建設業許可の中でも、「機械器具設置工事業」は取得のハードルが高い業種として知られています。
工事の内容が特殊であることに加え他の専門工事との区分が複雑なため、申請しても工種の判断に時間を要することもあります。
実際、多くの事業者がこの許可を目指して申請を行っていますが、審査の過程でつまずいてしまう例も多く見受けられます。
今回は、機械器具設置工事業の基本的な概要から、許可取得に向けた準備のポイントまでをわかりやすく解説していきましょう。
建設業許可の機械器具設置工事業とは

建設業許可の中でも「機械器具設置工事業」は、判断が難しく申請に慎重さが求められる業種です。
許可取得を目指すうえで、まずはこの工事業種の基本的な位置づけや特徴を把握しておくことが、スムーズな準備と申請につながります。
ここでは、その概要を解説していきましょう。
機械器具設置工事業とはどんな工事?
機械器具設置工事業とは、工場や施設などにおいて、機械器具を現場で組み立てたり、既存の構造物に取り付けたりする工事を指します。
単に完成した機械を運び込んで設置するだけではなく、複数の設備と連動するような機械を現場で組み立てて設置する点が特徴です。
たとえば、プラント設備や昇降機、集塵装置などのように、単体では機能せず、他の機器と連携して動作するような機械の設置が該当します。
こうした工事は、専門的な知識や技術が求められるため、建設業許可の中でも「機械器具設置工事業」は取得が難しい業種とされているのです。
また、工事の内容が他の専門工事(電気工事、管工事、電気通信工事など)と重なることもあるため、どの工種に該当するかの判断が非常に重要となります。
名称だけで判断するのではなく、実際の施工内容や機器の構造、設置方法などを総合的に見て判断されます。
このように、機械器具設置工事業は一見すると分かりづらい部分もありますが、次のポイントを抑えると理解がしやすくなるでしょう。
「他の専門工事に該当しない」
「現場で組み立てる」
「複合的に機能する機械を設置する」
上記の条件を満たす工事が機械器具設置工事の対象となります。
建設業許可が必要なのか
建設業許可は、一定規模以上の工事を請け負うために必要な制度です。
具体的には、1件あたりの工事金額が税込500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の場合、許可がなければ契約を結ぶことができません。
これは、発注者の保護や工事の安全性・信頼性を確保するために設けられているルールです。
特に機械器具設置工事業のような専門性の高い工事では、施工内容が複雑で、他業種との区分も難しいため、許可の有無が取引先からの信用にも直結します。
許可を取得していれば、技術力や経営体制が一定の基準を満たしていることの証明となり、公共工事や大規模案件への参入も可能になります。
つまり、建設業許可は単なる手続きではなく、事業の成長や安定した受注のために欠かせない重要な要素なのです。
機械器具設置工事に該当する工事の例

機械器具設置工事業に該当するかどうかは、工事の名称だけでは判断できません。
実際には、施工内容や機器の構造、設置方法などを総合的に見て判断されます。
次に、国土交通省が示している代表的な工事例をもとに、機械器具設置工事業として認められる可能性がある工事の種類を整理していきましょう。
代表的な工事例
- プラント設備工事
- 昇降機・運搬機器設置工事
- 内燃力発電設備工事
- 集塵・排気・揚排水設備工事
- ダム仮設備・遊技施設・舞台装置工事
- サイロ・立体駐車場設備工事
プラント設備工事は、製造や処理を行う施設において、複数の機械や装置を組み合わせて設置する工事です。
機器同士が連携して機能するため、現場での組み立てや調整が求められます。
昇降機設置工事は、エレベーターや荷物用リフトなどを建物に取り付ける工事で、構造体や電気設備との接続が求められます。
内燃力発電設備工事は、エンジンを動力源とする発電装置を設置するもので、燃料供給や排気処理などの付帯設備も含まれます。
集塵装置設置工事は、工場などで発生する粉塵を回収する機器を設置する工事で、空調や排気系統との連携が必要です。
給排気設備工事は、トンネルや地下道などに設置される大型の換気装置を対象とし、建物内の空調設備とは区別されます。
揚排水設備工事は、水をくみ上げたり排出したりするポンプなどを設置する工事です。
その他、ダム用仮設備や遊技施設、舞台装置、サイロ、立体駐車場なども、現場での組立てと機能連携がある場合は該当する可能性があります。
該当するかどうかの判断ポイント
- 工事名称ではなく実際の作業内容で判断する
- 設置する機械が複合的に機能するかどうか
- 工事内容が他業種に該当しないか
機械器具設置工事業に該当するかどうかは、工事の名称ではなく、実際の施工内容によって判断されます。
単体で機能する機械ではなく、複数の設備と連動して動作する機器を現場で組み立てて設置するのであれば機械器具設置工事に該当します。
また、他の専門工事(電気・管・通信など)に分類されないことも重要な判断材料です。
該当するかどうかは、工事ごとに個別に確認されるため、事前に図面や工程表などの資料を整えておくことが求められます。
機械器具設置工事に該当しない工事の例

一見すると機械器具設置工事に見える工事でも、実は別の専門工事に分類されることがあります。
見た目や名称だけで判断してしまうと、申請時に誤認されてしまうこともあるため注意が必要です。
ここでは、機械器具設置工事には該当しない代表的な工事の例を紹介しましょう。
他業種に分類される代表的な工事
- 電気設備・通信設備の設置工事
- 空調・冷暖房設備の設置工事
- 太陽光発電・火災報知器の設置工事
機械器具設置工事に見える工事でも、実際には他の専門工事に分類されるケースが多くあります。
たとえば、変電設備や構内電気設備の設置は、電気的な配線や制御系統の構築が中心となるため「電気工事」に該当します。
これらは機器の設置だけでなく、電源供給や安全管理が伴うため、機械器具設置工事とは区別されます。
また、建物内に設置される空調機器や冷暖房設備は、配管や冷媒の取り扱いが主となるため「管工事」に分類されます。
これに対し、トンネルや地下道など特殊な環境に設置される大型換気装置は、機械器具設置工事に該当する場合があります。
さらに、太陽光発電設備は電気的な接続や制御が中心となるため「電気工事」になります。
火災報知器の設置は消防法に基づく設置基準が関係するため「消防施設工事」に分類されます。
このように、工事の名称だけで判断するのではなく、施工内容や機器の機能、設置環境などを総合的に見て判断するようにしましょう。
工事場所や設置方法による違い
工事の種類を判断する際は、名称だけで決めるのはおすすめできません。
実際の施工内容や設置場所、機器の構造や機能の連携状況などを総合的に見て判断する必要があります。
たとえば「空調設備の設置」と聞くと、多くの方は管工事に該当すると考えるかもしれません。
しかし、設置場所が地下道など特殊な環境であり機器が複数の設備と連動して動作するような構成であれば、機械器具設置工事に該当する可能性が出てきます。
このように、同じ設備でも設置環境や機能の違いによって工種が変わることがあるため、判断は非常に繊細です。
機械器具設置工事業の許可取得が難しい理由

機械器具設置工事業は、建設業許可の中でも取得が難しいとされる業種のひとつです。
申請にあたっては、工事の区分や技術者の要件、書類の整備など、いくつもの壁に直面することがあります。
特に初めて申請を検討する方にとっては、どこから手をつければよいか迷うことでしょう。
ここでは、許可取得が難しいとされる背景を整理し、注意すべきポイントを見ていきます。
他業種との区分があいまいで判断が難しい
機械器具設置工事業の許可取得が難しいとされる最大の理由は、他業種との区分が非常にあいまいである点です。
特に電気工事、管工事、電気通信工事などと施工内容が重なるケースが多く、どの業種に該当するかの判断が簡単ではありません。
たとえば、空調設備の設置は管工事に分類されるのが一般的です。
しかし設置場所がトンネル内であったり、複数の機器と連動する構造であれば、機械器具設置工事に該当する可能性もあります。
このような境界線の曖昧さに加え、判断基準が行政庁ごとに異なる場合もあるため、同じ工事でも都道府県によって扱いが変わることがあります。
申請者が独自に判断して申請を進めると、工種の誤認により不許可となるリスクもあるため、事前に専門家へ相談し、工事内容を正確に整理しておくことが重要です。
専任技術者の条件が厳しかった
かつては機械器具設置工事業の許可取得において、営業所等技術者(専任技術者)の要件はとても厳しいものでした。
施工管理技士などの一般的な資格では対応できず、技術士や登録基幹技能者など限られた資格が求められていました。
しかし、現在では「施工管理技士(建築・電気・管)」「技術士(機械部門)」「登録基幹技能者(計装)」などの資格+「必要な実務経験年数」があれば認められるようになりました。
資格がない場合は長期間の実務経験を証明できる人材が必要とされるため、社内に該当者がいない場合は採用や育成に時間がかかります。
さらに、この実務経験の証明も簡単ではありません。
工事契約書や注文書だけでなく、施工図面、工程表、機器のカタログなど、工事内容が機械器具設置工事に該当することを示す資料が必要です。
他業種との区分が曖昧なため、行政庁によって判断が分かれることもあり、同じ書類でも認められないケースがあります。
書類の準備と保管が複雑
機械器具設置工事業の許可申請では、工事内容が他業種に該当しないことを証明するため、通常の申請よりも多くの書類が求められます。
基本となる工事契約書や注文書に加え、工事の実態を具体的に示す書類が求められます。
さらに、施工体系図や写真などが求められることもあり、単なる書類の提出では済まないケースも少なくありません。
特に実務経験を証明する場合は、10年分の工事記録を整える必要があり、日頃からの書類管理が重要です。
書類が不十分だと、工事が機械器具設置工事に該当すると認められない可能性もあるため、保存方法や記録の精度にも十分な配慮が求められます。
建設業許可取得に必要な準備と注意点

このように、機械器具設置工事の申請には必要な書類の種類が多く、実務経験の証明にも時間がかかることがあります。
場合によっては、数年単位での計画が必要になることもあるため、早めの情報収集と準備が欠かせません。
将来的に機械器具設置工事業の許可取得を検討している方は、まずは全体の流れを把握し、どこから手をつけるべきかを整理しておくことが大切です。
許可申請に必要な書類一覧
- 登記簿謄本(法人の場合)
- 定款の写し(法人の場合)
- 営業所の写真・案内図
- 過去の工事契約書・注文書・請求書
- 経営経験を証明する役職履歴や在籍証明書
- 社会保険加入状況を示す納付書類
- 国家資格証の写し
- 卒業証明書(指定学科の場合)
- 実務経験を証明する工事記録
- 直近の決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 残高証明書
- 工事内容が他業種に該当しないことを示す図面・工程表
- 機器のカタログ・仕様書
- 設置場所の写真や施工体系図
東京都は書類の一貫性を細かく確認し、整合性を重視する傾向にあります。
事前にチェックリストを活用しておくと、申請時の手戻りが防げます。
実務経験の証明方法と注意点
機械器具設置工事業の許可申請では、専任技術者の実務経験を証明することが重要な要件のひとつです。
許可業者での経験であれば、工事契約書や注文書などの基本書類を年数分そろえることで比較的スムーズに認められます。
一方、非許可業者での経験の場合は、工事が機械器具設置工事に該当するかどうかを行政庁が個別に判断するため、追加資料の提出が求められることがあります。
これらの書類が不足していたり、内容が曖昧だったりすると、実務経験として認められない可能性があります。
また、同じ資料でも行政庁によって判断が分かれることがあるため、事前に相談しながら準備を進めることが大切です。
専任技術者の確保方法
機械器具設置工事業の許可取得において、営業所等技術者(専任技術者)の確保は最も重要なポイントのひとつです。
社内に該当する人材がいない場合は、外部からの採用や社内育成が求められます。
採用を行う際は、技術士や施工管理技士、登録基幹技能者など、該当資格を持つ人材を人材バンクや専門求人サイトで探すのが効果的です。
一方、長期的な視点で社内育成を進める場合は、指定学科を卒業した新入社員を採用し、実務経験を積ませる方法があります。
大学卒であれば3年、高校卒であれば5年の実務経験を経れば、専任技術者として認定されます。
なお、許可業種での経験であれば証明がしやすいため、育成期間中の業務内容にも配慮しましょう。
よくある申請トラブルとその対策
機械器具設置工事の許可申請では「工事の該当性の判断」と「実務経験の裏付け資料」が最大の難所ともいえます。
他業種との誤認や書類不備による審査停止等があるのも事実です。
特に多いのが、工事内容が電気工事や管工事に該当すると判断され、機械器具設置工事として認められないケースです。
工事名称だけで判断せず、施工内容や機器の連動性、設置環境などを総合的に示す必要があります。
また、書類の不備にも注意が必要です。
契約書や注文書だけでなく、施工図面や工程表、機器のカタログなど、工事の実態を裏付ける資料が不足していると、審査が中断されることがあります。
特に非許可業者での実務経験を証明する場合は、追加資料の提出が求められることもあります。
そして審査で工種の該当性が認められず、許可に至らないケースも稀に見受けられます。
こうしたトラブルを防ぐため、事前に行政庁や専門家へ相談し、工事内容と書類の整合性を確認しておきましょう。
機械器具設置工事の許可申請は各行政庁毎に特徴があり、おさだ事務所は東京都知事許可申請に特化しています。
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