住宅の建て替えや街の再開発で、解体は欠かせない重要な工事です。
解体工事は、ただ壊すだけでなく多方面に影響します。
しかも、工事を始めるには建設業の許可や登録が必要になることもあるのです。
今回は、そんな解体工事について基本から注意点まで解説していきます。
ただ壊すだけじゃない!解体工事の基本

「建物を壊す=解体工事」と思っている方は多いかもしれません。
確かに、建物を撤去するための作業ですが、実はかなり綿密な計画や準備が必要です。
解体対象が住宅であっても、アスベストや重金属といった有害物質の処理が求められます。
さらに廃材はすべて分別され、法律に沿って処理されなければいけません。
騒音・振動への配慮も重要で、特に住宅密集地では近隣住民への説明や苦情対応が必要です。
主な解体工事の種類と事例
解体工事といっても、対象となる建物の種類によって施工方法や必要な技術が異なります。
ここでは代表的なケースを紹介します。
木造住宅の解体
一般的な住宅街で最も多く見られるのが木造住宅の解体です。
作業期間も比較的短く、費用面でも抑えやすい傾向にあります。
鉄骨造・鉄筋コンクリート造の解体
ビルやマンションなど、大型で頑丈な建物の解体には重機やクレーンが活躍します。
特に都市部では「階上解体」という手法がよく使われ、上階から順番に取り壊していくのが特徴です。
また、騒音対策や粉じん防止のために、防音シートや散水設備が欠かせません。
工場・倉庫の設備撤去
工場などでは製造設備や配管、建物の構造部も含めて広範囲に解体が及ぶことがあります。
場合によっては特殊な免許や知識が必要なケースもあります。
店舗のスケルトン工事
退去や改装に伴い、内装だけを撤去して空の状態に戻す工事です。
構造体は残したまま、壁・床・天井などを解体します。
解体工事には許可や登録が必要

解体工事を仕事として請け負う場合、一定の条件に達すると「建設業許可」や「登録制度」が必要になります。
また、許可や登録をせずに解体工事を行うと、行政処分や罰則の対象となる可能性もあります。
ここではそれぞれの概要を解説します。
解体工事の建設業許可とは
解体工事がある一定の基準を満たす場合、建設業法に基づき「建設業許可」が必須です。
以前は「とび・土工工事」の許可があれば解体工事を行うことが可能でした。
しかし近年は建物構造の複雑化や、作業に求められる技術・安全対策の高度化が進んでいます。
そのため建設業法改正が行われ、解体工事を行うには専用の許可が必要となり、業者には高い技術力と法令遵守が求められるようになったのです。
建設業許可が必要な解体工事とは
解体工事を請け負う場合、1件あたりの請負金額が税込500万円以上(建築一式工事では1,500万円以上、または延べ面積150㎡を超える木造住宅の新築工事を含む)であれば、建設業の許可が必要になります。
ただし、すべての解体工事に建設業許可が求められるわけではありません。
請負金額が税込500万円未満であれば、建設業許可はなくても施工が可能です。
住宅の新築や大規模なリフォーム、ビルの解体工事などは許可が必要です。
一方、小規模な木造住宅の解体や、物置・カーポートなどの撤去工事などは許可が必要ない場合もあります。
建設業許可の要件
建設業許可を取得するためには、以下の複数の要件を満たす必要があります。
- 常勤役員等(経営業務の管理責任者)がいること
- 営業所等技術者(専任技術者)が営業所に常駐していること
- 財産的基礎または金銭的信用があること
- 誠実性があること
- 欠格要件に該当しないこと
上記の条件を満たせば建設業許可の申請ができます。
これらの要件を満たすためには事前から準備をしておくことが大切です。
建設業許可の申請方法
まず、建設業許可には「一般建設業」と「特定建設業」の2種類があります。
下請代金の額が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上となる場合は特定建設業の許可が必要です。
さらに、1つの都道府県内にしか営業所がない場合は「都道府県知事許可」、複数の都道府県に営業所がある場合は「国土交通大臣許可」となります
許可の種類が決まったら、申請書類を準備します。
申請書のほかに、登記簿謄本、納税証明書、決算書、役員の住民票や身分証明書、専任技術者に関する書類など、多岐にわたる書類を揃える必要があります。
申請後は通常1~2カ月程度の審査期間があり、問題がなければ許可通知書が交付されます。
建設業許可の申請は提出書類が多く手続きも複雑なため、行政書士などの専門家に依頼することでスムーズかつ正確に申請を進められます。
解体工事の登録制度とは
許可を取得していない業者でも、解体工事を継続的に行う場合は「登録」が必要です。
これは、工事の規模が小さくても反復して業務を行うことがあれば環境面や安全面への配慮が必要になるからです。
解体工事登録が必要な工事とは
解体工事登録が必要となるのは、建設業許可を持たずに解体工事を請け負う場合です。
具体的には、1件あたりの請負金額が税込500万円未満の工事であっても継続的に解体工事を行う事業者は、「解体工事業の登録」が必要になります。
解体工事を反復・継続して請け負う場合には、たとえ金額が小さくても登録をしなくてはなりません。
ただし、請負工事ではない場合(自社ビルを自身で解体する場合など)は登録が不要です。
解体工事登録の要件
登録が必要なのは、解体工事業の建設業許可を持たずに解体工事を請け負う業者です。
解体工事登録を行うには一定の基準を満たす必要があります。
その主な登録要件は以下の通りです。
- 技術管理者がいること
- 欠格要件に該当しないこと
- 法令に違反していないこと
- 事務所を有していること
これらの要件を満たすことで、解体工事業として法的に適正な事業を行えるようになるのです。
解体工事登録の申請方法
申請は、営業所の所在地を管轄する都道府県知事に対して行います。
提出する書類には、申請書のほか、法人登記簿謄本や定款の写し、役員の住民票、納税証明書、経歴書などがあり、個人事業主の場合も同様に関連書類を揃える必要があります。
書類を揃えたら、窓口または郵送で提出し審査を受けます。
特に書類に不備がなければ、標準的には1か月程度で登録完了通知書が交付されます。
許可と登録の違い
ここで建設業許可と登録制度を整理しましょう。
区分 | 建設業許可 | 解体工事登録 |
根拠法令 | 建設業法 | 建設リサイクル法 |
金額基準 | 税込500万円以上 | 税込500万円未満 |
活動範囲 | 全国 | 登録済みの都道府県 |
更新間隔 | 5年 | 5年 |
必要書類 | 建設業許可申請書など | 解体工事業登録申請書など |
解体工事に関わる制度には、「建設業法」と「建設リサイクル法」という異なる法令が存在します。
建設業法は請負業者の資格や工事の規模に応じた許可制度を定めており、税込500万円以上の解体工事には建設業許可が必要です。
一方、建設リサイクル法は廃棄物の分別・再資源化を目的としており、許可を持たない業者が解体工事をする場合には登録が必要としています。
また、営業エリアにも違いがあり、建設業許可は都道府県単位または全国での活動が可能です。
ただし、その工事の契約行為を行えるのは許可を持っている営業所のみとなります。
一方、解体工事業の登録は登録した都道府県内のみ有効で、他県での施工には別途登録が必要です。
許可や登録を取得した後の義務
許可や登録は取得すれば終わりではありません。
継続的な事業活動を行うためには、定期的に更新を行い報告の義務も発生します。
許可業者の義務
主な義務は次の通りです。
- 毎事業年度ごとの届出(決算変更届)
- 5年ごとの許可更新
- 各種変更届の提出標識(許可票)の掲示
事業年度が終了した後、4か月以内に「決算変更届(事業年度終了届)」を提出する必要があります。
また、建設業許可の有効期間は5年間です。
期間満了の30日前までに更新申請を行わなければ、許可が失効してしまいます。
会社の名称、役員、経営業務の管理責任者、専任技術者、資本金、本店所在地などに変更があった場合は変更後一定期間内に変更届を提出する必要があります。
さらに、営業所や工事現場には建設業の許可を受けていることを示す「許可票」を掲示する義務があります。
建設業者として事業を続けるには、法令で定められた義務を的確に履行する必要があるのです。
登録業者の義務
主な義務の一覧は次の通りです。
- 登録の有効期間満了前に更新手続き
- 登録事項に変更があった場合の変更届出
- 解体工事業者としての標識(登録票)の掲示
- 解体工事実績の記録と保存義務
- 不正行為の禁止(名義貸し、虚偽報告など)
解体工事登録の有効期間は5年間です。
引き続き解体工事業を営む場合は、有効期間が満了する日の30日前までに更新申請を行う必要があります。
期限を過ぎると、登録が失効してしまうため注意が必要です。
商号(社名)や代表者の変更、本店所在地の移転、法人の役員変更など、登録内容に変更があった場合は、一定期間内に所定の「変更届」を提出する必要があります。
営業所および解体工事の現場には、「解体工事業登録票」を見やすい場所に掲示しなければなりません。
許可取得後、登録はどうなる?
許可を持っていれば、金額に関係なく全国で解体工事を行えます。
よって、解体工事業の登録をしていた業者が新たに解体工事業の建設業許可を取得した場合、従来の「解体工事業登録」は不要となります。
建設業許可を取得した時点で登録を抹消する手続きが必要です。
この際、登録を行っていた都道府県に対して「解体工事業廃業届」を提出します。
提出期限は、許可取得日から30日以内が原則です。
廃業届には、建設業許可を取得したことを証明する書類(許可通知書の写しなど)を添付する必要があります。
許可業者としての新たな義務も発生するため、今後は建設業許可業者としての各種届出や更新手続きなどを適切に行うことが求められます。
標識も「登録業者」から「建設業許可業者」用の表示に変更しましょう。
解体工事を行う際の注意点

解体工事を行う際は、周囲への安全配慮や法律の順守、適切な工程管理など、さまざまな注意点があります。
建設リサイクル法では資材の分別解体および再資源化を促進するため、一定規模以上の建設工事において届出が義務付けられています。
コンクリート、鉄とコンクリートからなる資材、木材、アスファルトといった「特定建設資材」を使用した構造物が対象です。
さらに以下のいずれかの規模以上の工事に該当する場合となります
- 建築物の解体工事:床面積80㎡以上
- 新築・増築工事:500㎡以上
- リフォーム等の修繕・模様替工事:請負代金1億円以上
- 建築物以外の土木工事等:請負代金500万円以上
発注者や自主施工者は工事着手の7日前までに、都道府県宛てにこの届出が必要となっています。
環境や近隣住民への配慮
近隣とのトラブルを防ぐために次のような配慮が求められます。
- 騒音や振動対策
- 粉じんの防止
- アスベスト対策
- 近隣住民への説明
近隣住民への説明や、養生シートの設置、水まきによる粉じん抑制など、事前の対策をしっかりと行いましょう。
さらに、建物内にアスベスト(石綿)が含まれている可能性がある場合は、事前調査や専門的な処理が必要です。
また、廃棄物処理にも気を配らなくてはなりません。
解体工事で発生した廃材は適切に分別し、許可を持つ業者に運搬・処分を委託する必要があります。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)を用いて処理の流れを管理することも、法律で義務づけられています。
さらに、安全管理も大切なポイントです。
作業員のヘルメットや安全帯の着用はもちろん、足場の点検や重機の操作にも注意が必要です。
具体的に工事の規模が決まっていない場合
「登録」か「許可」か迷っている事業者も多いかもしれません。
このような場合の判断基準は以下の通りとなります。
事業規模が小さく、地域密着型の場合 → 登録制度で十分
将来的に公共工事やビル解体に参入したい場合 → 最初から建設業許可を目指すのも有効
複数都道府県で営業したい場合 → 許可取得が必須(登録は県ごとの申請が必要)
長期的な視点で考えれば、建設業許可を取得しておけば信頼性の向上にもつながり、受注機会の拡大にも寄与します。
まとめ
建物の取り壊しは、単なる物理的作業ではなく、法律・環境・安全・近隣配慮すべてを含めた総合的な業務です。
許可制度や登録制度といった法的仕組みは、ただの「手続き」ではなく、工事の質と信頼性を担保するためにも重要なのです。
発注者にとっては、きちんと許可や登録を受けた業者を選ぶことが、自分自身を守ることにもつながります。
工事を請け負う側も、制度を正しく理解し適切に解体工事をすることが大切です。
おさだ事務所は建設業許可の取得に実績があります。
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【参考サイト】
解体工事業登録関係 手引、申請書類|建設リサイクル法:解体工事業者登録について|東京都都市整備局
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