2025年7月には大阪・関西万博のアンゴラ館内装工事を無許可で請け負った業者に対し、30日間の営業停止処分が下されました。
この業者は弁明の機会を放棄しており、大阪府は厳格な対応を取りました。
また、5次、6次の下請け業者に工事費が支払われていないことも報道されています。
無許可による営業停止処分が企業経営に与える影響は甚大です。
無許可業者に依頼してしまうと、事業者だけでなく施主にも責任が及ぶケースがあります。
今回は、建設業の無許可工事の実態について解説していきましょう。
無許可で建設工事を行ったらその工事はどうなるのか

上記のアンゴラ館の工事は、アンゴラ国が発注した建設工事であり、6次下請けまで現場に入っていました。
今回、問題となったのは4次下請け業者であり、この業者が無許可で工事を行っていました。
2025年の初めに建設業許可申請を出す予定だったそうですが、着服の容疑で刑事告訴されているこの会社の経理担当者が許可申請を行っていなかったと報道されています。
事件の詳細は今後の捜査を見てみないと確かなことはわかりませんが、この経理担当者一人の責任ではないと推測されます。
下請業者の許可の有無は、元請業者が確認する義務があります。
安全書類などの提出も行われていたはずですので、なぜそこが見落とされてしまったのかは重要なポイントとなります。
また、この経理担当者一人に責任を負わせるのではなく、その管理責任として会社に大きな違反があったと判断されます。
結果として、発注者であるアンゴラは大きな被害をうけることになり、下請業者には工事費用が支払われず生活すら脅かされてしまっているのです。
無許可が判明!その工事はどうなる?
完成した建物や完工した工事でも、状況によっては「取り壊しなさい」という命令が行政から出されることがあります。
たとえば、建築のルール(建築基準法など)を大きく守っていない場合や、地震に弱くて危険だったり、避難通路や火事への備えがきちんとできていない場合などです。
また、「ここは住宅地なのに、勝手に店舗を建てた」といった用途のルール違反も問題になります。
さらに、「建てる前に必要な申請をしていない」「無許可で増築した」なども違法とされます。
この場合は行政から改善を求められ、それに従わないと、最終的には取り壊し命令や強制撤去(行政代執行)が行われることもあります。
その費用は施主など発注者が払わないといけません。
ただし、行政はすぐに壊したりはしません。
まずは「改善してください」という指導から始まり、それでも直さない場合に、段階を踏んで法的な命令や取り壊しに進みます。
違法な状態が改善されれば、取り壊しを避けることもできます。
建設業許可とは

建設業許可とは、国土交通省や各都道府県が認定する制度です。
建設業法第3条に規定されており、無許可で工事を行うと罰則を受ける可能性があります。
許可制度が対象とするのは「建設工事全般」であり、具体的には土木工事・建築工事などの一式工事、電気・管・内装・舗装などの専門工事とで全29業種に分類されます。
また建設業許可には「一般建設業許可」と「特定建設業許可」の2種類があります。
一般建設業は元請・下請問わず請負額が500万円以上の工事に必要です。
特定建設業は「1件の工事で5,000万円以上の下請契約」を締結する元請業者に対して、特定の責任を伴うため厳格な要件が定められています。
とりわけ公共工事や大型プロジェクトでは、特定許可の取得が事実上の参加条件になっているケースも少なくありません。
許可の対象工事
すべての建設工事が対象ではなく、「軽微な工事」は許可不要とされています。
また「付帯工事」や「追加工事」の扱いには注意が必要です。
許可を持たずに建設工事をすると建設業法違反となります。
最近では、無許可工事に対する行政のチェックが厳格化され、違反事例は国土交通省の公式通報ページや各自治体の公表リストにも掲載されるようになりました。
これにより、違法工事を行う業者の情報は元請や顧客の目にも触れる機会が増え、信用の失墜につながりやすくなっています。
許可が必要な金額
税込500万円を超える工事に関しては、建設業許可が必要です。
しかし、工事請負契約に「本体工事499万円(税込)」とだけ記載されていても、追加工事や資材支給の有無を確認する必要があります。
実は金額が基準を超えていた、というケースも決して少なくありません。
まず、建設業許可が必要か否かを判断するうえで重要なのは、「請負金額」と「工事種別」「契約形態」です。
請負金額には材料費・運搬費・消費税などすべてを含めて判断する必要があります。
とはいえ、この税込500万円以上という金額が誤解されやすいのも事実です。
さらに注意が必要なのが「工事種別」の認識です。
「内装工事を請け負っているから、建築一式工事として包括してOK」という考え方は危険であり、個別に工事種別を確認することが求められます。
また複数回に分けて契約する「分割契約」の場合、個々の金額が基準以下であっても累積すると基準を超えるケースがあります。
国土交通省によると、こうした分割契約による形式上の金額調整”は法令違反に該当する可能性があるとされ、実態としての金額が基準を超えていれば許可取得の対象になるとしています。
さらに、追加工事による金額超過も見落としがちなリスクです。
当初は480万円で契約していた工事に、後から50万円の追加工事が発生した場合、合計530万円となり、許可が必要になります。
追加契約の前に許可を取得していなければ、無許可工事と判断される可能性があります。
軽微な工事とは
建設業許可において、500万円という金額はとても重要です。
500万円未満の工事は「軽微な工事」と呼ばれています。
実際、この定義を誤解したまま施工を進めてしまい、後から無許可工事と判断されるケースが後を絶ちません。
軽微な工事の正しい解釈は、建設業法施行令第1条の2に基づき、以下のいずれかに該当する工事を指します。
- 建築一式工事:請負金額が税込1,500万円未満、または延べ床面積150㎡未満の木造住宅工事
- その他の工事:請負金額が税込500万円未満
たとえば「専門工事で軽微な工事の集合体だからOK」と思っていても、実態が建築一式工事であれば許可が必要です。
このように、軽微な工事の境界線は単純な金額だけでなく、工事の実態・契約形態・資材の流れなど、複数の要素を総合的に判断する必要があります。
無許可工事の法的ペナルティ

実際、令和6年度には全国で3000件を超える無許可工事が摘発されており、その多くが罰則対象となっています。
多くは請負額の誤認や工種判断ミスによるものです。
違反が発覚した場合、建設業法第50条・第52条に基づき、営業停止・罰金刑・行政処分が科される可能性があります。
では具体的に見ていきましょう。
無許可工事が発覚した場合の罰則
まず、建設業法第3条に違反した場合、刑事罰の対象となります。
具体的には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
さらに、行政処分として「営業停止命令」が下されることもあります。
この命令が出されると、一定期間、工事の受注・施工が一切できなくなります。
違反の程度によっては、行政庁から「許可の取り消し」や「刑事告発」が行われることもあります。
特に、過去に指導を受けていたにもかかわらず改善されなかった場合や意図的な脱法行為が認められた場合には、厳罰化される傾向があります。
契約無効・代金未回収のリスク
無許可で工事を請け負った場合、契約そのものが無効と判断される可能性があります。
つまり、工事代金の請求権すら失われるということです。
契約が無効と判断されると、すでに支払われた金額の返還を求められるケースもあります。
つまり、工事を完了していても「代金ゼロ」「損失のみ」という最悪の事態に陥る可能性があるのです。
また、契約が無効と判断された場合、代金の回収は民法上の「不当利得返還請求」や「事務管理」による請求しかできません。
認められる金額は材料費や人件費の一部に限られることが多いです。
そのため、工事代金の全額回収は極めて困難になります。
さらに、施主が「無許可業者との契約は無効」と主張して支払いを拒否するだけでなく、元請業者が「下請が無許可だった」として支払いを停止するケースもあります。
代金未回収が発生すると、資金繰りの悪化・従業員への給与遅延・仕入先への支払い不能など、事業全体に深刻な影響を及ぼします。
特に中小企業では、1件の未回収が倒産リスクに直結することもあるため、許可取得によるリスク回避は極めて重要です。
行政処分・営業停止の影響
無許可工事が発覚すると、営業停止などの行政処分をうけることとなります。
営業停止処分の主な原因には、以下のようなものがあります。
- 無許可請負(建設業許可未取得での工事受注)
- 名義貸し(他社の許可を形式的に使用)
- 経営業務管理責任者、専任技術者の不在
- 社会保険未加入・下請法違反
- 再違反・重大事故の隠蔽
また、営業停止により受ける主な影響は以下の通りです。
- 公共工事の指名停止・入札資格喪失(最長24か月)
- 民間取引先・金融機関からの契約解除・融資停止
- 社員・職人の離職リスク、下請業者への波及
- 許可取消処分への連鎖(再違反・虚偽報告など)
処分が確定するとその内容は官報や自治体の公報に掲載され、企業名が公に晒されますので社会的信用の失墜は避けられません。
その結果、取引先からの契約打切りや、金融機関からの与信評価低下が連鎖的に発生することもあります。
営業停止期間中に無許可営業を行った場合、最終的には「許可取消処分」が下される可能性が高くなります。
この処分を受けると、原則として5年間は新規許可が取得できず、事業再生のハードルが極めて高くなります。
「停止期間中は別会社で工事を請け負えば問題ない」と考える企業もありますが、行政は“実質同一性”を厳しく審査します。
役員構成・資本関係・事業内容が旧会社と類似していれば、許可申請は却下される可能性があります。
社会的信用の失墜と廃業リスク
ある日突然、SNSやニュースサイトに自社名が掲載され、炎上の渦中に巻き込まれたらどうなるのでしょう。
建設業界において信用は命綱です。
元請・施主・金融機関・職人のすべての関係者が、信用を前提に取引をしています。
その信用が一度でも失墜すれば、事業の継続は極めて困難になります。
建設業における信用とは、単なる評判ではありません。
この信用が失われると、事業のあらゆる面に影響が及びます。
とくに金融機関は、行政処分歴を重視します。
融資審査では「監督処分歴あり=法令遵守意識が低い」と判断され、信用格付けが下がることで、借入限度額の縮小や金利上昇が発生します。
また、元請業者は「コンプライアンス違反の下請を使っていた」として、監督責任を問われることがあります。
その結果、元請自身が指名停止処分を受けるケースもあり、連鎖的に信用が崩れていくのです。
「無許可で工事をしていた会社」「行政処分を受けた業者」として、ネット上に半永久的に情報が残り、ブランド価値が毀損されます。
また、信用を失った企業が再起を図るには、膨大な時間とコストが必要です。
行政処分歴のある企業は、再許可取得において厳格な審査を受け、再発防止策の提出・監査対応などが求められます。
それでも、元の信用を取り戻すには数年単位の努力が必要となります。
よくある質問

無許可工事に該当するかなど、よくある質問をまとめました。
元請が許可を持っていればOK?
答えはNOです。
建設業法では、各業者がそれぞれの施工責任に応じて許可を取得することが求められており、元請の許可でカバーされるわけではないのです。
「うちは元請が許可を持っているから大丈夫」「下請だから関係ない」といった認識は誤ったものです。
同意書や契約書があれば合法?
施主から同意書ももらっている場合、正式な工事と思われるかもしれません。
しかしその同意書は、法的にはなんの効力もない可能性もあるのです。
建設業法違反の工事に対して、仮に施主から同意を得ていたとしても、行政処分や契約無効のリスクが免除されるわけではありません。
まとめ
無許可業者による施工は、工事が完了していても安心とは限りません。
法令違反が発覚すれば、営業停止や契約無効・代金未回収などの深刻なトラブルに発展する可能性があります。
さらに、建物の除却命令(取り壊し指示)が出されることもあり、施主や元請業者にも責任が及ぶケースもあります。
信用の失墜により企業活動の継続が困難になることもあり、違反リスクは決して軽視できません。
建設業許可は単なる形式ではなく、法令遵守や社会的信用を守るうえで不可欠な制度なのです。
おさだ事務所は建設業許可に関する様々なご相談を承っています。
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【参考サイト】
建設業者への指導・監督等について | 建設産業 | 国土交通省 関東地方整備局
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建設業無許可で違反が発覚!どこに通報する?建設業法の違反例と監督処分 | 建設業専門 おさだ事務所