建設業で働いている皆さんは、退職一時金制度が経営事項審査に対してどのような影響があるかご存じですか?
退職一時金制度って経営事項審査の対象になるんですか?
条件を満たしていれば対象となりますよ。
公共工事を直接請負うために必要な経営事項審査。経営事項審査は、受諾に参加できる工事に関わる重要な審査です。
今回は、そんな経営事項審査で有利になるかもしれない退職一時金制度について解説します。
経営事項審査における退職一時金制度の位置付け
まずは、経営事項審査や退職一時金制度がどのようなものかおさらいしましょう!
経営事項審査とは
国や地方自治体などの行政が発注している工事を公共工事といいます。経営事項審査とは、公共工事の元請けをしている建設業者を対象として実施している資格審査のひとつです。
経営事項審査は、下記の項目によって評価されます。
経営事項審査の項目
- 総合評価値
- 経営規模
- 経営状況
- 技術力
- 社会性
総合評価値
総合評価値とは、他の評価項目を総合的に評価する値です。
一つの項目が秀でていても他の評価が低いと総合評価値は高くなりません。
経営規模
経営規模とは、売上や自己資本などから事業の大きさを評価する値です。
経営規模は、観点によってX1とX2に分類されます。
X1の観点
- 完成工事高
X2の観点
- 自己資本額
- 利益額
経営状況
経営状況とは、経営成績や財務状況などの様々な観点から企業の状態を評価する値です。
経営状況は、下記のような項目に分類されます。
経営状況の項目
- 純支払利息比率(Y1)
- 負債回転期間(Y2)
- 総資本売上総利益率(Y3)
- 売上高経常利益率(Y4)
- 自己資本対固定資産比率(Y5)
- 自己資本比率(Y7)
- 営業活動によるキャッシュフロー(Y8)
- 利益剰余金(Y9)
技術力
技術力とは、受注した仕事に携わった従業員のや完成工事高などを評価する値です。
経営状況の項目
- 技術職員数
- 元請完成工事高
社会性
社会性とは、営業年数やISO規格登録状況などを評価する値です。
社会性の項目
- 労働福祉の状況(W1)
- 建設業の営業年数(W2)
- 防災協定締結の有無(W3)
- 法令遵守の状況(W4)
- 建設業の経理に関する状況(W5)
- 研究開発の状況(W6)
- 建設機械の保有状況(W7)
- ISOの登録状況(W8)
- 若年技術者の育成及び確保の状況(W9)
大まかな評価のウエイトは、以下の通りです。
- 経営規模 40%
- 経営状況 20%
- 技術力 25%
- 社会性 15%
退職一時金制度とは
退職一時金制度とは、退職時に勤務していた企業から一括で退職金を受け取る制度です。
退職一時金制度を用いると、退職所得控除と呼ばれる税制上の優遇を受けられます。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職一時金制度の具体例は、下記の通りです。
経営事項審査の項目
- 中小企業退職金共済制度
- 特定退職金共済制度
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度とは、中小企業退職金共済法に基づいて制定された中小企業向けの退職金共済制度です。
中小企業退職金共済制度は、勤労者退職金共済機構の中小企業退職金共済事業本部が運営しています。
特定退職金共済制度
特定退職金共済制度とは、所得税法に基づいて制定された中小企業向けの退職金共済制度です。
特定退職金共済制度は、所得税法の要件を満たしている市町村や地域の商工会議所などが所轄税務署長の承認を受けて設立した特定退職金共済団体が運営しています。
退職一時金制度を使わずに退職一時金を確保する場合、退職一時金制度で適応された税制上の優遇は受けられませんが、退職手当の適応は受けられます。
経営事項審査と退職一時金制度の関係
退職一時金制度や企業年金制度は、以下の条件のいずれかが満たされている場合に経営事項審査にある労働福祉の状況(W1)の観点の1つである「退職一時金制度・企業年金制度の導入」に該当します。
条件一覧
- 労働協約若しくは就業規則で退職手当が制定されている
- 中小企業退職金共済法に規定する中小企業退職金共済契約を締結または加入している
- 所得税法施行令に規定する特定退職金共済団体と契約を締結または加入している
- 厚生年金基金を設立している
- 法人税法に規定する適格退職年金の契約を締結している
- 確定給付企業年金法に規定する確定給付企業年金を導入している
- 確定拠出年金法に規定する企業型年金を導入している
少しぐらい加点されなくても平気と思うかもしれませんが、こういった評価点の積み重ねが受諾できる工事を増やします。
▼こちらの記事では、建設業界で独立準備する上で知っておくべきことについて解説しています。経営事項審査以外にも事業を運営するために必要なことが書かれているので、気になる方は参考にしてみて下さい。
退職一時金制度のデメリット【3つ】
退職一時金制度って経営事項審査に有利になるし良いことだらけですね!
葛西君!喜ぶのはまだ早いですよ!
実は、退職一時金制度にも気を付けなければならないことがあるんです。
退職一時金制度を導入するデメリットは、以下の3つです。
退職一時金制度のデメリット
- 年金方式より受け取れる金額が減る
- 給与水準が相対的に低くなる
- 内部留保の税率が上がる
年金方式より受け取れる金額が減る
年金方式で退職金を受け取る場合は、満額受給するまで企業が運営するため、一時金方式だと最終的な総受給額が少なくなります。
給与水準が相対的に低くなる
退職金は、給与や賞与の一部を資金源にしているため、退職金制度を設けるとその分給与や賞与が少なくなります。
内部留保の税率が上がる
内部留保とは、当期純利益のうち配当金に充てる部分以外のことです。
内部留保の税率は、以下の通りです。
内部留保 | 税率 |
年3,000万円以下 | 10% |
年3,000万円超1億円以下 | 15% |
年1億円超 | 20% |
内部留保課税の計算式
内部留保課税額=(内部留保金-留保控除額)×税率
退職準備積立金が増えると、その分内部留保の金額も増えるため、税率も高くなります。
経営事項審査の流れ
退職一時金制度があれば経営事項審査で有利になることは分かりました。
ちなみに経営事項審査ってどうすれば受けられるんですか?
経営事項審査を受けるためには、都道府県の申請窓口または国土交通省の各地方整備局に申請する必要があります。
経営事項審査の申請に必要な書類は、以下の通りです。
経営事項審査に必要な書類
- 決算変更届
- 経営状況分析結果通知書
- 資格者の資格証原本
- 健康保険証など資格者の常勤確認書類
- 過去に申請した工事契約書や請書
- 確定申告書
- 納税証明書
- 建設業許可通知書
申請に必要な書類を提出した後は、以下のような流れで審査が進められます。
経営事項審査の流れ
- 経営状況分析を申請する
- 経営事項審査を予約する
- 経営事項審査を申請する
- 経営事項審査の結果通知書を受領する
- 公共団体へ工事を受注するための申請をする
経営事項審査だけでなく、建設業許可など建設業を運営していく上で様々な課題に悩んだ経験がある方も多いと思います。おさだ総合事務所では東京都の建設業に特化した社労士業務をさせていただいているので、まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
今回は、「退職一時金制度と経営事項審査の関係性」について解説しました。
- 経営事項審査とは、国や地方自治体などの行政が発注している公共工事の元請けをしている建設業者を対象としている資格審査
- 退職一時金制度とは、退職時に勤務していた企業から一括で退職金を受け取る制度
- 退職一時金制度は、退職一時金制度・企業年金制度の導入に該当する
- 退職一時金制度を導入すると給与や受け取る退職金の額が減ったり内部留保の税率が上がる
売上を伸ばすためには、工事の受注数を増やす必要があります。
皆さんも退職一時金制度などを通じて経営事項審査を有利に進めて、発注される工事数を増やしましょう!!
ご愛読いただきありがとうございました。