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【建設業者】報告は義務?初心者でもわかる建設工事施工統計調査の書き方と提出のコツ!

6月に入ると一定の建設業者に「建設工事施工統計調査」が送られてきます。

この調査は対象の業者とそうではない業者がおり、初めて送られてきた業者は戸惑ってしまうことでしょう。

そもそも「建設工事施工統計調査ってなに?」「調査だから提出しなくてもいいの?」と疑問を持っている方もいるのではないでしょうか?

今回は、建設工事施工統計調査の概要から、任意調査の具体的な書き方、提出のメリット・注意点まで、わかりやすく丁寧に解説します。

 調査票を書くのが初めての方はぜひ参考にしてください。

建設工事施工統計調査とは?

建設業を営む業者には様々な調査依頼がきます。

毎年来るものや、突然調査依頼されるもの、任意のものから義務のものまで様々です。

そのうちの一つである「建設工事施工統計調査」について説明していきましょう。

建設工事施工統計調査の概要

建設工事施工統計調査とは、国土交通省が毎年行っている統計調査のことです。

全国の約48万業者の中から抽出された約11万業者が対象となります。

建設業者が施工した前年度(業者ごとの決算)の建設工事の完成工事高等を調査し、建設業の実態・建設活動の内容を明確にし、経済政策、建設行政等に役立たせることを目的としています。

この調査の結果は、政府の政策決定の基礎データとなるほか、建設業界全体の動向分析にも使われるなど幅広く活用されています。

また調査票の内容は保護され、調査関係者には守秘義務が課せられますので提出した情報はしっかりと守れます。

調査対象期間は直前の3月31日までの年度となります。

施工統計調査の提出締め切りは7月末で、その後集計が行われ、翌年の3月末に公表されます。

建設工事統計調査の調査内容

施工統計調査では具体的には次の項目の調査が行われます。

  1. 経営組織
  2. 資本金又は出資金
  3. 有形固定資産(土地を除く)
  4. 業態別工事種類
  5. 就業者数
  6. 年間完成工事高
  7. 兼業売上高
  8. 年間受注高
  9. 建設業の付加価値額及び原価等

これらの調査で得た数値を建設業者数全体値として算出しなおし、調査結果として公表されます。

公表結果から、前年度の建設業の完成工事高や労働者数、雇用の状態、都道府県別の業者数など1年間の建設業の実態がわかります。

建設工事施工統計調査の対象業者

建設工事施工統計調査の対象業者は建設業許可を有する業者です。

依頼が来る業者とそうではない業者がいて、対象の11万業者の抽出方法には決まりがあります。

まず基本的に、大臣許可業者はすべて対象となります。

知事許可業者については、資本金又は出資金が3千万円以上の業者は全数抽出です。

また、舗装、板金、さく井工事業の許可を有する業者は全数抽出され、そのほかの業種の許可業者は完成工事高などの条件によって一定の判断基準により選ばれます

毎年必ず調査依頼がくるわけではありません

建設工事受注動態統計調査とは

施工統計調査とは別に、「建設工事受注動態統計調査」と呼ばれる同じような名称の調査もあります。

これと「建設工事施工統計調査」のとの違いは以下のようになります。

建設工事施工統計調査(施工統計)
目的:実際に施工された建設工事の実績を把握すること。建設投資額の算出やGDPの基礎資料に活用
対象:ある一定の条件をみたす国内約11万業者
調査内容:工事の種類、工事費、工事の場所、従業員数、兼業割合、財務状況など
調査方法:調査票による直接調査
調査頻度:一年に一回

建設工事受注動態統計調査
目的:建設業者が受注した工事の動向を把握すること。経済動向の早期把握や建設投資の見通しに活用
対象:建設工事施工統計調査において前々年度完工高が1億以上の業者から抽出された約1万2千業者
調査内容:工事名、施工場所、請負金額、工事区分、発注者の区分(官公庁・民間)、完成予定年月、請負方式(単独・JV)など
調査方法:調査票による直接調査
調査頻度:毎月

工事対象は、「施工統計調査」では対象年度内に実際に施工された国内の工事であり、「受注動態統計」は調査対象月に受注をした国内工事となります。

「施工統計調査」は、実際に建てられた・造られた工事の実績を示す「結果」重視の調査であり、「受注動態統計」は、建設会社が新たに受注した仕事の状況を示す「先行指標」となるのです。

両方の調査により、「建設業界の過去の実績(施工統計)」と「今後の動き(受注動態統計)」の両面から、建設業界の動向を分析することが可能になるのです。

法的義務がある調査

建設工事施工統計調査は、調査に回答する義務(報告義務)が定められています。

よって調査依頼が来た場合は基本的に提出しなければなりません。

しかし、工事実績が全くなかったり、中小企業などで完成工事高も少ない事業者などからは調査の協力に消極的な場合もあります。

統計調査はこのような企業の実体も把握する必要があり、たとえ規模が小さくてもその事実を反映させる必要があるので、調査依頼が来た場合は報告するようにしましょう。

建設工事施工統計調査の回答状況

次に実際に数でみてみましょう。

令和6年(令和5年度分)の調査では、調査対象業者数は110,356業者であり、うち提出した業者は62,364業者と全体の57%程度になっています。

さらに提出業者のうち、実績を記入していた業者は95%であり、少数ではありますが調査の趣旨が理解されていない部分があるのも事実です。

建設工事施工統計調査に提出するメリット

建設工事施工統計調査の提出は基本的に義務となっています。

6月はそのほかの法的な手続きが多く、そのような多忙な時期に調査票を作成することは大変ですが、提出することで次のようなメリットが考えられます。

信用力の向上につながる
建設業界の今を知るために役立つ
自社の動向が一目でわかる


きちんと提出している建設業者は、「報告義務を誠実に果たす会社」としてその社会的な信用が上がる可能性があります。

金融機関や発注者との取引においても、きちんと統計調査を出していることがプラスに働くかもしれません。

特に元請として大型案件に関わっていきたい事業者にとっては、信頼の積み重ねが大きな武器となります。

集計結果は今後の建設業を発展させるためのデータとして使われますので、調査に協力することで社会への貢献にもつながります。

また、「工事をどれだけやっているか」を客観的に証明できる統一書式の資料は意外に少ないため、統計調査の写しは保管しておきましょう。

毎回保存しておけば、一目で自社の経営状況もわかります。

建設工事施工統計調査票の作成と提出

毎年調査に協力している大臣許可業者や大手の建設業者等にとっては、記入はそれほど難しくはありません。

しかし、提出業者は任意抽出のため、初めて調査依頼が来た業者は作成に戸惑うことでしょう。

次に施工統計調査の書き方について解説していきます。

準備する書類

建設工事施工統計調査の際に準備をしておく書類は下記のものになります。

  • 建設工事施工統計調査票
  • 貸借対照表(直近年度分)
  • 損益計算書(直近年度分)
  • 工事経歴書(直近年度分)
  • 【法人】直前3年の各事業年度における工事施工金額(直近分)
  • 【法人】完成工事原価報告書(直近年度分)

まず、調査の対象業者宛てに調査票が送られてきます。

回答はこの調査票に記入するほか、インターネットでの電子データの調査票に入力もできます。

対象期間は直前3月31日までに終了した直近の決算期のものです。

貸借対照表や完成工事原価報告書などは、自社の決算終了後4か月以内に提出する「決算変更届」「事業年度終了届」の財務諸表から準備しましょう。

直近年度の決算でまだ決算変更届が作成できていない場合は、所得税確定申告書から転記することも可能です。

工事に関する記載についても決算変更届から工事経歴書を参考にします。

工事経歴書の作成ができていない場合でも、日ごろから工事台帳を整理しておくと慌てないで済みます。

調査票の内容

記載する内容は次のものになります。

  • 企業名および所在地
  • 経営組織(個人か法人か、大臣許可か知事許可か)
  • 資本金または出資金の額
  • 有形固定資産の額
  • 就業者数
  • 国内建設工事の年間完成工事高
  • 兼業の売上高(建設業以外の売上)
  • 国内建設工事の年間受注高
  • 建設業の付加価値額および原価等(経費、材料費、労務費、外注費、租税公課、営業損益、減価償却費)
  • 記入した担当の所属・氏名・連絡先、報告義務者の氏名

記載方法は手引きがありますので参考にしましょう。

記載する際の書き方と注意点

調査票の作成の際には細かい注意点があります。

事前にポイントを押さえておくことで作成の際の効率もよくなります。

直前決算期の情報を記入する

調査票に記載する情報は全て直前決算期のものです。

また、年度の違う決算情報を混在させてはいけません。

記載する金額の単位は百万円

金額記入欄は決算変更届の数値を利用しますが、金額の単位に注意が必要です。

決算変更届の単位は千円単位の業者が多いですが、施工統計調査の金額は百万円単位に統一されています。

十万の位で四捨五入して記載しますが、その結果百万円に満たない項目については空欄のままで大丈夫です。

売り上げに関する項目は税込額で記載する

「国内建設工事の年間完成工事高」「兼業売上高」「国内建設工事の年間受注高」については必ず税込の金額で記載します

財務諸表は事業者によって税込と税抜で作成されます。

財務諸表も税込の場合は、右上の税込記載のチェックボックスにチェックを入れるようにしてください。

また、財務諸表は税抜きでも工事経歴書は税込という場合もあります。

建設業に関わる労働者について記載する

兼業がある業者は、建設業の部門とそれ以外の部門に分けて就業者数を記載します。

どちらの部門にも関わっている労働者がいる場合は、売上等の比率で労働者数を按分します。

計算方法は次の通りになります。

建設業部門の就業者数
全従業員数 ÷ (建設業部門の売上+その他部門の売上)× 建設業部門の売上

建設業部門以外の就業者数
全従業員数 ÷ (建設業部門の売上+その他部門の売上)× その他部門の売上

役員の欄は常勤の者の数を記載する

法人の場合は常勤の取締役の数を記載します。

非常勤や社外取締役の数は含めません。

また、役員等が技術者も兼ねている場合は、役員として記載し技術者としての記入はしません

年間完成工事高の業種の区別に注意する

年間完成工事高の業種別の項目は「土木工事」「建築工事・建築設備工事」「機械装置等工事」しかありません。

これらに該当しない業種の工事は手引きにどの分類に該当するかが記載されていますので、いずれかの項目に入れて計算しましょう。

たとえば、解体工事は土木工事に該当します。

電気工事の場合は、送配電線工事であれば土木工事、照明設備工事であれば建築設備工事、変電設備工事であれば機械装置等工事となります。

兼業に該当する売上について

建設業の完成工事高以外の売上はすべて兼業の売上となります。

財務諸表の損益計算書に記載のある兼業事業売上高を記入してください。

建設業の付加価値額および原価等の記載

経費・材料費・労務費・外注費については完成工事原価報告書を基に記載します。

販管費および一般管理費・租税公課・営業損益・減価償却費完成工事原価報告書および損益計算書を見ながら記載します。

兼業がある業者は、販管費および一般管理費・租税公課・営業損益・減価償却費に関しては全体の売り上げに対する建設業の完成工事高の比率を基にして、その比率をかけて按分するようにしてください。

また、営業損益がマイナスの場合は金額の頭に「*」をつけます

記載する際は鉛筆若しくはシャープペンを使用

調査票は機械で読み取りますので、必ず鉛筆またはシャープペンで記入します

間違えた場合は消しゴムで消して正しい値を記入しましょう。

ボールペンでの記入はできません。

報告義務者(法人は代表者、個人は個人事業主)欄はゴム印等でも大丈夫です。

調査票(2)について

調査票(2)は大臣許可業者または法人の知事許可業者で資本金または出資金が2千万円以上の業者が記載の対象です。

元請の工事に関して、施工した都道府県別、発注者の区分別、工事の種類別に分けて完成工事高を記載します。

下請工事については記入しません。

調査票の一番下には、全国の合計額を記載する必要があり、この箇所はよく記載漏れがありますので必ず記載します。

調査票の「国内建設工事の年間完成工事高」とこの調査票(2)の全国の合計の金額は同じ額となります。

このとき、四捨五入するので若干の誤差が生じても問題はありません。

建設業を営んでいないのに調査票が届いた場合

建設業許可を持っている業者あてに調査票が届きますので、中には許可を持っているだけで実際に建設業を営んでいない業者も含まれます。

この場合は、「就業者数」の項目は役員欄には建設業許可の「常勤役員等(経管)」の数を最低一名記載し、その他の従業員は全て建設業以外の部門の従業員として計上します。

また、工事の実績は記入がありませんので、「有形固定資産」「業態別工事種類」「兼業売上高」「記入者の連絡先」「報告義務者氏名」の記載のみで大丈夫です。

提出の手順と公表時期

毎年、7月31日までに都道府県知事あてに申告します。

紙提出の場合は同封の返送用封筒にて郵送にて提出し、電子申請の場合はデータを送信します。

提出の際には、都道府県から内容確認がされる場合もありますので、写しを保管しておくようにしましょう。

写しがあると、翌年以降の書類作成の際の参考にもなります。

提出された書類は8月31日までに都道府県で内容の確認が行われ、その後国土交通大臣に提出がされ、翌年3月末に調査結果が公表されます。

電子報告の方法とメリット

建設工事施工統計調査はオンラインでも提出ができます。

インターネット環境が整っているパソコン、スマートフォン、タブレットから申請が可能です。

対象のブラウザ

オンライン申請には下記のブラウザが推奨されています。

  • Mozilla Firefox
  • Google Chrome
  • Microsoft Edge
  • Safari (PC版、タブレット版)

場合によっては動作が遅かったり対応していない場合もありますので、事前に確認しておきましょう。

報告の流れ

電子調査票を使って報告する流れは次のようになります。

  1. 「政府統計オンライン調査システム」より、電子調査票をダウンロードする
  2. 電子調査票に入力する
  3. 「政府統計オンライン調査システム」に入力した調査票をデータ送信する

「政府統計オンライン調査システム」を利用する際には、事前に調査対象者IDおよびパスワードの取得が必要です。

紙で送られてきた調査票の右上にID・初期パスワードが記載されていますので確認してください。

電子申請のメリット

オンラインで申請するといつでも調査票の提出ができます。

また、調査票の記入ミスがあってもすぐに修正できます。

さらに提出履歴の管理もでき、翌年以降の報告の際にデータが残っていると便利です。

特に複数営業所を持つ建設会社では、各営業所からのデータを集計しすぐに反映させることも可能で業務効率が向上することもあります。

郵送すると行政側も処理が大変ですので、積極的にオンライン申請を利用するようにしましょう

まとめ

建設工事施工統計調査は事業者にとっても国の経済にとっても非常に大切な役割を果たします。

調査票を提出することで、建設業界の今の実態がわかり、また会社の信頼性や実績の裏付けが強化されるかもしれません。

最初は書き方が難しく感じるかもしれませんが、基本のポイントを押さえておけば誰でも対応可能です。

調査票を作成するのは多忙な建設業者にとって手間がかかるかもしれませんが、調査対象の業者は報告義務となっていますので極力報告するようにしましょう。

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