経営事項審査(経審)とは、建設業者の経営状況や信用を客観的に評価する代表的な公的制度です。
「経審はうちに関係ない」と思われる建設業者も多いかもしれません。
また、経審を毎回受けている建設業者であっても、その点数を気にしていないと公共工事の受注に影響する場合もあります。
経審はただ審査の書類を揃えるだけではなく、ちょっとした対策をすることで点数に大きく影響が出るものです。
この記事では、「事業年度終了届」との関係も含めて経営事項審査の基本を解説していきます。
建設業者が知っておきたい経営事項審査の基本

審査と聞くと怖いイメージを持つ方もいるかもしれません。
一方で、建設業者は経営事項審査を受けることで公共工事の入札が可能になったり新たに取引先を増やすといったチャンスを広げられることもあるのです。
まずは、経営事項審査について基本的な知識を説明していきましょう。
経審と公共工事の関係
経審は、建設業者が公共工事の入札に参加するために必要不可欠な審査制度です。
国や地方自治体が発注する工事では、建設業許可を持っているだけでは入札できません。
経審で得られる「総合評定値(P点)」が発注者の入札参加資格審査の基準となっており、点数に応じて参加できる工事の等級や規模が決まります。
つまり、経審の結果が公共工事の参加条件であり、会社の実力の証明でもあるのです。
また、元請が下請業者を選定する際にP点を参考にするケースもあります。
公共工事に直接関わらない業者にとっても経審は無視できない制度といえるのです。
総合評定値(P点)とは
経審を受けると「総合評定値(P点)」が出されます。
これは建設業者の経営状況や技術力、社会性などを数値化した会社の偏差値のようなものです。
公共工事の入札参加資格を判定する際の基準にもなっています。
点数が高いほど大きな規模の工事や高ランクの案件に参加できる可能性が高くなります。
売上や利益だけでなく、保有資格者の数や社会保険加入状況、安全管理体制なども点数に影響します。
このため、見た目の業績が良くてもP点が低ければ希望する案件に参加できないケースもあります。
経審の主な評価項目
経審は、次の5つの項目で構成されています。
- 経営規模(X点)
- 経営状況分析(Y点)
- 技術力(Z点)
- 社会性等(W点)
- その他加点項目
経営規模(X点)は、売上高や自己資本額、完成工事高などを点数にして表したものです。
経営状況分析(Y点)は財務の自己資本比率や利益率などを分析機関が数値化したものです。
技術力(Z点)は有資格者の数や技術職員の状況が中心で、社会性等では安全対策や雇用実績などが点数になります。
最近は、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録や若年技能者の育成実績なども評価に反映されるようになっています。
これらすべてが「総合評定値(P点)」となり、公共工事の入札資格や業者ランクに反映されます。
経営事項審査に必要な事業年度終了届とは

建設業許可を持つ業者であれば、「事業年度終了届」は決算終了後4か月以内に提出をしなければならない書類です。
会社の決算書のうちの「財務諸表」と一年間の工事経歴をまとめたものが事業年度終了届です。
また、経審を受ける上でこの事業年度終了届の作成は大きな要素の一つになっているのです。
具体的に説明していきましょう。
事業年度終了届の重要性
事業年度終了届は単なる書類提出ではなく、経審の点数に大きく影響する土台にもなります。
事業年度終了届の内容次第で経審結果が変わることもあるのです。
中でも貸借対照表における「自己資本額」や「利益剰余金」、損益計算書における「営業利益」や「経常利益」は特に重要です。
これらは経営状況分析(Y点)に直結するので、財務の健全性を示す重要な指標となります。
また、「完成工事高」や「工事原価」などは経営規模(X点)の評価にも影響します。
これらの数字が正確に反映されていないと、実力より低い点数を付けられてしまいます。
そして事業年度終了届を提出しないと経審を受けることはできません。
さらに、事業年度終了届を提出をしないと5年に一回の建設業許可の更新もできなくなります。
事業年度終了届の提出期限
事業年度終了届の提出期限は「事業年度が終了した日から4か月以内」と法令で定められています。
その4か月の間に税理士との調整・会計処理・建設業法に沿って財務諸表を修正する必要などがあります。
気が付くと4か月を過ぎていたなどということも少なくありません。
特に経審を受ける場合、この届出を済ませていないと申請自体ができませんので注意が必要です。
事業年度終了届の必要書類
事業年度終了届の必要書類は主に下記のものとなります。
- 財務諸表(貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書など)
- 工事経歴書
- 直前3年の各事業年度における工事施工金額
- 事業報告書(株式会社のみ)
- 納税証明書
これらの書類は、建設業法に定められた様式や記載ルールに従って作成する必要があります。
決算書で作成した一般的な財務諸表をそのまま使えるとは限りませんので、注意が必要です。
税務上の財務諸表との違い
一般的に「決算書」といえば、税務署に提出する会社の1年間の経営成績と財政状態を示すための基本的な資料をいいます。
「財務諸表」は決算書一式に含まれており、具体的には損益計算書や貸借対照表、勘定科目内訳明細書などがあります。
一方で、建設業者が経審を受けたり建設業許可の更新を行ったりする際には、建設業法に基づいた特別な様式で作成された「財務諸表」が必要になります。
この建設業用の財務諸表は、単に損益や資産を示すだけでなく、工事ごとの原価や進捗状況に応じた科目(完成工事原価、未成工事支出金、工事未収入金など)を正確に記載する必要があります。
基本的に、税務署に提出した財務諸表をそのまま使うことはできません。
経営事項審査で点数をあげるには

「経審であと数点上がれば希望の工事に手が届くのに」といった悩みをもつ建設業者もいるのではないでしょうか。
経審は、単なる事務作業ではありません。
経審の点数は会社の体力・信頼性・将来性を表しています。
さらに、売上だけでなく技術者の配置、社会保険の加入、そして書類の整合性までが問われます。
見落としがちなポイントを改善することで大きく点数を伸ばせる可能性もあるのです。
技術者の登録ミスをなくす
経営事項審査で点数を上げるには、「技術者の登録ミスをなくす」ことが不可欠です。
Z点(技術力)は、有資格者の数と配置状況で大きく変わる評価項目です。
実際、資格があるのに加点されないという例がよくあります。
原因の一つは、技術職員名簿に上位の資格で登録されていないことです。
たとえば、一級施工管理技士の資格があるにもかかわらず、二級のままで名簿に記載されていると不利になってしまいます。
また、申請する建設業の業種と対応していない資格が記載されているケースも要注意です。
さらに、監理技術者資格者証の有効期限切れや、監理技術者講習などの未受講も評価から外される要因となります。
常日ごろから技術者の情報の管理が大切です。
社会性等(W点)を重要視する
経審といえば、以前は「売上がいくらあるか」や「どんな資格を持った技術者がいるか」という点が重要でした。
しかし最近は流れが変わってきており、会社としての姿勢がしっかり見られるようになってきています。
たとえば、安全対策がきちんとできてるか、法律を守っているか、環境に配慮しているか、働く人の環境を整えてるかなどが点数に影響してくるのです。
具体的には女性や高齢の方を積極的に雇っていたり、建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録していたりすると加点されるようになっています。
このような取り組みは一見すると形だけのように思われがちですが、実際は元請や自治体からの信頼につながり仕事のチャンスも広がっていきます。
経営状況分析対策をする
経営状況分析(Y点)は、財務内容の健全さを示す重要な指標です。
具体的には、自己資本比率や営業利益率、負債比率といった財務指標をもとに点数が計算されます。
では、Y点を上げるためにどんな対策があるのでしょうか?
まずは、日々の経理をきちんと整えることです。
赤字経営が続いている場合は、無理に売上を追うのではなく利益率の改善や固定費の見直しが重要です。
不要な借入金や過剰な在庫を減らし、資産と負債のバランスを良くすることも有効です。
加えて、代表者からの借入を資本金に振り替える「資本増強」なども、自己資本比率の向上につながります。
ただし、対策の多くは決算が締まる前にしか反映できないため、年度末前に税理士や建設業専門の行政書士と相談しておくことが大切です。
経営事項審査の受け方

経審を受けるには年間を通じて準備や対策が必要です。
では実際に、どのようにして経審を受けるのでしょうか。
次に、書類の作成から提出までの流れを解説していきます。
経審の流れ
経審の一連の流れは下記のようになります。
- 事業年度終了届の提出
- 経営状況分析申請(登録機関へ)
- 経営規模等評価申請(自治体へ)
- 結果通知の受領
まず行うのが、事業年度終了届の提出です。
税務上の決算書の作成ができたら、その財務諸表を建設業法にのっとった方法で作り直しをします。
そして年間の工事経歴書、直前3年の施工金額、納税証明書などを準備し、まとめて提出します。
次に、「経営状況分析申請」を分析機関に提出し、手数料を支払います。
ここでY点(経営状況)が計算され、分析結果通知書が発行されます。
その後、この分析結果を含む一式の書類を整えて、管轄の行政庁に「経営規模等評価申請および総合評定値請求」をします。
審査が終わると、P点(総合評定値)が通知されます。
書類の不備や順序ミスがあると、スケジュールが大きく狂うため早めの準備と専門家への相談がカギになります。
経営状況分析機関とは
経営状況分析機関とは、経審を受ける際に必要となる「経営状況分析」を専門的に行う民間の機関で、国土交通大臣の登録を受けた法人のことを指します。
建設業者が提出した貸借対照表や損益計算書などを分析し、自己資本比率や利益率、負債比率などを計算して点数化するのが登録分析機関の役割です。
登録分析機関は次の10か所となります。
登録分析機関 | 特徴・対応内容 | 分析手数料(目安・税込) |
(一財)建設業情報管理センター | 老舗、安定の信頼と実績あり | 電子申請:12,340円 郵送:13,880円 |
(株)マネージメント・データ・リサーチ | 九州地方の中小企業向け、地域密着支援 | 13,000円 |
ワイズ公共データシステム(株) | データ入力支援が得意、処理スピードにも定評あり | エコノミー:9,900円 標準:13,600円 即日:39,800円 |
(株)九州経営情報分析センター | 九州全域対応、地域企業特化サービス | 11,000円 |
(株)北海道経営情報センター | 北海道中心、地元業者からの信頼高い | 13,500円 |
(株)ネットコア | 電子申請特化、ITを活かした効率的サポート | 13,000円 |
(株)経営状況分析センター | 首都圏中小建設業対応が中心、ノウハウ豊富 | 電子:12,500円 郵送:13,000円 |
経営状況分析センター西日本(株) | 中国・四国エリア重視、地域フォロー強め | 電子:12,560円 郵送:13,610円 |
(株)NKB | 北部九州を中心、実績多数で親しみやすい対応 | 13,000円 |
(株)建設業経営情報分析センター | 多業種対応、立川拠点で地域密着の安心感あり | 8,800円 |
分析内容や計算方法は国土交通省の基準に基づいているため、どの登録分析機関を選んでもY点そのものは変わりません。
しかし、金額やサポートの質・スピード・申請しやすさには違いがあります。
また、料金等は改正が入ることもありますので、必要に応じてそれぞれの公式サイトで確認することをおすすめします。
経審にかかる手数料
分析にかかる費用の他に、経営規模等評価の申請及び総合評定値算出の費用もかかります。
基本的に、経審の手数料は次の計算式で算出します。
8,500円+(審査対象業種数)×2,500円
経審を受ける業種が1業種であれば、11,000円です。
これより1業種増えるごとに2,500円加算されますので、2業種経審を受けるのであれば13,500円となります。
経審の必要書類
以下、経審の主な必要書類の一覧です。
- 経営規模等評価申請書
- 総合評定値請求書
- 建設業許可通知書の写し
- 事業年度終了届出書(控)および受付印のあるもの
- 税務申告書一式(直近1期分)
法人:法人税申告書(別表一・四・五(一)など)
個人:所得税確定申告書(青色申告決算書など) - 納税証明書(法人税または所得税)
- 技術職員名簿
- 工事経歴書
- 技術職員の資格証の写し
- 建設機械の保有証明書(該当する場合)
- 労働保険・社会保険の加入証明書類
- 災害防止協議会等の加点に関する証明書類(任意)
申請内容や自治体により異なる場合がありますので、各都道府県の手引きを確認するようにしてください。
東京都知事許可業者向け!経営事項審査の注意点

東京都知事許可業者が経審を受ける際には、一般的な注意点に加えて東京都特有の手続きや運用ルールに注意が必要です。
次に、重要なポイントをまとめます。
事前確認制度がある
以下の条件に該当する場合、審査前に「事前確認」を受ける必要があります。
- 技術職員が40名を超える場合
- 建設機械の保有台数が6台以上
- 工事経歴書の確認対象工事が20件を超える、または単価契約が7件以上ある場合
- 初回許可で通知書を紛失している場合
自社が上記に該当する場合は、事前に東京都に確認をとるようにしましょう。
書類の様式は都独自の指示に従う
東京都では、対面審査においては「確認書(No.5様式)」の提出が必須です。
記入漏れがあると受付されないため、太枠内の記入をしっかりと行いましょう。
また、有資格区分「001」「002」「009」の技術者が10名以上いる場合、「資格者一覧表」の作成が必要です。
建設機械保有状況一覧表においても機械の所有台数やリース台数を記載する専用様式があります。
オンラインによる予約が必要
予約は専用予約システム のみで受け付けています。
予約日時の選択 | 東京都 ネット予約 経営事項審査申請の予約
従来の「窓口申込」「電話」「予約申込票」での受付は令和7年4月末で廃止されました。
変更またはキャンセルが必要なとき、システムが利用できない特別な事情がある場合は建設業課まで直接連絡が必要です。
東京都の最新ガイドライン・様式・受付状況を随時確認しながら経審を進めましょう。
まとめ
経営事項審査は、公共工事への参加資格を判断する大切な制度です。
技術職員や保険などの加入状況も大切ですが、「事業年度終了届」は審査の土台にもなる重要書類なのです。
事業年度終了届を単に提出書類ととらえるのではなく、その内容に十分に注意して作成するようにしましょう。
そのためには決算前から計画的に会社の財務に留意する必要があります。
また、提出が遅れると申請自体できなくなるため注意が必要です。
おさだ事務所では、東京都知事許可業者の経営事項審査の書類作成を承っています。
長年の経験とノウハウで経審対策もばっちりです。
是非、おさだ事務所にご相談ください!