建設業界は、慢性的に人手不足が続いています。
特に若手の職人が集まらず、一方でベテランの高齢化が進んでいます。
そんな中、注目されているのが海外からの技能実習の受け入れです。
とはいえ、「どんな作業を任せられるの?」「手続きが複雑そう」といった声も多く聞かれます。
今回は、建設業における技能実習生の受け入れについて、制度の仕組み・作業内容・対象職種などを解説していきましょう。
技能実習制度とは

技能実習制度は、日本の企業が外国人を一定期間受け入れ、実際の業務を通じて技能や知識を移転することを目的とした制度です。
近年では、建設業をはじめとする人手不足の分野で実習生が活躍しており、企業にとっても貴重な戦力となっています。
しかし、制度には守るべきルールや受け入れ条件も多く、正しい理解と適切な運用が必要です。
制度の概要
技能実習制度は、技能実習法に定められている国の制度です。
技能実習制度の特徴は、単に外国人を雇用するだけではなく教育と技術の習得も併せて行う点です。
技能実習制度は3段階に分かれており、実習生は段階ごとに技能検定を受けながら、最長5年間の在留が可能となっています。
- 技能実習1号:入国後1年以内(基礎的技能)
- 技能実習2号:2〜3年目(実践的技能)
- 技能実習3号:4〜5年目(優良な一般監理団体のみ)
監理団体とは
技能実習生は監理団体によってサポートを受けながら技術を習得します。
この監理団体とは、外国人技能実習生を受け入れる企業を監督・指導するために設立された団体のこととです。
監理団体は、技能実習生を受け入れている企業が法令やルールに則って実習を行っているかを定期的にチェックします。
また、技能実習生の生活支援や相談対応、日本での適応支援なども行います。
さらに実習生の人権侵害や不適切な扱いがないか監視し、必要に応じて改善を企業に指導します。
監理団体による教育
技能実習生は入国後、監理団体による約1ヶ月間の講習を受けます。
その主な内容は以下の通りです。
- 日本語(あいさつ、現場用語、生活会話)
- 生活指導(ゴミ出し、交通ルール、買い物の仕方)
- 労働安全衛生(KY活動、保護具の使い方)
技能実習制度の義務として定められており、日本社会で安心して生活・就労するための知識を身につけます。
監理団体による指導
監理団体は技能実習生が安心して働けるよう、監理団体は受け入れ企業に対して指導をします。
実習先の企業を定期的に訪問し、実習内容が計画通りに進んでいるか、労働時間や賃金、住環境に問題がないかを確認します。
実習生からの聞き取りも行い、パワハラや差別的な扱いがないかも細かくチェックします。
万が一、ルール違反や改善が必要な点が見つかった場合は、具体的な改善方法を伝え、企業側に対応を促します。
育成就労制度とは
技能実習制度は今後段階的に廃止され、「育成就労制度」に一本化される見込みです。
2027年度中の導入を目指し、制度設計が進行中です。
この育成就労制度とは、現在の技能実習制度に代わる新たな外国人労働者の受け入れ制度として、政府が導入を予定している制度です。
これまでの技能実習の目的は「人材育成」でしたが人手不足を補うための労働力として使われる場面も多く、制度の趣旨と現実との間にずれが生じていたのも事実でした。
新制度では、日本への定着を目的としており、実習先の企業変更も柔軟に認められるなど実習生にとっても働きやすい環境となると予測されています。
特定技能制度とは

特定技能制度とは、日本で深刻化する人手不足に対応するため一定の専門性や技能を持つ外国人を受け入れる制度です。
建設業、介護、農業などの分野で広く活用されており、技能実習から移行するケースも増えています。
制度の概要
2019年にスタートした特定技能制度ですが、現在は「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つの区分があります。
特定技能1号は、建設業、介護や外食など12分野で即戦力となる人材を対象としており、在留期間は最長5年です。
一方、特定技能2号は、より高度な技能を持つ人が対象で家族の帯同や永住が可能です。
技能実習と異なり、労働者としての立場が明確であり、転職や労働条件の改善も比較的柔軟になっています。
この制度により、外国人が日本でキャリアを積みながら安定的に働くことが可能で、受け入れる企業にとっても貴重な人材確保の手段となっています。
技能実習と特定技能の違い
技能実習と特定技能は、どちらも外国人が日本で働く制度ですが、目的や制度内容に大きな違いがあります。
まず、技能実習は「技術移転による国際貢献」を目的としており、実習生は労働者ではなく「研修を受ける立場」とされています。
そのため、転職は原則できず、実習期間も最長5年に制限されています。
一方、特定技能は「人手不足の分野で即戦力となる外国人材を受け入れること」が目的で、全14分野で受け入れが可能です。
特に建設業においては特定技能2号へ移行することが可能であり、在留期間の制限もありません。
技能実習から特定技能への移行
建設業で技能実習から特定技能へ移行するには、いくつかの条件があります。
まず、技能実習2号を「良好に修了」していることが前提です。
これは、実習計画に沿って一定期間を終え、技能評価試験に合格すれば大丈夫です。
建設業の場合、この条件を満たしていれば特定技能1号への移行に必要な技能試験と日本語試験が免除されます。
建設分野では以下の11職種が特定技能1号の対象です。
- 型枠施工
- 鉄筋施工
- 左官
- とび
- 配管
- 建築大工
- 内装仕上げ
- 屋根ふき
- 電気通信
- 建設機械施工
- 防水施工
建設業・技能実習生の受け入れ方法

特に高齢化や若年層の就業離れが進む建設業界では、技能実習制度を活用して海外から意欲ある人材を迎える企業が年々増加しています。
また、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録や監理団体との連携など、他業種にはない特有の要件も存在します。
そして、建設分野の技能実習は「団体監理型」が原則で、企業単独型はほぼ認められていないことも特徴です。
受け入れの要件
建設業で技能実習生を受け入れるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録が完了していること
- 建設業許可を取得していること(対象作業に関する業種であること)
- 過去に重大な不正行為や法令違反がないこと
- 実習計画を適切に作成し、外国人技能実習機構の認定を受けていること
- 監理団体を通じた受け入れであること(原則として企業単独型は不可)
- 実習指導員・生活指導員を社内に配置していること(各1名以上)
- 日本人と同等以上の労働条件(賃金・労働時間など)を確保していること
- 実習に必要な教育体制と作業環境が整っていること
- 技能実習生に適切な住居(寮など)を提供していること
単に人手不足を補う目的だけでの受け入れは認められず、企業側は教育と技能移転という制度の趣旨に沿った対応をする必要があります。
受け入れの方法
どのようにして実習生を受けれるのか、ここからは段階的にみていきましょう。
申請の流れ
まず、企業は監理団体を決め、実習生受け入れの意思を伝えます。
次に、監理団体が送り出し国の機関と連携し、候補者を募集・選抜します。
その後、企業と実習生の間で雇用契約を結び、受け入れ企業は実習内容をまとめた「技能実習計画」を作成します。
この計画は、外国人技能実習機構の認定を受けなければなりません。
認定が下りると、在留資格認定証明書の申請やビザ手続きが進められ、実習生が来日します。
繁忙期や国によってかかる期間は異なるため、早めの準備が肝心です。
申請に必要な書類
技能実習生受け入れ時に必要な主な書類は以下のものとなります。
- 技能実習計画書
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 住居関連の書類
- 実習指導員・生活指導員の選任届
- 教育計画書(入国後講習・安全衛生教育)
- 会社の登記事項証明書・定款
- 直近の決算書(損益計算書・貸借対照表)
- 在留資格認定証明書交付申請書
申請において最も重要なのが技能実習計画書です。
計画書には実習内容や指導体制を詳細に記載し、外国人技能実習機構の認定を受けます。
そのほか、雇用契約書や労働条件通知書、住居に関する資料、指導員の選任届、教育計画書なども必要です。
申請の注意点
技能実習計画書の内容と雇用契約書、労働条件通知書に矛盾があると、審査が滞る原因になります。
また、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録が義務付けられており、企業だけでなく実習生本人の登録も必要です。
また、住居や生活支援体制の不備があると、不認定や受け入れ停止につながることもあります。
さらに、実習生の人数枠は常勤職員数に応じて制限されています。
企業の体制が問われる申請ですので、見せかけだけでなく実態のある環境や労務管理が必要になります。
技能実習生ができる建設業の作業

建設業における技能実習生の扱いは複雑です。
トラブルを防ぐには、受け入れ前に「職種と作業範囲」を正確に理解しておくことが不可欠です。
職種と作業範囲
技能実習生ができる建設業の作業は以下の11種類となっています。
- 型枠施工
コンクリート打設のための型枠の加工・組立・解体など - 鉄筋施工
鉄筋の切断・曲げ加工・組立および取り付け作業 - とび(足場の組立等)
足場・支保工の組立・解体、高所作業の補助など - 左官
モルタルやプラスターを使用した壁面・床面の塗り仕上げ作業 - タイル張り
内外装の壁や床にタイルを貼る作業 - 石材施工
石材の切断・加工・研磨・据付などの施工全般 - 配管
給排水・空調・ガスなどの配管設置や接続作業 - 建築大工
木造建築物の骨組み、床、天井、内装の組立や仕上げ作業 - 屋根ふき
瓦、金属板、スレートなどを使用した屋根の施工 - 内装仕上げ施工
ボード貼り、壁紙・床材の施工など建物内部の仕上げ作業 - 電気通信
LAN配線、ケーブル敷設、通信機器の設置・接続・保守
また、技能実習・特定技能いずれも、国土交通省や外国人技能実習機構のガイドラインに従って実施されなくてはなりません。
建設業・技能実習生受け入れの注意点

実習生の受け入れには、通常の労働者とは異なるルールや制度上の制限があるため、企業側には細かな配慮と正確な対応が求められます。
制度上のルールを守らなければ、監理団体や行政機関からの指導・是正対象になる可能性もあります。
まずは、受け入れ時メリット・デメリットについて説明していきましょう。
企業にとってのメリット
建設業で技能実習生を受け入れることには、企業にとってさまざまなメリットがあります。
- 慢性的な人手不足の解消
- 技術の継承と標準化
- 若手人材の活性化
まず一番の利点は、慢性的な人手不足の解消につながる点です。
実習期間中に技能を習得しながら就業してもらえるため、一定の教育を前提とした中長期的な人材育成が可能です。
その他にも、東京都の建設業で技能実習生を受け入れる際は、国の人材確保等支援助成金や、都の外国人従業員研修等支援助成制度を活用できる場合もあります。
この際には自社の状況を確認し、労働局・都庁の制度概要や相談窓口に相談するのがおすすめです。
企業にとってのデメリット
技能実習生を受け入れる際には、メリットだけでなく、企業側にとってのデメリットや負担もあります。
- 手続きが煩雑
- 言語・文化の壁によるトラブルリスク
- コストが高い
まず大きな課題は、受け入れ準備や管理にかかる手間とコストです。
監理団体とのやり取り、実習計画の作成、書類の整備、実習指導員や生活指導員の配置など、通常の雇用よりも手続きが複雑で時間がかかります。
また、来日直後は日本語や日本の生活習慣に不慣れなため、現場でのコミュニケーションに時間と労力が必要です。
住居や生活面の支援も必要で、企業の負担は決して小さくありません。
また、「即戦力」ではなく「育成」が前提の制度であるため、短期間で戦力化したい企業には不向きです。
受け入れ時の注意すべきルール
技能実習生を受け入れる際には、法令や制度に基づいた適切な管理が求められます。
- 最低賃金の遵守
- 適切な住居の提供
- 職種外作業の禁止
重要なのが、最低賃金の遵守です。
実習生も日本人労働者と同様に扱う必要があり、これを下回る賃金を支払うと労働基準法違反となり処罰や指導の対象になります。
特に建設分野では月給制が義務付けられており、日給・時給制は不可となっています。
次に、適切な住居の提供も必須です。
技能実習制度では、外国人が従事できる作業が厳密に定められており、実習計画に記載された業務以外の仕事に従事させると違反になります。
【参考サイト】
おさだ事務所では、建設業者の方の様々な相談を承っています。
長年の経験とノウハウで経審対策もばっちりです。建設業許可の取得などでお困りのことがあればぜひおさだ事務所までご連絡ください。