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【建設業】自社施工における労災保険の加入義務と元請の定義とは?法令ごとの違いを解説!

建設業者が自社の社屋や社宅などを建てる「自社施工」のケースでは、元請の定義や労災保険の加入義務について混乱が生じやすくなります。

実際に、「自社施工の場合、労災保険は誰が加入するのか?という質問をよく耳にします。

とくに、外注業者を使う場合に元請は誰なのかと不安を感じる方も少なくありません。

今回は、自社施工における元請の定義や労災保険の加入義務について、建設業法・労働基準法・労働安全衛生法それぞれの視点からわかりやすく解説します。

自社施工とは?

建設業
労働保険
労災保険
自社施工
単独有期
一括有期
元請
下請
発注者

「自社施工」では、労災保険や元請の定義に関して誤解が生じやすくなります。

施工体制や外注の有無、現場に誰が入るかによって、制度上の責任や保険加入義務も変わってきます。

自社施工のしくみ

「自社施工」とは、建設業者が自社のために建物や施設の建設工事をすることを指します。

自社施工の特徴は、発注者と施工者が同一であるという点です。

一般的な請負工事のように、他人から工事を依頼されて報酬を得るわけではないため、工事代金(対価)の授受が発生しません。

このため、建設業法上の「請負工事」には該当せず、建設業許可は不要とされています。

ただし、工事の実施にあたって自社の従業員を使用する場合には、労働者を使用する事業としての責任が発生します。

さらに自社施工であっても、工事の一部を外部の下請業者に委託する場合には、労働基準法の考えが適用されます。

すなわち、元請事業者としての立場を持ち、下請に関する労災上の責任が生じます。

自社施工の具体例

自社施工の具体例としては、社宅や本社ビル、倉庫、工場などの建設が挙げられます。

また、営業拠点の新設や老朽化した施設の建て替えなども、自社施工に含まれます。

さらに、展示場や資材置き場など、業務に付随する施設の建設も自社施工の一例です。

元請の定義と法令ごとの解釈の違い

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労災保険
自社施工
単独有期
一括有期
元請
下請
発注者

建設業に関わる法令は複数存在し、それぞれが異なる視点で事業者の立場や責任を定めています。

これらを正しく理解しておかないと、許可の必要性や、労災保険の加入義務や安全管理の責任範囲など思わぬトラブルにつながる可能性があります。

次に建設業にかかわる法令についてその解釈の違いをみていきましょう。

建設業法における元請の扱い

建設業法における「元請業者」とは、発注者から直接工事を請け負う事業者を指します。

つまり、契約の相手が発注者である場合、その事業者は元請として扱われます。

これは、施工の実態や現場管理の有無にかかわらず、契約関係に基づいて定義される点が特徴です。

たとえば、自社が社宅や本社ビルの建設を外注業者に依頼した場合、その外注業者が発注者と直接契約していれば、建設業法上は外注業者が「元請業者」となります。

元請業者には、下請業者の選定や施工体制の管理、建設業許可の要件遵守など、法令上の責任が課されます。

また、元請業者は施工体制台帳の作成や、建設業法に基づく技術者の配置義務なども負うため、契約時点での立場の整理が重要です。

施工金額や工事内容に応じて、元請としての責任範囲が広がることもあるので注意が必要です。

労働基準法では元請の定義が存在しない理由

労働基準法では「元請業者」という定義が存在しません。

これは、同法が請負契約の構造ではなく、労働者と使用者との雇用関係を中心に設計されているためです。

つまり、誰が工事を発注したかではなく、誰が労働者を直接雇用しているかが、制度上の判断基準となります。

たとえば、建設現場で働く職人が外注業者に雇われている場合、労働基準法上の責任はその外注業者にあります。

また労働基準法は、現場の実態で判断をする傾向にあります。

発注者が労働者に対して実質的に指揮命令していると判断されれば、労働基準法上では発注者に労災保険の加入義務が発生します。

請負契約よりも実態を優先する判断がされる可能性が高いのです。

このように、労働基準法では「元請・下請」という建設業特有の階層構造を前提としていないため、元請という言葉自体が制度上登場しないのです。

労働者の保護を目的とした法律である以上、雇用関係の有無や実態が判断軸となります。

労働安全衛生法における元方事業者の責任

労働安全衛生法では、建設工事において複数の事業者が同じ現場で作業する場合、元方事業者に安全管理の責任が課されます。

元方事業者とは、現場全体を統括する立場にある事業者のことで、発注者か施工業者かにかかわらず実質的に現場を管理している側が該当します

自社が現場を実質的に統括指揮している場合、労働安全衛生法上は『元方事業者』として安全管理責任が生じます

発注者が現場に関与する度合いにより、元請・元方としての実務負担が変わります。

元方事業者には、作業間の調整、危険防止措置の実施、関係業者への安全教育など、幅広い義務が課されます。

これらを怠ると、事故発生時に重大な法的責任を問われる可能性もあります。

安全管理は契約書だけではなく、現場運営の実態に基づいて判断される点にも注意が必要です。

自社施工における労災保険の加入義務の有無

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自社施工
単独有期
一括有期
元請
下請
発注者

建設業者が自社の社宅や本社ビルなどを建てる自社施工では、労災保険の加入義務が誰にあるのか判断に迷うことがあります。

とくに、発注者と施工者が同一であるため、元請としての責任が発生するのかどうかが分かりづらいという声も多く聞かれます。

自社が元請となる場合と、外注業者が元請になる場合がありますので、その判断の違いを詳しく見ていきましょう。

自社社員が現場作業を行う場合の加入義務

自社施工において、自社の社員が現場で直接作業に従事する場合は、原則として労災保険の加入義務が自社に発生します。

たとえ施工対象が自社所有の建物であっても、社員が現場で肉体労働や技術作業を行うのであれば、継続事業としての労災保険に加入している必要があります。

通常、元請の建設業者であればすでに継続事業として労災保険に加入しているため、追加の手続きは不要な場合もあります。

また、施工管理や軽作業であっても、現場に入る以上は労災事故のリスクが伴います。

万が一の事故に備え、保険の適用範囲を明確にしておくことが、企業としての責任ある対応につながります。

自社が施工に関わらず業者が工事をする場合の加入義務

自社ビルなどの工事の際に、自社は建設工事に全くかかわらず実際の工事を自社と取引のある外注業者に任せるケースもあります。

この場合は、原則として労災保険の加入義務が自社ではなく外注業者に発生します。

この場合、「自社」はあくまで「発注者の立場」となります。

現場に自社社員が入らない限り、労災保険の加入義務は原則として生じません。

ただし、契約内容や施工体制によっては例外的な判断がされます。

指揮命令を発注者が行っているなど、実態次第では自社に責任追及される可能性もあります。

事前に労働局や監督署へ確認しておくと安心です。

一人親方・個人事業主との契約時の注意点

一人親方や個人事業主と契約して工事を進める場合、労災保険の取り扱いには特に注意が必要です。

法人ではなく労働者でもないため、原則として元請業者の労災保険の対象外となります。

そのため、万が一の事故に備えるには「特別加入制度」に入りましょう。

これは、労働保険事務組合を通じて申請することで、一人親方自身が労災保険に加入できる制度です。

契約前に加入状況を確認し、未加入の場合は特別加入を促すことが、元請としてのリスク管理につながります。

いつも取引をしている一人親方や個人事業主は、下請として事業を行っている場合が少なくありません。

この場合は一人親方や個人事業主は労災保険に加入していない可能性があります。

また、労災保険の加入について詳しくない場合もあるので、元請として労災保険に加入する必要がある場合について伝えておくとよいでしょう。

単独有期事業の制度と外注業者の加入義務

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単独有期事業とは、一定規模以上の建設工事に対して元請業者が個別に労災保険の保険関係を成立させる制度です。

これに対し、一括有期事業(継続事業)とよばれる労災保険の加入制度も存在します。

両社について詳しく説明をしていきます。

単独有期事業の成立要件

単独有期事業の成立要件は明確に定められており、以下のいずれかを満たす場合に適用されます。

  • 元請の請負金額が目安として1億8,000万円(税抜)以上であること
  • 概算保険料が目安として160万円以上となること

概算保険料とは、労働保険の見込み保険料額をいいます。

この要件を満たすと、元請業者は工事ごとに保険関係成立届を成立より10日以内に提出しなければなりません。

元請が直接雇用していない下請の労働者に対しても、現場を統括する立場にある以上、制度上の責任を負うことになります。

なお、単独有期事業の要件を満たさない場合は「一括有期事業」として処理されるため、保険の取り扱いが異なります。

外注業者が元請に該当するケースの判断

自社が発注者であり現場に自社の労働者が入らない場合は、原則、労災保険の加入義務はありません。

基本的には、発注者(自社)から直接工事を請け負い、現場の施工を統括する立場にある業者が「元請」とされます。

外注業者が工事の実施主体であり、契約上も施工責任を負っているならば、外注業者が元請として扱われるのが原則です。

ただし、現場で発注者が労働者に対して実質的な指揮命令を行っていると判断されれば、発注者が責任追及される場合もあります。

一方、自社の労働者が現場に入る場合は、元請業者は「自社」と判断される可能性があります。

労災保険に関する重要な事項ですので、必ず事前に監督署や労働局へ確認しましょう。

契約金額の変動と保険関係の切り替え対応

契約金額が当初は税抜き1億8,000万円未満であっても、追加契約や設計変更などにより総額が基準を超える場合には注意が必要です。

契約金額が途中で増額された場合は、元請業者が速やかに労働局へ相談し、保険関係の切り替えが必要かどうかを確認することが重要です。

一括有期事業として処理していた工事でも、金額超過後は単独有期事業への切り替えが求められるケースがあります。

対応が遅れると、保険未加入期間が発生するリスクもあります。

制度の運用は地域によって若干異なることもあるため、管轄の監督署や労働局に確認するようにしましょう。

自社施工の労災保険加入は必ず確認を

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一括有期
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発注者

建設業において労災保険の加入はとても重要です。

加入のミスや未加入があると、非常に大きな問題となる場合もあります。

元請業者はしっかりとその制度を理解し、下請業者の加入状況や制度概要の周知を徹底させる必要があるのです。

次に、自社施工の労災保険の加入についてまとめました。

法令ごとの立場の違いを理解

「元請」という言葉について、建設業法・労働基準法・労働安全衛生法では意味合いや適用範囲が異なります。

上記で解説したとおり、建設業法では契約関係に基づいて元請が定義されますが、労働基準法では雇用関係や実態が判断軸となり基本的に元請という概念自体が登場しません。

一方、労働安全衛生法では、現場を統括する事業者に「元方事業者」としての安全管理責任が課されます。

このように、法令ごとに立場の捉え方が異なるため、制度の背景を踏まえたうえで実務対応を考えることが重要です。

契約書の文言だけでなく、現場の実態や法令の趣旨の理解も求められます。

施工体制に応じた労災保険の加入判断

労災保険の加入義務は、施工体制によって大きく変わります。

誰が現場で作業を行い、誰がその労働者を雇用しているかが、制度上の判断軸となるためです。

自社施工として自社社員が現場に入る場合は、自社が継続事業として労災保険に加入している必要があります。

一方、施工を外注業者に任せており自社が現場に関与しない場合は、基本的には外注業者が元請として保険加入の責任を負うことになります。

さらに、請負金額が一定額を超えると、業者には単独有期事業としての保険手続きが求められるケースもあります。

また、一人親方や個人事業主との契約では、特別加入制度の活用が不可欠です。

施工体制が複雑になるほど保険の扱いも多様化するため、契約前に責任の所在を明確にしておくことが重要です。

制度の誤解を防ぎ万が一の事故にも備えられるよう、現場の実態に即した判断が必要です。

リスク回避のための契約・制度対応のポイント

  • 契約書に「労災保険の加入状況」「元請・下請の立場」「安全管理の責任範囲」を明記する
  • 外注業者が単独有期事業の要件(税抜で1億8,000万円以上)を満たす場合は、保険関係成立届の提出を促す
  • 一人親方・個人事業主との契約時は、特別加入制度の活用を事前に確認する
  • 自社社員が現場に入る場合は、継続事業としての労災保険加入状況を再確認する
  • 契約金額の増額や設計変更があった場合は、保険制度の切り替えが必要か労働局へ相談する
  • 制度の運用は地域差があるため、監督署や労働局との事前連携を欠かさない

自社施工や外注業者との契約において、労災保険や元請の責任を正しく理解しておくことは、トラブルを未然に防ぐうえで非常に重要です。

制度の誤解や責任の曖昧さは、万が一の事故時に大きな法的リスクにつながる可能性があります。

これらの手続きや実務上の判断要素は地域によって異なります。

特に重要な法解釈は個別事例によって左右されることもあります。

事前に所轄の労基署に確認を必ずするようにしましょう。

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【参考サイト】

守る責任。加入する義務。労働保険特設サイト|厚生労働省

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