建設工事の入札に参加するためには、経営事項審査を受けて総合評定値と呼ばれる点数を取得しておく必要があります。
経営事項審査は毎年の定例業務となっている建設業者も多いことでしょう。
そして準備を進めるうえで意識しておきたいのが、決算月とその後の手続きのスケジュールです。
3月決算の会社は非常に多く、それに伴って毎年春から初夏にかけて予約が殺到する傾向にあります。
今回は「東京都で経営事項審査を受けたい」「3月決算の準備に不安がある」「予約ってどうするの?」という方に向けて、基本知識から予約の流れ、準備のポイントまでをわかりやすく解説していきます。
経営事項審査の基本知識

経営事項審査は、国や自治体が発注する公共工事を請け負うために必要な審査制度です。
建設業者の経営状況や技術力などを点数で評価し、客観的な指標として活用されます。
この評価結果は、公共工事の入札参加資格を得る際に重要な要素となるため、特に元請として入札に参加したい企業にとっては、避けて通れない制度といえます。
ここでは「経営事項審査とは何か」という基本的な部分を解説していきましょう。
経営事項審査の目的と必要性
経営事項審査とは、国や地方公共団体が発注する建設工事に入札するために必要な、いわば建設業者の通信簿のような制度です。
略して「経審」とも呼ばれ、建設業法に基づいて定められた制度です。
審査では、会社の財務状況、技術者の配置状況、過去の工事実績、法令遵守など、いくつかの観点から総合的に評価がされ、「総合評定値(P点)」というスコアが算出されます。
このスコアが高ければ高いほど、公共工事の入札で有利になります。
民間工事のみを請け負う業者にとっては必須ではありませんが、官公庁案件を目指す場合には避けて通れないものとなっています。
審査対象となる業者の条件
入札に参加するためには、その自治体等の入札参加資格者名簿に登載されている必要があります。
入札参加資格者名簿に載るためには、経審を受けていなければなりません。
そして経審を受けるには、建設業の許可を受けていることが前提となります。
許可をもっていない業者も入札に参加はできますが、「委託」「物品」「測量」といったものだけであり、「建設工事」の入札を受ける場合は建設業許可が必須となります。
ただし、「小規模修繕」といった軽易な施設等の修繕や工事の受注・施工を希望する場合は、建設業許可が不要といった自治体もあります。
そして経審を受けるためには、建設業者は適正に決算処理を行い、その毎年度の決算後に「決算変更届(事業年度終了報告書)」を提出しなければなりません。
決算情報は経審の最も重要な要素であり、入札参加資格者名簿で上位に掲載されるためには、決算内容を適切に調整する必要があります。
経審に必要な書類
提出書類は法人の決算書や工事経歴書、技術者名簿、納税証明書などいろいろあります。
年に一度のことなので、毎年「何をそろえればいいんだっけ?」と頭を悩ませる方も多いでしょう。
以下、東京都の経審を受審するために必要な主な提出書類の一覧となります。
- 経営規模等評価申請書・総合評定値請求書
- 工事種別完成工事高・工事種別元請完成工事高
- その他の審査項目(社会性等)
- 技術職員名簿
- 経営状況分析申請結果通知書
- 直前3年の各事業年度における工事施工金額
- 建設機械の保有状況一覧表
- 工事経歴書
- 経理処理の適正を確認した旨の書類
- CPD単位を取得した技術者名簿
- 技能者名簿
- CCUS利用に関する誓約書及び同意書
また、主な裏付け書類は次のようになります。
- 建設業許可通知書
- 前回の経営事項審査申請書類
- 決算報告書
- 技術職員、経管、専技などに関する常勤性確認書類
- 社会保険確認書類
- 労働保険確認書類
- 建退共加入証明書類
- 法定外労災加入証明書類
- CPD取得単位証明書類
- 能力評価(技能レベル)判定結果通知書
- 技能者数確認書類
- ワークライフバランス認定に関する書類
- 防災協定書
- 監査受審状況書類
- 公認会計士、二級登録経理試験合格者書類
- 消費税確定申告書
- 消費税納税証明書
- 各工事の契約書または請負契約書の写し
経審の手引きを確認しながら必要書類を準備しましょう。
東京都での経審手続の特徴と注意点

東京都で経審を受ける場合、東京都都市整備局市街地建築部建設業課が審査を担当します。
他県では対面審査をしていない自治体もありますが、東京都では対面審査、電子申請にて審査が受けられます。
また、東京都知事許可業者が注意すべき点は経審が「完全予約制」であることです。
飛び込みで訪問しても審査は受けられません。
予約の枠は限られており、特に3月決算の事業者が集中する6〜7月ごろは枠の取り合い状態になります。
また、東京都の場合は他の自治体と比べて申請書類のチェックが厳格な傾向があります。
少しのミスでも差し戻される可能性があるため、準備は慎重に行わなければなりません。
3月決算の建設業者が注意すべき経営事項審査スケジュール
国税庁の調査によると、企業の決算月は三月が一番多くなっています。
これは4月1日からの法改正への対応や、4月からの人事異動や企業体制の変更に対応できるようにしている企業が多いからです。
建設業許可に関しても4月になると新しい許可や経審の手引きが出されますので、新しい方法やルールで準備ができます。
12月決算を採用している企業も多いですが、この場合、経審を受ける時期によって前年度の方法か新年度の方法かが分かれてしまう可能性もあります。
また、6月から本格的に経審を始める自治体もあり、3月決算業者にとっては計画的に準備ができるようになっています。
決算月別のスケジュール管理の重要性
経審のスケジュールは、会社の決算月を起点に逆算して動きます。
決算終了後にすぐに経審を受けることはできず、まずは「決算変更届」を提出しその後「経審の申請」という流れになります。
決算変更届は決算終了後4か月以内に出す必要があります。
また、経審結果通知書の有効期間は前回決算より1年7カ月間となっています。
「いつ、何をするべきか」を明確にしておくことが不可欠です。
経審に必要な書類の準備は思ったよりも時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが肝心です。
3月決算の建設業者が準備すべき時期
3月決算の会社の経審スケジュールにおける注意点は以下の通りとなります。
- 7月までに決算終了届を提出しておくこと
- 遅くても8月1日0時からの経審予約枠を確保しておくこと
- 10月末までに経審結果通知書を受け取れるようにしておくこと
3月決算の建設業者は、4月に決算を確定させ、5月末には決算書が出てくることでしょう。
経審を受審するのであれば、速やかに「決算変更届」を作成しこれを7月までに提出完了させる必要があります。
決算変更届の提出期限は決算日より4か月以内ですので、7月末までに決算変更届を提出しなければならないのです。
そして東京都では、決算変更届の提出を完了させてからでないと経審の予約がとれません。
申請書類はその前からでも準備ができるものもありますので事前に整理しておきましょう。
特に、工事経歴書や技術職員名簿などは、元請・下請の分類や金額、経験年数などの細かいチェックが求められます。
書類は早めに準備しておくのが望ましいでしょう。
そして経審結果通知書の有効期限は1年7カ月ですので逆算すると、3月決算の会社は9月末までに経審受審を完了させておかなくてはなりません。
年度更新との関係にも注意を
また、3月決算の業者は、6月の「労働保険年度更新」や7月の「社会保険の算定基礎届」など、ほかの法定手続きともタイミングが重なります。
経審の準備とこれらの手続きで非常に忙しくなる時期となります。
労働保険や社会保険の資料も経審項目に関わりますので、並行して準備を進めていく必要があります。
「労務管理関係書類で不備があった」ということがないように注意しましょう。
東京都での経営事項審査の予約方法

東京都では令和7年4月1日より経審の予約がシステムによるオンライン予約となり、窓口・電話・予約申込票による予約は行えなくなりました。
経審予約システムはパソコンやスマホから24時間利用ができ、メールアドレスが必要となります。
アカウントの登録は必須ではありませんが、登録しておくと次回から名称等の入力が省略できます。
東京都の経審予約はいつから?
経審の予約はWEB予約システムから行います。
予約は毎月1日の0時から開始し、2か月後の月の分まで予約ができます。
開始と同時にアクセスが集中し、希望日がすぐに埋まってしまうこともあります。
3月決算の事業者は経審を9月末までに受審しなければなりませんので、8月1日の0時からの予約開始枠が最後のチャンスとなります。
予約の締め切りは予約日の直前の開庁日17時ですので、予約枠に空きがあれば直前でも予約が可能です。
予約をした後は内容の変更はできませんので、変更がある場合は一度キャンセルをして再度予約をとりなおす必要があります。
その際、キャンセルする旨を必ず建設業課受付まで電話連絡をしなければなりません。
無断でキャンセルとすると、次回からシステムの利用が制限されるかもしれませんので注意しましょう。
電子申請と窓口申請の違いとメリット
東京都では一部の手続きをオンラインで行う「電子申請」も進められていますが、現時点ではまだ経審の本申請は基本的に紙ベースでの窓口提出が主流です。
窓口申請は、書類を持参しその場で形式審査が行われるため、担当者とのやりとりが必要になります。
電子申請は利便性が高いものの、対応していない項目や書類も多いため、「完全オンライン化」はまだ難しいといえるでしょう。
一方、窓口申請ではその場で不備が指摘されるため、再提出の手間が少なくて済むというメリットがあります。
また電子申請はいつでも提出できますが、窓口申請は予約が必須であり、繁忙期は1カ月以上待たされることもあります。
早めの行動がカギとなります。
スムーズな予約のためのチェックリスト
3月決算の事業者は、経審の予約を入れる際に以下の点を確認しておきましょう。
- 決算変更届の提出が完了し受付処理が済んでいるか
- 経営状況分析結果通知書の取得ができているか
- 技術者情報の内容に誤りがないか
- 取得に時間のかかる裏付け書類の準備ができているか
- 必要書類が正しくまとめられているか
- 9月末までの日時で予約がとれるか
これらが抜けていると、予約できても当日その場で審査不可となることがあり再来しなければなりません。
再来はシステムによる予約ができず、一日の審査が終了した後に受ける場合もありますのでかなり待たされる可能性もあります。
また、窓口審査に日数がかかると経審結果通知書の発送が遅れ、経審の有効期間が途切れてしまうこともあります。
特に継続して入札参加資格申請している業者は、公共工事を請け負えなくなるなどの大きな問題が生じる可能性もあります。
経審の有効期間は1年7カ月です。
また、東京都では経審結果通知書の発行に標準で22日間かかります。
3月決算の事業者は前年度の経審の有効期間が10月末までですので、それまでに経審結果が出るように9月末までには経審を終わらせておく必要があるのです。
予約前の最終チェックを怠らないようにしましょう。
3月決算業者の経審の事前準備

経審は必要な書類を準備するだけでも一苦労です。
しかし、揃える書類の種類や経審に対する知識によっては経審の結果に大きな差が出ることがあります。
経審対策を入念に行うことでその後の入札の名簿登載にまで影響が出てきますので、大変な作業ではありますが入念に経審準備を進める必要があります。
では次にどのように経審対策すればよいのか、解説していきましょう。
評価点アップのためにできること
経審では単に書類を提出するだけでなく、「どれだけ高い評価を得られるか」が重要になります。
評価項目の中には、決算情報や技術者の資格、加入保険の種類など努力によって加点できるものも多く存在します。
たとえば、登録基幹技能者を配置している、上乗せ保険に加入している、退職金制度がある、監理技術者が多数いる、というだけで評価が上がります。
年度によって加点のポイントが変わることもありますので経審業者は常に最新の情報にも注意しておきましょう。
ミスを防ぐための書類作成のポイント
審査でつまずきがちなポイントの一つが、「書類の不備や整合性のミス」です。
特に注意したいのが、工事経歴書とその確認書類の整合性、技術者の資格等の裏づけ資料になります。
また、数字の入力ミスや添付漏れなども差し戻しの原因になります。
時間に余裕を持って、必要ならばダブルチェック等を行い万全の体制で審査に臨みましょう。
行政書士への依頼
「経審は自力でやるにはハードルが高い」と感じる方は、早めに行政書士などの専門家に依頼するのも一つの手です。
特に3月決算のタイミングは繁忙期のため、行政書士も忙しくなり丁寧な対応ができなくなる場合も考えられます。
ベストな依頼タイミングは、決算書が完成する前の1月~2月頃です。
この時期であれば、決算日に向けて経審対策や経審に必要な加入手続きなども行えます。
プロのサポートを受けながら余裕をもって書類作成や予約準備をしたい方は早めに依頼を検討しましょう。
まとめ
経営事項審査を受けるには、次の点に注意することが大切です。
「決算後の流れを正しく把握すること」
「スケジュールに余裕を持つこと」
「書類に間違いがないよう確認すること」
特に3月決算の事業者は、一年で一番変化のある時期に経審を受審しますので「いつ・何を・どうやって」準備するかを早い段階で見極めることが求められます。
3月決算の事業者にとって、早めの準備と正確な対応が成功のカギとなります。
今年は万全の体制で経審を乗り切って、より良い評価を目指しましょう。
おさだ事務所は経営事項審査の専門の行政書士事務所です。
長年の経験と豊富な知識で、より高い経審結果を導き出せます。
自社での経審に不安がある方、もっとよい点数を目指したい事業者様はぜひおさだ事務所にご相談ください!