確定申告の時期が近づいてきました。
個人で建設業を営む事業主にとっては、この時期はやるべきことが多く、憂鬱な時期かもしれません。
建設業は工事が長期化しやすく、売上や原価の計上が複雑になりがちです。
さらに、税務処理と建設業許可制度は密接に結びついているため、12月決算を正しく処理できていないと、その後の経営にも影響が及ぶ可能性があります。
この記事では、建設業の個人事業主が必ず押さえるべきポイントを、確定申告・決算変更届・経審の流れに沿って解説します。
個人事業主の建設業者はなぜ12月決算なのか

建設業を営む個人事業主にとって、12月は1年の締めくくりであり、税務処理・確定申告・建設業許可の手続きなど、翌年の重要な事務作業の起点となる時期です。
しかし、そもそも「なぜ個人事業主は12月決算なのか」という点は、意外に知られていません。
この仕組みを理解しておくと、確定申告や決算変更届、経審などの手続きの流れが整理しやすくなり、スケジュール管理も格段に楽になります。
ここでは、その理由を税法の仕組みから丁寧に解説します。
個人事業主は税法上個人として扱われるため
建設業を営んでいても、個人事業主は法律上「法人」とは異なり、あくまで個人として扱われます。
そのため、事業で得た利益だけでなく、給与・生活費・各種所得控除など、すべての収入や支出が「個人の所得」として一体で計算されます。
法人の場合は、会社という独立した人格が存在し、会社の利益と個人の所得は完全に分離されています。
しかし、個人事業主にはこの区分がなく、あくまで「個人と事業が一体」という認識になります。
所得税法で課税期間が決められているため
個人事業主の決算が12月になる最大の理由は、所得税法で課税期間が明確に定められているためです。
課税期間:1月1日〜12月31日
課税方式:暦年課税(カレンダー通りの1年間で所得を計算)
この暦年課税の期間が、そのまま個人事業主の「事業年度=決算期間」として扱われます。
法人の場合は、定款で事業年度を自由に設定できるため、3月決算・6月決算など会社ごとに異なります。
しかし、個人事業主には定款がなく、事業年度を任意に決める制度もありません。
そのため、個人事業主は例外なく12月31日が決算日となり、翌年の確定申告(2〜3月)でその1年間の所得を申告する仕組みになっています。
建設業の個人事業主が行う確定申告の注意点

建設業を営む個人事業主にとって毎年2〜3月に行う確定申告は、建設業許可の維持や更新、さらには経営事項審査(経審)にも直結する非常に重要な手続きです。
確定申告書に記載された内容は、そのまま事業の財務状況を示す公式資料として行政庁に提出されます。
そのため、売上や経費の計上ミス、数字の不整合があると、許可手続きや経審で指摘を受けることもあります。
ここでは、確定申告が建設業許可とどのように関係しているのか、実務で特に注意すべきポイントを解説します。
確定申告は許可の取得や更新に必要
建設業許可を新規で取得する際、行政庁は「財務状況」と「建設業の経験年数」を確認します。
その際に提出するのが「確定申告書」です。
個人事業主の場合、これが事業の実績を示す唯一の公式資料となります。
また、すでに建設業許可を持っている個人事業主は、毎年「決算終了届(事業年度終了届)」の提出が義務付けられています。
この届出には確定申告書の内容が反映されるため、申告が遅れていたり、内容に誤りがあると、許可更新の手続きが進まないことがあります。
確定申告書は建設業許可の財務資料になる
個人事業主は法人のように決算書を作成しないため、建設業許可における財務資料は確定申告書(申告書B・青色申告決算書)がそのまま代わりになります。
行政庁は確定申告書をもとに、次のような項目を確認します。
- 売上高
- 売上原価
- 利益
- 資産・負債の状況
これらの数字は、工事経歴書や直前3年の工事施工金額と整合している必要があります。
もし売上や経費の計上漏れがあると、次の問題が発生します。
- 工事経歴書の金額と合わない
- 施工金額と売上が一致しない
この場合、行政庁から訂正や追加説明を求められることがあります。
特に建設業は工事ごとの原価管理が重要で、税務資料と許可資料の数字が一致していることが強く求められます。
さらに、税金の滞納がある場合は経営の健全性に疑問を持たれ、許可手続きに影響することもあります。
青色申告は経営事項審査に必要
公共工事の入札を目指す個人事業主は、経営事項審査(経審)を受けなくてはなりません。
経審では、財務状況を示すために貸借対照表の提出が求められます。
しかし、白色申告では貸借対照表を作成しないため、経審用の財務諸表が作れません。
一方、青色申告では複式簿記に基づく帳簿を作成するため、貸借対照表が作成できます。
青色申告には次のようなメリットもあります。
- 帳簿の信頼性が高く、行政庁からの評価が安定する
- 青色申告特別控除など税務上の優遇が受けられる
- 赤字の繰越控除ができ、経営の安定につながる
建設業の個人事業主が提出する決算変更届の注意点

建設業許可を維持して事業を継続するためには、毎年必ず「決算変更届(事業年度終了報告)」を提出しなければなりません。
この届出は、行政庁が事業者の経営状況や施工実績を把握するための重要な資料であり、提出期限を守ることはもちろん、内容の正確性も強く求められます。
特に建設業は工事ごとの金額管理が複雑で、税務資料との整合性が取れていないと指摘を受けるケースもあります。
ここでは、決算変更届を提出する際に必ず押さえておきたいポイントを解説します。
決算後4か月以内が提出期限
決算変更届は建設業法で提出が義務付けられている法定書類で、提出期限は「決算日から4か月以内」と明確に定められています。
この期限を過ぎると、以下のような影響が考えられます。
- 行政庁からの指導・注意
- 許可更新時に「提出遅延」として扱われる
自治体によっては、決算変更届の提出が遅れた理由書の添付を求められる場合もあります。
また、添付書類の納税証明書が取得できなくなるケースもあります。
決算変更届に必要な書類
決算変更届には、建設業の実績と財務状況を示す書類を添付する必要があります。
- 工事経歴書
- 直前3年の工事施工金額(直3)
- 納税証明書
さらに、行政庁によっては追加資料を求められる場合もあるため、事前に提出先の要件を確認しておきましょう
東京都知事許可の納税証明書の取り扱い
東京都知事許可の個人事業主は、提出する納税証明書について注意が必要です。
状況や時期によって、種類や取得場所が異なります。
税務署で取得する「申告所得税の納税証明書(その2)に事業所得金額の記載があるもの」が必要な場合は次の通りです。
- 個人事業税が非課税の事業主
- 個人事業税が課税される事業主で、前年所得分の納付時期が未到来の8月中頃までに納税証明書を取得する場合
上記に該当しなければ、都税事務所にて「個人事業税の納税証明書」を取得しましょう。
書類作成時の注意点
決算変更届で最も重要なのは、すべての数字が整合していることです。
特に次の点は行政庁からの指摘が多い部分です。
- 工事経歴書の業種の分類が正しいか
- 直前3年の施工金額と確定申告書の売上が一致しているか
- 工事経歴書の金額と直3の金額にズレがないか
- 工事名が曖昧すぎないか、元請・下請の区分が明確か
決算変更届は、税務資料(確定申告書)と許可資料(工事経歴書・直3)がすべて連動しているため、どれか一つでも誤りがあると全体に影響します。
提出前に必ず数字を照合し、整合性を確認することが大切です。
建設業の個人事業主が経審を受ける際の注意点

公共工事の入札に参加するためには、個人事業主であっても経審を受ける必要があります。
特に12月決算の事業者は、確定申告・決算変更届・財務諸表の作成といった重要な手続きがすべて年度前半に集中するため、準備が遅れるとそのまま経審の遅れにつながります。
基本は「決算変更届 → 経審申請 → 入札参加資格申請」という流れで進むため、どこか一つでも遅れると入札のスケジュール全体に影響します。
ここでは、12月決算の個人事業主が経審を受ける際に特に注意すべきポイントを解説します。
決算変更届を出さないと経審が受けられない
経審を受けるためには決算変更届(事業年度終了報告)の提出が必須です。
個人事業主の決算日は12月31日であるため、決算変更届の提出期限は翌年4月末となります。
この期限を過ぎてしまうと、経審や入札において次の問題が発生します。
- 経審が受審できない
- 入札参加資格の更新に間に合わない
- 経審の有効期間に空白が生じる
経審は自治体ごとに受付期間が決まっており、決算変更届の遅れがそのまま入札資格の喪失につながるケースもあります。
そのため、確定申告が終わった段階で下記の項目について進めておきましょう。
- 工事経歴書の整理
- 施工金額の集計
- 工事請負契約書などの証憑の準備
経審用財務諸表と決算変更届の内容が一致していないといけない
経審では、財務状況を評価するために経審用の財務諸表を提出します。
この財務諸表は、決算変更届や確定申告書と数字が完全に一致している必要があります。
特に次の項目にズレがあると、審査が進まず訂正が必要になります。
- 売上高
- 売上原価
- 利益
- 資産・負債の金額
数字がズレる主な原因としては、次のようなものが考えられます。
- 未成工事支出金の処理ミス
- 工事経歴書の金額誤り
- 外注費・材料費の計上漏れ
経審は財務の信頼性を重視するため、数字が不一致だと受理されないことがあります。
決算作業の段階から、税務資料と許可資料を照らし合わせ、整合性を確保しておくことが非常に重要です。
技術者の資格や社保加入状況を整理しておく
経審では、財務内容だけでなく「技術者の保有資格」や「社会保険加入状況」も重要な評価項目です。
技術者の資格の種類や人数によって技術力点が大きく変わります。
保有資格を整理し、また監理技術者講習を受講しているかなども事前に確認します。
証明書類をすぐに提出できる状態にしておくことが必要です。
また、社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)の加入状況も審査対象となり、未加入の場合は行政庁から改善指導を受けることもあります。
個人事業主であっても、従業員がいる場合は社会保険加入が求められるため、事前に加入状況を確認しておくことが重要です。
12月決算の建設業者が押さえるべき年間スケジュール

12月決算の個人事業主にとって、建設業の手続きの多くが年明けから春に集中します。
スケジュールを把握しておかないと提出漏れや準備不足につながります。
特に建設業は、確定申告と許可手続きが密接に連動しているため、1つの作業が遅れるとすべてに影響しかねません。
一年間のスケジュールは以下の通りです。
1〜3月:決算整理・確定申告
4月:決算変更届の提出期限
5〜7月:経審の準備と申請
8〜10月:入札参加資格申請の準備
11〜12月:次年度に向けた経営改善・技術者管理
このように、建設業の年間スケジュールは「税務 → 許可 → 経審 → 入札 → 翌年準備」という流れで循環していくため、毎年の動きを把握しておくことが重要です。
12月決算の建設業個人事業主によくある質問(FAQ)

12月決算の個人事業主にとって、年明けから春にかけては重要な手続きが一気に押し寄せる時期です。
このタイミングは疑問や不安が生まれやすく、行政庁からの指摘を受けやすいポイントも多く存在します。
ここでは、実務で特に質問が多い内容を取り上げ、建設業者がつまずきやすい点を解説します。
税務資料と施工金額が一致しないとどうなるか
一致していない場合、行政庁から指摘を受ける可能性が高くなります。
建設業では、税務資料と許可資料の整合性が非常に重視されています。
数字が合わないと「工事実績の信頼性に問題がある」と判断され、追加資料や訂正が求められることがあります。
特に、工事経歴書の工事金額と直3の金額、そして確定申告書の売上が一致していないケースがよくみられます。
数字の整合性は、許可維持・経審のどちらにも影響するため、提出前に必ず照合しておくことが重要です。
経審はいつ受けるのがベスト?
12月決算の個人事業主が経審を受ける最適なタイミングは、決算変更届の提出後である「5〜6月」が一般的です。
その理由は次の通りです。
- 経審は決算変更届の内容をもとに財務評価するため、届出が完了していないと申請できない
- 多くの自治体では、入札参加資格申請の受付が夏〜秋に行われる
- 5〜6月に経審を受けておくと、入札参加資格申請に余裕を持って対応できる
- 書類の不備があった場合でも、修正する時間を確保できる
また、自治体によっては4〜5月に行政庁の人事異動があり、経審の受付を一時的に停止している場合もあります。
そのため、事前に受付期間を確認し、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
決算変更届を出し忘れたらどうなる?
決算変更届は建設業法で提出が義務付けられているため、提出漏れは行政庁からの指導や注意の対象となります。
さらに、決算変更届を提出していないと次のような影響が出ます。
- 経審を受審できない
- 公共工事の入札に参加できない場合がある
- 過年度分の未提出があると更新審査が長引く
ただし、提出期限を過ぎていても、気づいた時点で速やかに提出すれば受理されるケースがほとんどです。
公共工事を目指す個人事業主にとって、確定申告・決算変更届・経審は毎年欠かせない重要な手続きです。
数字の整合性や書類の準備に不安がある場合は、専門家のサポートを受けることで大きく負担を減らせます。
建設業許可や経審に精通した行政書士をお探しなら、おさだ事務所が丁寧にサポートします。お気軽にご相談ください。
【参考サイト】
【こちらもご覧ください】
東京都許可業者必見!首都圏の入札参加資格申請についての徹底ガイド【最新版】 | 建設業専門 おさだ事務所
【東京都知事許可業者向け】経審の基本!事業年度終了届が経審に与える影響とは? | 建設業専門 おさだ事務所


