。

電子申請はメリットのほうが大きいと言えますので、積極的に利用してみるのはいかがでしょうか。

建設業に特有の注意点

基本的に、事業者は労働者を雇ったら労災保険に加入しなければなりません。

しかし、建設業者は必ず労災保険に入らなければいけないわけではありません。

また、建設業は二元適用事業として他の業種と異なった加入方法となり、さらに工事の金額などによって届ける内容が異なります。

建設業に特有の労働保険の注意点について解説していきましょう。

元請工事と下請工事

初めて労働者を雇ったので労災保険に入ろうと手続きをしに行ったら、労災保険に入れませんといわれることがあります。

この事業者は「元請け工事がなく下請工事のみで事業をする」建設業者です。

下請工事だけしか行わない建設業者は労災保険に入らなくてよいのです。

これは、建設工事はその工事の元請業者が加入するといったルールがあるためです。

加入しなくてよいというより、加入できないのです。

下請業者はその元請業者の労災保険で保証がされます。

労災保険料は元請工事の工事金額を基に算出されますので、下請工事の金額については保険料の対象となりません。

すなわち、下請工事については保険料の算出ができないのです。

有期事業と継続事業の違い

建設業では「継続事業」・「一括有期事業」・「単独有期事業」に分類されます。

建設業における「継続事業」とは、事務所内で行う事務などの事業のことで「事務労災」に加入します。

一方、「一括有期事業」は現場ごとに事業が発生し終われば完了する1億8千万円未満の工事を一つにまとめたもので、「現場労災」と言われる労災保険に加入します。

金額が1億8千万円以上など一定の条件を超える場合は、個別に労災保険の関係を成立させる「単独有期事業」となります。

単独有期事業の工事については、元請業者がその工事についてその都度労災保険に加入します。

この取り扱いを誤ると、労災事故が起きた際に補償を受けられなかったり、年度更新の申告で不備を指摘されることもあるためその違いを理解しておきましょう。

賃金総額の正しい算出方法とは

年度更新において保険料を正しく計算するためには、賃金総額を正しく算出することがカギになります。

建設業においては、賃金をもとに算出するのは継続事業である「事務労災」についてです。

ここで注意したいのが、賃金総額は単なる基本給の合計ではないということです。

残業代、休日出勤手当、深夜手当、通勤費、賞与なども含まれます。

住宅手当や扶養手当なども含まれますので、支給項目の確認が必要です。

また、支払い月で判断するのではなく「算定期間中に支払いが確定した賃金である」点も見落としがちです。

経理や給与計算の担当者は早めにデータをまとめておきましょう。

また、一括有期事業である「現場労災」と「単独有期事業」に関しては基本的に工事金額を基にして決められた労務率をかけて算出した賃金額を算出します。

実際に支払った賃金額ではありませんので注意しましょう。

外注・日雇い労働者の扱いに注意

建設業では、外注や日雇いの作業員を現場に投入するケースがあります。

しかし、このような人も「労働者」と判断されることがあります

現場監督の指示で動いていたり勤務時間や作業内容が決まっている場合は、雇用関係に近いと見なされる可能性が高くなります。

こうしたケースでは本来であれば労災保険に加入する必要があるため、もし加入していない場合は万が一の事故の際にトラブルになることもあります。

契約だけで判断せず、実際の働き方に基づいた対応を心がけましょう。

年度更新に向けた実務対応と事前準備のコツ

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年度更新ができる時期は約1か月間と短くなっています。

更新期間内に正しく申告ができるように準備しておく必要があります。

事前にできることは主に以下のものとなります。

  • 賃金台帳を準備しておく
  • 前回の年度更新書類を出しておく
  • 工事台帳や契約書を整えておく
  • 口座振替の手続きをしておく

年度更新は毎年のこととはいえ、直前に慌てて準備してしまうとミスが起きやすくなります。

そこでおすすめなのが、早いうちに資料を整えておくことです。

現場労災や単独有期は請負金額を基に保険料を算出しますが、事務労災の場合は支払った賃金から算出します。

具体的には前年度の給与台帳、賃金台帳、勤怠表、源泉徴収簿などを確認し、賃金総額を早めに集計しておきましょう。

クラウド会計ソフトなどを活用すれば、手作業よりも効率的にデータを取得できます。

一括有期事業は、一年間の元請工事の金額を算出し合計を出す必要がありますので、工事台帳をしっかりと整えておきましょう。

また、過去の年度更新の控えがあると、今年の作成時にも役立ちますので、毎年きちんと保存しておくのがポイントです。

保険料は納付書を利用した銀行もしくは郵便局での支払いとなります。

事前に口座振替の手続きをしておくと引き落としとなり便利です。

社労士・事務組合に依頼すべきケースとは

「うちは現場の数も多いし、外注も多いからややこしい」という事業所では、迷わず専門家に相談するのが正解です。

社会保険労務士は、労働保険のプロフェッショナルですので制度の細かいルールを理解しているため、正確かつスピーディに対応してくれます。

年度更新だけでなく日々の労務管理や就業規則の見直しまでトータルでサポートしてもらえるので、事務担当者の負担も大きく軽減されます。

また、初めて年度更新する事業者も、書類の作成に手間がかかり本業に影響が出てしまうかもしれませんので社労士に頼むと安心です。

また、事務組合に加入し申請依頼するのもお勧めです。

労働保険だけではなく社会保険の処理も任せられ、7月の算定基礎届の提出にも対応してくれます。

労働保険料の分割制度の活用

労働保険料は保険料額が40万円以上の場合、3回に分けて納付できる「分割納付制度」が利用可能です。

一括で納めるのが難しい場合でも、納付計画を立てることで支払いにゆとりが持てます。

第1期の納付期限は7月10日、第2期は10月31日、第3期は1月31日と納付期限がありますので、スケジュール管理も重要です。

事務組合に依頼している場合や口座振替を利用している場合は納付期限が延長されるのでおすすめです。

また、納付期限が過ぎると追徴金が発生する場合もありますのでスケジュール管理をしっかり行いましょう。

その他の注意点

年度更新のミスで多いのは、「提出期限を過ぎてしまった」「賃金の集計が間違っていた」「電子申請にログインできなかった」などがあげられます。

日々の業務に追われる中で後回しになりがちですが、6月に入ったらすぐに申告書の準備に着手するのがおすすめです。

給与ソフトや会計ソフトに履歴が残っていればそこから必要なデータを早めに抽出しておきましょう。

また、e-Govのアカウントにログインできるか、事前に動作確認しておくと安心です。

毎年使う人でも、久々に開いたらパスワードを忘れていたというケースも少なくありません。

提出先や納付先の確認も忘れずに

申告書の提出先は、労災保険分が「労働基準監督署」、雇用保険分が「ハローワーク」と分かれていることを覚えておきましょう。

電子申請であれば一括送信できますが、郵送や窓口提出の場合は注意が必要です。

また、紙の納付書ならは金融機関での支払いですが、電子申請であればインターネットバンキングからの支払いもできます。

自社に合った納付方法を確認しておきましょう。

よくある質問と現場での実務対応Q&A

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年度更新って誰が作成する?

労働保険の年度更新は、法的には事業主が行うことになっていますが、実際の現場では「経理担当者」「総務担当者」が申告書の作成や賃金集計などを担うケースがほとんどです。

ただ、建設業のように外注先や一人親方が多く関わる業界では、現場監督や工事管理者などの現場サイドから情報を集めないと正確な申告ができません

そのため普段から現場と事務方が連携して記録を取っておくことが、スムーズな申告のコツになります。

一人親方にも労災保険をかける必要があるの?

建設業においては元請業者が労災保険に加入することが必須であり、業務委託契約であってもその補償範囲は工事に関わる労働者全てになります。

労働者に該当しない一人親方などであっても、形式上は業務委託契約でも「実質的に労働者に近い働き方」をしている人が多くいます。

たとえば、毎日決まった時間に現場へ出勤し、元請の監督の指示で作業している場合などです。

こうしたケースでは、後々労働者性が認められる可能性があり、労災事故時に「使用者責任」が問われることもあります。

一人親方の特別加入が未加入のまま現場に入っていると、元請側の監督責任が問われるリスクがあります。

元請として現場に入るすべての作業員の保険加入状況をチェックしておくことが重要です。

賃金総額に含めるか迷う支給項目がわからない

「これって賃金に含めるの?外すの?」と迷いやすい項目の代表例として、以下のようなものがあります。

  • 通勤手当(含める)
  • 出張旅費の実費精算(含めない)
  • 住宅手当や扶養手当(含める)
  • 役員報酬(含めない)
  • 賞与(含める)
  • 弔慰金や結婚祝い金(含めない)

判断に迷う場合は、労働局から送付される年度更新の手引きにある「労働保険対象賃金の範囲」が参考になります。

また、事務組合や社会保険労務士に相談するのも有効です。

実務上の細かな判断も経験に基づいてアドバイスしてもらえることが多いので、プロに確認しながら進めましょう。

まとめ

建設業は他業種と比べても事故のリスクが高く、かつ多様な雇用形態が入り混じる現場が多いのが特徴です。

そのため、労働保険の理解と適正な年度更新は、現場の安全管理と同じくらい重要な業務だといえます。

事務作業の一つとして片付けてしまうのではなく、「誰が・どんな保険に入っているのか」を意識することで、万が一のときも安心して現場を動かせる体制を整えられます。

おさだ事務所は建設業に関わる様々な相談を承っています。

許可や保険制度などでお困りのことがあればぜひおさだ事務所にご相談ください!

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