工事経歴書には、建設業許可を受けた行政庁に「事業年度終了届」の添付書類として提出する【工事経歴書】と、「経営事項審査(経審)」の添付書類として提出する【工事経歴書】の2種類があります。今回は経審用に作成する工事経歴書について解説していきます。
- 普通の工事経歴書との違いは?
- どの工事を記載すればいいの?
- 自分でも作成できる?
- どんな様式に記載するの?
経審用工事経歴書の細かいルールについて、簡潔にまとめています。この記事を最後まで読むと、経審用の工事経歴書について不安・悩みが解決できますよ。
ぜひ最後までご覧ください!
経審│工事経歴書の記載ルール【4つ】
経営事項審査(経審)用の工事経歴書は、一般の工事経歴書と比べて細かいルールのもと作成しなければなりません。国土交通省が公表している工事経歴書の記載方法がありますが、初めて作成する方にとっては、確認する項目が多く目が滑るので分かりづらいです。まずは経審用の工事経歴書に記載する工事の順番について、4つのルールに沿ってみていきましょう。
あなたの会社に該当する記載方法をチェックしていきましょう!
ルール1:元請け工事の記載
元請けとして施主様・発注者から直接受注した工事を、軽微な建設工事を除き、金額の大きい順番で記載します。このとき売上高の70%に達するまで記載します。70%になる前に書き終わってしまったら、次に元請けとして受注した軽微な建設工事を記載します。軽微な建設工事を記載できる上限は10件までですので、たとえ売上高の70%に達さなくても大丈夫です。
元請け工事が0件の場合はルール2から記載しましょう。
ルール2:下請け工事の記載
1次協力会社以下、下請けとして受注した工事を金額の大きい順番で記載します。売上高の70%に達する前に軽微な建設工事になった場合はそこから10件まで記載します。ルール1に該当しない場合(=元請け工事が0件のとき)は、売上高の70%をこえるまで記載すればOKです。
ルール3:軽微な建設工事について
1業種につき元請け・下請け工事を合わせて10件をこえて記載する必要はありません。売上高の70%に達さなくても、軽微な建設工事は元請け・下請け工事を合わせて10件までの記載で大丈夫です。
例
元請け工事5件(すべて)
元請け工事の軽微な建設工事7件(すべて)
下請け工事5件(すべて)
下請け工事の軽微な建設工事3件まで
軽微な建設工事とは
建築一式工事以外は、1件の請負額が税込み500万円未満の工事
建築一式工事の場合、1件の請負額が1,500万円未満の工事
または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事
軽微な建設工事については別の記事でも紹介していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
ルール4:主な未成工事を記載
ルール1~3に沿って記載してもまだ余裕がある場合は、1業種ごとに金額の大きい未成工事があれば記載します。記載できる未成工事とは、経審用の工事経歴書を作成している段階(決算時)で着工しているけれど、完成に至っていない工事です。施主様・発注者・元請けなどからもらえる予定の工事代金を記載します。記載できる未成工事件数に上限はありませんが、実際に工事に入っていることを書類を添付して証明しなければなりません。申請先の行政庁によりますが、たとえば東京都の場合は上位5件分の証明が必要になります。「契約書」「注文書・注文請書」「請求書・入金通帳」などを添付して証明します。
普通の工事経歴書についてはこちらの記事をご覧ください。
▼関連記事:建設業許可|工事経歴書を作成するポイントは5つ!流れからすべて教えます
工事経歴書の記載方法│具体例【3ケース】
4つのルールは分かりましたが、実際に作成するのはやっぱり難しそうです・・・・・・
具体的に金額をあてはめて考えてみましょう
分かりやすいように金額や件数は調整していますので気にしないでご覧くださいね
元請け工事がある場合
ケース1
完成工事高:10,000万円
元請け工事:4,500万円(10件)、軽微な建設工事2,500万円(20件)
下請け工事:省略
この会社は元請け工事があるので、元請け工事を金額の大きい順番で10件すべて記載します。元請け工事を合算しても4,500万円なので、完成工事高の10,000万円の70%=7,000万円には足りません。次に軽微な建設工事を記載します。2,500万円すべて記載すれば7,000万円になりますが、ルールにのっとると軽微な建設工事は10件までしか記載できません。70%に達さなくても、10件分記載したらそこで記載終了です。
元請け工事10件と軽微な建設工事10件を記載しても、70%の7,000万円になりませんでしたが、これでOKです。
元請け工事・下請け工事がある場合
ケース2
完成工事高:10,000万円
元請け工事:4,500万円(10件)、軽微な建設工事500万円(5件)
下請け工事:4,500万円(10件)、軽微な建設工事500万円(7件)
元請け工事があるので、元請け工事を金額の大きい順番で10件すべて記載します。元請け工事を合算しても4,500万円なので、完成工事高の70%にはまだ達さないので次に軽微な建設工事を記載します。軽微な建設工事を5件すべて記載しても5,000万円なので、まだ記載する余裕があります。続いて下請け工事を金額の大きい順番で記載していきます。途中で完成工事高の70%=7,000万円になったら記載終了です。
元請け工事10件と軽微な建設工事5件を記載し、下請け工事の記載途中で70%の7,000万円になったのでOKです。もし下請け工事を記載しても金額に余裕があれば、引き続き下請け工事の軽微な建設工事を記載していきます。
元請け工事・下請け工事・未成工事がある場合
ケース3
完成工事高:10,000万円
元請け工事:3,500万円(10件)、軽微な建設工事500万円(5件)
下請け工事:2,000万円(10件)、軽微な建設工事1,000万円(10件)
未成工事:3,000万円(3件)
元請け工事があるので、元請け工事を金額の大きい順番で10件すべて記載します。元請け工事を合算しても3,500万円なので、完成工事高の70%にはまだ達さないので次に軽微な建設工事を記載します。軽微な建設工事を5件すべて記載しても4,000万円なので、まだ記載する余裕があります。続いて下請け工事を金額の大きい順番で記載していっても6,000万円なので、軽微な建設工事も記載します。軽微な建設工事は元請け・下請け工事合わせて10件までの記載なので、金額の大きい順番で5件記載します。完成工事高の70%=7,000万円になるまで余裕がある分は未成工事を記載します。
70%に達するまで元請け工事10件と軽微な建設工事5件、下請け工事10件と軽微な建設工事5件、さらに足りない分は未成工事を記載します。
どんな場合でも、ルールに当てはめて考えればうまく記載できそうです!
工事経歴書や経審について不安な場合は、深く悩まずに行政書士に相談するといいでしょう。東京都での経審、建設業許可についてお悩みの方はぜひ一度当事務所にご相談ください。
工事経歴書の記載方法│様式への記載【9項目】
記載する工事の順番がわかったところで、次は実際の様式を見ながら、項目ごとにどのように記載するのか見ていきましょう。
引用:東京都都市整備局│工事経歴書様式第二号(PDF資料)
1:建設工事の種類
経審を受審する業種を記載します。複数の業種がある場合は、業種ごとに作成します。もしも1つの工事で複数の業種があった場合は、主たる(メインの)業種に振り分けます。1つの工事を分割して、複数の業種の工事経歴書に記載できませんので注意しましょう。
1件の工事が防水工事と塗装工事を含んでいましたが、8割くらいが防水工事だったので、この工事は防水工事に記載します、という感じですね
2:注文者
契約書や注文書に記載されている注文者が法人名の場合は、そのまま記載します。個人名の場合は特定されないように、「個人T」などイニシャルを使って記載しましょう。
3:元請又は下請の別
元請けとして、施主様や発注者から直接工事を受注した工事は「元請」と記載します。1次協力会社以下として受注した場合は「下請」と記載します。
4:JVの別
JV(共同企業体)として行った工事には「JV」と記載します。JVの場合は、請負代金の記載時に注意がありますので、8:請負代金の額をご覧ください。
5:工事名
契約書や注文書に記載されている工事名を正確に記載します。個人名が入っている工事は、イニシャルなどを使い、「T様邸新築工事」と記載します。
6:工事現場のある都道府県及び市区町村名
2行に分けて、上段に都道府県名、下段に市区町村名を記載します。
記載例 |
東京都 中央区 |
7:配置技術者
その工事を担当した技術者の情報を記載します。
- 氏名:工事を担当した技術者の氏名
- 主任技術者│監理技術者の別:該当に「レ」と記載
営業所の専任技術者は原則現場の配置技術者にはなれませんが、以下の5つを全てクリアしていれば、現場の配置技術者になっても構いません。
- 該当技術者が所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあること
- 現場配置技術者の専任が求められない工事であること
- 当該営業所で契約締結した建設工事であること
- 当該営業所が職務を適正に遂行できる程度近接した工事現場であること
- 当該営業所と常時連絡が取れる状態であること
8:請負代金の額
経審用の工事経歴書は、すべて税抜きで記載します。JVの場合は、請負代金の額に出資の割合を計算した額、または分担した工事額を記載します。全額記載しないように気をつけましょう。
9:工期
- 着工年月:その工事を着工した年月を記載します。
- 完成又は完成予定年月:完成していれば完工日を、未成工事の場合は完成予定年月を記載します。
これらに沿って記載すればきっとうまく書けますよ
まとめ
経営事項審査(経審)用の工事経歴書の記載方法についてまとめました。
- 普通の工事経歴書とは記載する工事の順番が異なる
- 元請け工事→下請け工事→未成工事と記載する
- 記載できる軽微な建設工事は10件まで
- 金額はすべて税抜きで記載する
他にも細かい記載ルールがありますので、実際に記載するときにおさらいして記載しましょう。
工事経歴書を含む経審用の提出書類は、記載ミスがあると経審を受審できません。国土交通省の公表しているルールにのっとって間違いのないよう丁寧にみていきましょう。慣れない業務で不安な場合は、行政書士に相談することも視野にいれて無理なく作業しましょう。